読んでいて淡々と感じたのは、ガンッと強く心に残る鬼胎に似たモノでした。
悠々として、流れるような言葉によって描かれる世界が、私をより一層怪談の世界に引き込んで、そしていつしかその世界の人々の心に刻まれた感情を直に植えられるように想えて来るのです。
とても不思議な体験です。
では、私が感じたモノは一体何だったでしょうか。
読後の無心感の中に確かに残る、この滔々とした、何か。
到底一生のうちに覚えるモノではないのに、確かにこの心のうちに感じている、何か。
最早誰のものとも分からない、何か。
あまりに掴み難く、言葉も絞り出せないことではあるけれど、これが本当にあの世界の人の感情だと言うのならば、憎悪と愛に溶かされた彼女の心に浮かんだ感情ならば。
きっとこれこそが「愛憎」と呼ぶに相応しいでしょう。