まんまと釣られてしまうチョロ魚
「え?いいの?」
「え?えぇまぁ......あ、今ですか!?」
「そろそろ返そうとしていたんじゃないの?」
「まぁそうなんですけども......」
詩の予想外の食いつきに若干驚きつつも、断る理由も特にないのでスマホを起動して、詩にも見えるように柚津とのメッセージ画面を開く。
そこには昨晩返信した『』
「なによ、ホントに挨拶を返しただけじゃないの」
「だから言ったじゃないですか」
信じてもらえてなかったのか......
「しかも神夏磯くんが返した直後にメッセージが来てるじゃない!」
「あぁ、そうみたいですね〜」
「そこから返してないの!?」
「昨日は疲れてあんまりにも眠くて、返した瞬間寝た気がするので、しょうがないですよね〜」
「あなたねぇ、流石にかわいそうじゃない?」
「いやぁ、まぁ大丈夫じゃないですかね。浮気して振るよりはマシですよwww」
「あんまり笑えないのだけど......そうかもしれないわね」
「でしょ?でも流石に既読までつけていつまでも無視してるわけにもいかないんで、そろそろなんか返さないとですよね〜」
「それにしても、この感じ、この子ゼッタイ神夏磯くんとヨリを戻そうって下心あるわよ」
詩がそう断言するメッセージの文面は以下のようなものだった。
===
『そっけないな〜』
『まぁでも元気ならよかった!』
『ねぇ、久しぶりに会えたりしないかな?』
『一緒にご飯食べにいかない!』
『りっくんの最近の最近の話も聞いてみたいし!』
===
という文面を見ながら詩と2人でどう返したものか悩んでいると、見ている画面に新たなメッセージが送られてくる。
『ねぇ〜、何か返してよ〜(涙の絵文字)』
正直、「しまった」と思った。即既読がついてしまって、ずっとこのメッセージ見てることがバレてしまった。
俺が凄い意識してるみたいになってしまうじゃないか......!
詩も、アララ、みたいな顔をしている。
そうこうしている内に柚津からの追撃がくる。
===
『あっ、すぐに既読ついた!』
『みてるんでしょ〜!なにか反応して〜』
『焦らしてるの〜?(ハートの絵文字)』
『(さみしいよ〜っていうクマのスタンプ)』
===
はぁ、しょうがない、とにかくなんか返そう。
「こうなっちゃいましたし、なんか適当に返しちゃいますね?」
「えぇ、そうね、流石にこれで無視するのはよくないものね」
正直まだ気が進まないが、とりあえず避ける方向に、穏便な感じのシンプルなメッセージだけ返そう。
『んー、最近ちょっと忙しくてあんまり時間取れるときないんだよなー』
送った直後、すぐにメッセージが返ってくる。
===
『えー、そんなこと言わずにさ〜』
『もちろん、りっくんの時間に合わせるし、どこかでちょっとだけ時間とってもらえないかなぁ』
『それに、ホントはまんざらでもないんでしょ?(ニヤリ、って絵文字)』
===
「なにいってんですかね、こいつは」
素直な気持ちが口から漏れる。
「即既読をつけちゃったから、ずっとメッセージ見るくらいには未練があると思われてるとかじゃないかしら」
なるほど、その線は確かにあるな。
とりあえず誤解があるならそれだけ解いておこう。
けど、どういう文面で送るか。
少し悩んでいると、隣りにいる詩が「私が考えてあげようか?」と提案してくる。
そういえば、一緒に考えてくれるために見てたんだっけ。
ひとまずお願いして見るか。
とういうことで詩にスマホを預ける。
タプタプと素早いフリックを披露したかと思うと、すぐに梨樹人にスマホを返す。
入力中の画面には次のように書かれていた。
『なんのことかわからないけど、誤解させないように言っとくね。
なんて返そうか迷ってちょうど見てただけで他意はないよ。
それに柚津とヨリを戻すつもりもないから、一緒に飯食いに行ってもあんまし意味ないと思うよ』
......なんていうか、そんなことまで言われてないのに、すげぇナルシストっぽい文面じゃないか?
別に送ってもいいけど、流石にダサいだろ
逡巡していると、そんな梨樹人を見かねたのか、「えいっ」と詩が送信ボタンを押す。
「あぁ!なにやってんですか!」
「ごめんごめん、神夏磯くんが動かないから押しちゃった♫」
テヘペロ、と可愛らしくコツンとする姿はやはり梨樹人の目に素敵に映り、ちょっとしたいたずらくらい「まぁいいか」と許してしまう魔性がこもっている。
「もー、ほどほどにしてくださいよ〜。これじゃ僕ただのナルシストじゃないですか〜」
「いいじゃない、ホントのことなんだし、無駄にたくさんやり取りするより、これで連絡が終わるほうがいいんじゃないかしら?」
フフンと鼻をならしながらドヤ顔を決める詩。
その仕草にもキュンとしてしまう。
それに言ってることにも共感できる。
柚津とのやり取りを終えられれば面倒事もなくなることを加味して、様子見をすることに決めた。
返事はすぐに(1分も待たずに)届いた。
===
『も〜、なに言ってるの〜?』
『そんなんじゃないって〜♫』
『ただほんとに久しぶりにお話したくなっちゃっただけだよ〜』
『ね、週末じゃなくても、平日の夜とかでもいいの!』
『だめかな......?』
「(うるうる、と半泣きの犬のスタンプ)」
===
んー、だめだったか〜。
「冬城さん、だめだったじゃないですか。やり取り終われませんでしたよ」
「そのようね」
なにやらキリッとした表情をしている。
ごまかしているのだろうか?まぁ可愛らしいしいいか。
「どうしましょうかねぇ」
「いっそのことホントに一回だけご飯に行ってみてはどうかしら。それで全く脈なしってわからせてあげれば、2度と連絡してこないんじゃないかしら?」
なるほど確かにその方が手っ取り早いかもしれない。
でも柚津に会うの気が向かないなぁ。
「もしまた付き合おうとか言われたら、今度は神夏磯くんがこっぴどく振ってやればいいじゃない!」
「それもそうですね!じゃあ、とりあえずどっかで行くことにしましょうか」
===
『わかったよ、1回だけな』
『日程はいつでもあんまり忙しさ変わらないし、そっちに合わせるよ』
===
と送ると、案の定すごい勢いで返信が来る。
===
『ほんと!?』
『ありがと!!』
『じゃあ、もしよければ金曜日の夜とかどうかな?』
===
その場で『了解』とだけ返して、スマホを閉じる。
「これでよかったんですかね?」
「どうかしらね。それは神夏磯くん次第じゃないかしら?」
「それもそうですね。とりあえずここまでありがとうございました。すみません、こんなしょうもないことにつきあわせちゃって」
「いえ、全然いいのよ。むしろ私がヘンに介入しちゃってごめんなさいね」
その後は他にいくつか雑談をして、各々の研究に戻っていった。
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