確かな地力の成しえる、豊かな表現力。

しっかりと作られた世界観。
一章からして町や村の風景描写は細かく、さらに宗教やそこに存在した聖人の存在など、細かい部分まで『きっちり作ったんだろうなぁ』と窺える表現が多く、感心のため息が出てしまいました。
この土台を固めるのにどれだけの時間を費やしたんだろうな、と思うと、脱帽の思いです。
また、それらを表現するのも流麗で、『なるほど、これはこうなっているのか』と理解もしやすいように思えました。
それも世界観をしっかり作っているための、表現に際しての淀みなさがなせる業なのだろうな、と。

落ち着いた、静かな語り口。
情景描写がしっかりとしており、過度な装飾語を使わず、自然な描写で風景を描く力が高いと思いました。
語り手が言葉を重ねるごとに、聞き手の瞼の裏に自然とシーンが浮かび上がるような、押し付けではない表現がとても心地よく、安心できるクオリティとなっております。

遠大な道と一話一話のボリュームによる満足感。
昨今は一話あたりのボリュームを短く、数千文字程度にして更新回数を増やす手法が主流であり、実際、その方が読み手は気軽に読むことが出来るでしょう。
ですがこの作品は当然のように一話当たり一万文字を超える事がザラにあり、それを読み切ることに対する満足感は高いです。
元々小説は一冊を一気読みする人間である私にとっては、このボリュームもほとんど苦ではなく、先述の落ち着いた表現も相まって、スラスラ読むことが出来ました。
また、ちょっと余談ですが更新日を確認すると、きっちり週一で更新しているところにも感心しましたw

総じて、作者さんの確かな地力の感じられる力作だと思いました。

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