主人公・三日森遙人の内面描写がとにかく丁寧で、静かな文体の中に潜む感情の揺らぎがとてもリアル。
人の名前を覚えられないという設定が、“他者との距離感”を象徴的に表していて、彼の成長とともにその世界が少しずつ鮮やかになっていく過程に、思わず胸が熱くなります。
電車の中での一目惚れという小さなきっかけが、沢木南月子という少女との出会いを通じて「生きる力」へと変わっていく。
その流れが自然で、読んでいて心地よい余韻が残ります。
月子の言葉が遙人の心をそっと照らす場面は、この作品の真骨頂。
派手さではなく、日常の中の奇跡を描いているところが本当に素晴らしいです。
静かに、でも確かに心を動かす――そんな「言葉の魔法」に包まれた作品です。
そっと風に触れるような、柔らかな出会いから始まる物語。
『さよならのキスはそよ風のように』は、孤独に沈んでいた「僕」の心に、名も知らぬ少女の微笑みが小さな光を灯すところから静かに動き出します。月子という存在は、ただの救いではなく、僕に「世界はまだ優しい」とそっと教えてくれる微かな風のよう。
体育祭の一言、何気ないやりとり――その一つ一つが、無音だった世界に色を差すさまがたまらなく愛おしい。心の奥に触れるこの物語は、孤独を知るすべての人に、優しく寄り添う、そよ風のような温もりを運んでくれます。
最後まで大切に味わって読みたくなる作品です。
青春って思い返すと春の桜みたいなもので、ティーンエイジにしか体験できないもので、大人になって恋愛しても彼女持つには金が~とか子ども育てる資金たんね~よ、とか余計な計算が恋の邪魔をする。
だから10代に恋しておくことは大事だなぁと思った事を思い出しました。かといって、ティーンエイジではそんなことまで気づけないけれども。
ついでに高校の時言い寄ってくれた女子を振った事も思い出しました。
いや、だって、友達とスポーツしてる方が楽しいって段階のわたしに恋愛の申し込みしても成功率低いよ……。まだ恋愛より……って感じだったもんなあ、と自分のフラグクラッシャーぷりを思いましたした。後椅子ごと女子が寄ってきたら同じ距離だけ自分も椅子ごと逃げたことも。
青春が春の桜だなんて、そんなん初回の恋で気づくティーンエイジいたら記憶持ち越したまま、またうつしよにきた幽霊を疑います。
と、色々思い出させてくれた物語です。
友情、恋愛、苦悩、葛藤、前進……。
十代の頃に感じるあれこれが瑞々しく描かれた青春譚です。
台詞回しはラノベ寄りの部分もありますが、地の文章が繊細かつ流麗なのと、登場人物たちの心情の揺らぎが限りなくリアルに描写されているのとで、抵抗なくすんなり物語が入ってきます。
前向きに見えて、どこか切ない読後感が残るのもまた、学生を描いた作品としての美しい終わり方なのではないかと感じました。
この先、主人公や周りの皆に明るい未来が待っていることを願うばかりです。
実は、自分の近くにもこんな経験をした人が居たのではないかと思えるような、地に足の着いた人間ドラマでした。
文章力が高く、あっと言う間に物語に惹き込まれる語りです。
流れるような文章が非常に読みやすいうえ、少年遙人の心情描写も秀逸です。
遙人は鬱々としていながらも、名も知らない少女に恋をするような、希望の欠片を知らず握り締めているような男の子。そんな遙人が恋する、名も知らぬ電車の君。そして彼に声をかけてくるクラスメイトの少女、月子。
月子が積極的に関わってくることにより、遙人の心は開かれていきます。その過程がとても丁寧で、読者は遙人に寄り添いながら、謎を孕んだ物語を楽しむことができるでしょう。脇の友人たちの恋路も必見です!
少女たちも魅力的に描かれており、かつ、ミステリアス。
相手の気持ちが明確に分からないからこそ、人は想像し、思いやり、寄り添おうとするものなのでしょう。
心の機微を繊細に描き切った青春物語です。
お薦めします!
その日、少年は恋をした。通学初日、同じ車内に居た少女に一目惚れした。
始まりは、さりげなく、どこにでも居る夢見がちな男子高校生の恋物語のようです。話し掛ける勇気もなく、少女をそっと見守るだけ…片想いは一方通行で、夢は夢で終わるものです。
しかし、お節介な別の美少女の出現で、運命は思わぬ方向に動き出します。
会話も軽妙にして、折り重ねられるエピソードもコミカルで面白い。同時に切ない結末を予感させる序盤の展開でもあります。
そこに主人公である少年の過去が交錯し、感情の起伏、考え方や捉え方の進化が丁寧に描かれていきます。時間軸がドラマに深みを与えるのです。
子供の頃、学校で嫌なことがあった。善意に満ちた行動だったのに裏切られて、素直になれなくなった。クラスメイトとの付き合いも他人行儀で、無関心。それが徐々に変化します。
「こんな感情もこの世にはあるんだ」「世界はまだまだ捨てたものじゃない」(第二十七話より)
トラウマを克服し、真っ直ぐに前を向く少年の成長譚のようにも見えますが、それに留まりません。記憶から消し去りたかった子供時代の思い出。もっと奥には、現在に繋がる重要な鍵が落ちていました。
忘れ去り、見落とし、思い出そうともしなかった。主人公は優しくナビゲートされ、過去の扉の前に誘われる…
後半、意外な展開が待ち受けています。少女の奇妙な行動には訳があった。謎解きの要素も手伝って、読者を魅了します。
そして、エンディングには満足感と達成感も待っています。不思議な爽快感とも言えましょう。こんな恋の結末もあるのか、と感嘆します。
「すべてから逃げ出した僕(第四十話)」が着地した場所とは、どこか?
少し風変わりで、ちょっとだけ色っぽく、いつだって慈しみ深い。そんな青春の断章をお求めの読者諸氏に、男女を問わず、お薦めしたい濃厚な恋物語です。