ようやく状況理解
「............ホントのこと言っても怒らない......?」
「ごめん、怒らないかは、話の内容によると思う」
「じゃあ言わない」
ぷいっとそっぽを向く柚津。
梨樹人も適当に嘘をつけばいいのに無駄に正直に答えるところは、美徳と言うべきか玉に瑕というべきか。
「頼む、ちゃんと知っておきたいんだよ。もしこれから柚津のこと愛すことにするにしても、有耶無耶にしてたらだめだと思うから」
「......むぅ。そこまで言うなら。わかった」
「......!
ほんとか!ごめんな、ありがとう」
「えっと、まず、あのビンとか薬は柚津が飲んだわけじゃなく、昨日の飲み物に混ぜてりっくんに飲ませました」
急に素直に答えるな。しかもとんでもないことをしでかしてくれてやがる。
というかやっぱりあの精力剤は俺が飲まされてたのか。
今も高ぶってるのはそれのせいか?
あれって思ってた以上にホントに効果あるんだな。
「そ、そうか。えっと精力剤はまぁいいんだけど、いやよくないんだけど、薬は何の薬だったんだ?」
先ほどとはうってかわって、柚津はうつむいて答えない。
「まさか......やばい薬だったのか?」
「ち、違う!普通に薬局で売ってる薬!」
「で、なんの薬だったの?」
「言ったら怒られる......」
「わかった、怒らないって約束するから、教えてくれないか」
「ほんと?」
「うん」
背に腹は代えられない、鬼が出るか蛇が出るか。これに関しては怒らないようにしよう。
「......みん薬」
「え?なんて?」
「だから、睡眠薬!」
「......なんで?」
よくわからない。精力剤はまだわかる。俺をその気にさせようということだろう。
だけど睡眠薬も盛ってしまっては本末転倒ではないか?
続くはずの柚津の言葉を待つ。
「あーもう!
りっくんが寝てる間にエッチして、責任をとってもらおうと思ったの!
わーん、言わせないでよぉ」
「え?じゃあ、やってる間、俺は寝てたってこと?逆レ◯プってやつ?」
「そんなふうに言わなくてもいいじゃん」
開き直っているのか、やらかしておいてむくれる柚津を見て、なんとなくこの状況の理由の全貌が見えてくる。
「つまり、柚津は俺とヨリを戻すために酒に睡眠薬と精力剤を混ぜたと。
ヤることさえヤって、しかも生でシてれば、俺なら責任を取って付き合うと思ってやったってこと?」
柚津がコクリとうなずいて返す。
まじかぁ。
まじでそういうことしちゃう人っているんだなぁ。
「って、それじゃあ俺がやったわけじゃないじゃん!責任とかさ......」
「でも、りっくんの遺伝子の素、柚津の中にいっぱい注がれちゃったんだよ?」
「それはそうかもしれないけど、俺の意思とかないじゃねーか!」
「............怒らないって言った......」
そうだった。少しクールダウンだ。落ち着け、俺。
「ごめん、ちょいアツくなった。いや、それにしてもおかしいだろ」
「りっくんが悪いんだよ。メッセージ送っても素っ気ないし、多分次はないんだろうなって思ったから。
それなら今回でりっくんを繋ぎ止めないといけないと思って......」
「それは......おれが悪いのか、な?」
「そーだよ!」
強く言われるとそんな気もしてくるから不思議だ。
「ん゛ん゛〜」と軽く咳払いをして話を進める。
「ひとまず、状況は理解したよ。
柚津へのわだかまりとか、今回のことが急過ぎるとことか、俺が文句言ったら犯罪だろとか、そういうのは一旦置いといて、柚津は俺と付き合いたいって思ってくれてるってことでいいのかな?」
「うん、りっくんに柚津のものになってほしい。今日で終わりにしてほしくない」
「そっか。わかった」
「付き合ってくれるってこと?」
「そりゃあ、寝てる間だったとはいえ、のこのこ柚津の家に来たのは俺だし、その......柚津の中に出しちゃってんだろ。
もしものことがあったらその時はどうにかしなきゃいけないしな」
「りっくーん!大好き!」
梨樹人の反応に満足したのか、嬉しそうに抱きついて、頬を摺り合わせてくる。
梨樹人の下半身は昨夜の精力剤がまだ効いているのと、柚津の風呂、それと今の柚津の装いのおかげで、元気いっぱいだった。
まじめな話し合い(?)を通じて、少し萎えて来ていたところだったのだが、こんなにくっつかれたら息子も朝を思い出すというもの。
「あー、りっくん元気になってる!もぉ、いやらしいんだから〜」
「ち、違う!これは柚津が盛った精力剤のせいで!」
「そんな照れ隠ししなくていいよぉ。もう彼氏彼女になったんだし、心置きなく......ね?」
「そのために付き合うわけじゃないぞ」
梨樹人は真面目そうな声色で発するが、状況が状況だけになんの説得力もない。
梨樹人が断らないだろうことを察した柚津は追撃をかける。
「ねぇ、今日と明日はお休みなんでしょ?じゃあさ......ね?」
「はぁ。わかったよ。でも、生はだめだ。ゴムは絶対つけて避妊すること。それが条件」
「はぁい」
気の抜けた声で返す柚津に多少の不安を覚えつつも、自分さえ注意してれば大きな問題にはならないだろうと楽観的な判断に至る。
「ちなみに家にゴムはある?」
「ないよ!」
「まぁそうだよなぁ。じゃあ飯とゴム、コンビニにでも買いに行くか」
「おー!」
コンビニから帰ってから、2人は月曜日の朝方までご飯・性交渉・睡眠を繰り返す堕落した生活を続けることになった。
*****
月曜日。この土日は、卒論発表が終わったので久々に土日休みをとったわけだが、2日も研究室を休むのはあまりに久々すぎて、なんだか顔を出すのに少し緊張感がある。
さながら、ある程度友人関係ができている学期の途中でやってくる転校生の気分だ。
「おはようございまーす」
「おはよー」「おはよう」
梨樹人が元気よく挨拶すると、すでに数名の研究室員が在室しており、まばらに挨拶が返ってくる。
梨樹人の緊張とは裏腹に、いつもと変わらない一日の始まりだった。
その他にも1日、普段と変わったところはほとんどなく、おおよそは杞憂であったが、一点だけいつもと違うところがあった。
先輩の1人、冬城詩が日がな1日、ちらちらとこちらを伺ってくるのだ。
要件はおよそ見当がつく。
俺が元カノと飯を食いに行った結果どうなったのか気になっているのだろう。
それにしても視線に籠もった温度がやけに低いというか、鋭い気がするんだが......。
梨樹人としてはあまりこの話題を詩としたくはない。
下世話な話になるというのももちろん理由の1つだが、どちらかというと、堂々と「ヨリを戻すことはない」と宣言しておきながら、いけしゃあしゃあとヨリを戻してきた意思の弱さに目が向くのが嫌だという理由が大きい。
そういうわけで、視線に気づきつつもその話題には触れず、事務連絡や研究の話だけして、あえて気づかないふりに徹していたわけだ。
とはいえ、そのまま許されるはずもなく、日もくれて帰宅時間が近づいてきた頃、詩から小さく、低い声で声をかけられる。
「ねぇ、今晩、私とご飯にいかないかしら?」
「え、いいですけど、どうしたんです?」
「察しなさいよ。この間の彼女との話よ」
「あぁ、まぁやっぱりそうなりますよね」
押しつぶされるようなプレッシャーがある。
え、そんなに怒られるほどの話だっけこれ。
「じゃあ、近くの居酒屋でもいいですか?」
「えぇ、わかったわ。18時頃でいいかしら?」
「はい、構いません」
約束したはいいものの、この美人な先輩に、金曜日の晩から今朝にかけての下世話な出来事をどこまで、どう話したものか。
予定の時間までまだ1時間弱。その間に少しは考えておかねば......。
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