自主練日記(うらみごと)その2
12月24日 明日からランキング戦だ。とにかく一回でも多く勝って、次こそもっと大会に出たい。結果を出したい。今日はランニングと軽いストレッチだけにした。早めに休もうと思う。
12月25日 今日は3勝2敗だった。今まで一度も勝ったことのなかった広崎に勝つことができた。普段の自主トレの成果が確実にあらわれている。なんだかんだやっぱり試合は楽しい。コーチは僕が広崎に勝ったことが信じられないみたいで、広崎の調子が悪いのかと心配していた。この試合だけ後日やり直すかとまで本気で言いだすからさすがにぞっとした。「本番にベストなコンディションを持ってくるのも選手として必要な技術だ」、「怪我や病気は負けた理由にするな」なんていつももっともらしく言ってるくせに。よほど今まで自分が気にかけていなかったやつが伸びていることが信じられないらしい。広崎の調子は普段通りかむしろいいくらいだった。コーチだってウォーミングアップ中に「いつもよりスマッシュがいいね」なんてべたぼめしてたのに。三歩歩けば忘れてしまうのかな。明日はレギュラーメンバー(コーチのお気に入り)との試合が多い。気を抜かずに勝ちにいく。クリスマスプレゼントにずっとほしかったラケットをもらった。ランキング戦が終わったら使い始める。楽しみ。
12月26日 悔しかった。イラついてラケットを床に投げつけたり、試合中に舌打ちをしたりするやつらに負けるなんて。もっとがんばらなくちゃいけない。あいつらみたいなセンスや身長はないけど、それでも絶対に見返してやる。
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12月31日 練習は休みだけど、今日も家でいつものメニューをした。ランニングがてら神社でお参り。引退まであと半年と少ししかない。早くもっとあいつらよりうまくならないといけない。
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1月4日 今日で冬休みが終わる。今日は久しぶりの練習だから軽めのメニューで終わりだった。休み中も練習していたから特に問題なく動くことができた。ランキング戦の結果は全体の真ん中あたりだった。団体戦メンバーにはまだまだ遠い。
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1月15日 沢峰中との練習試合があった。自転車で坂道を登りに登って沢峰中にたどり着く頃にはすでに足が棒みたいだった。毎日こんな風に通学しているから沢峰中は足が鍛えられて後半に強いのかもしれない。自分の家もそれなりに山にあるから人より足に自信があるつもりだったけど、まだまだだと思った。今度の休日から自転車で山登りでも始めてみようかな。
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2月7日 ランキング戦や練習試合で立て込んでいて、ようやくクリスマスプレゼントにもらった新品のラケットを使い始めることができた。でも、原や釜田に目をつけられてしまった。僕をさんざん無視していないもののように扱っているくせに、そういうときだけ目ざといのはなんでだろう。正直腹が立つ。ラケットを僕から奪い取ってしばらく眺めてから、わざわざ聞こえるように「下手くそにはもったいない。ラケットが可哀想」なんて言わなくてもいいのにな。挙句、先生に訴えて使用禁止にするとは最高にいい性格をしている。もともとレギュラーメンバー以外はグリップやテープの色黒限定、さらには白以外のガットの使用禁止なんてアホみたいなルールがあったのに、今度はそれに加えてレギュラーメンバー以外は八千円以上するラケットの使用禁止なんて本当にばかげている。僕に新しいラケットを使わせないためにどうしてそこまでするんだろう。そもそもそんなことを訴えるあいつらもあいつらだけど、それの言いなりになる先生も大概だと思う。せっかくプレゼントしてもらったラケットだけど、当分出番はなさそうだ。いつか絶対に堂々と使ってやる!ついでにレギュラーメンバー以外のシューズの靴紐は白のみだとか、一年生はどんなに強くても半年間は団体戦には出さないだとか、大会の時はレギュラーメンバーが食事を始めるまで他の部員は一口も食べてはいけないだとか、挙げればいまだに理由がわからない。無駄に歴史ばっかり長くても、うちの部に伝わってきた伝統はろくなものがない。だからどんどん落ちぶれて、今じゃ県大会に進んだだけで大騒ぎ。同じくらい歴史が長い沢峰中は全国にも行っているのに。今まで何の疑問も持たずに従ってきた自分もばかだ。
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3月28日 春季大会が近いから、春休み中は多く練習試合が組まれている。でも、団体戦メンバー以外は、荷物運びやコート準備、審判しかやらせてもらえない。もちろんそれらも経験として大事なことだけど、いくら何でも1試合もさせてくれないのはあんまりだと思う。相手の学校には30人近く部員がいるところもあったけど、全員必ず一回は試合に出していた。それをうちの学校はレギュラーメンバー7人だけで相手にしていたんだもの、実にあほらしい。うちだって部員は30人近くいるのにえらい違いだ。普通に考えておかしすぎる。どこの学校と練習試合しても、相手の学校の先生や生徒から怪訝な目を向けられるのは当然だったんだ。今までこれが当たり前の事過ぎて何も違和感を持っていなかったけれど、やっぱりうちのバドミントン部はおかしい。
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4月3日 春休み最後の練習試合も、案の定出番がなかった。新学期が始まってすぐに春季大会のメンバー決めのためにランキング戦をすると予告された。周りの団体戦メンバーに選ばれていない部員たちはもうあきらめムードで全然やる気がない。それに流されずに、絶対上位に入る。
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4月9日 いよいよ3年生だ。相変わらずと言うべきなのか、クラスでも見事に浮いている。委員会決めでも、クラスの女子が僕と同じ委員会になりたくなくて喧嘩が始まりそうだった。そんな中僕と同じ図書委員に立候補した小鈴さんを勇者扱いするのは、僕だけではなく小鈴さんにも失礼な気がする。僕も小鈴さんみたいに、周りの意見や空気に左右されずにもっと堂々としていられるようになりたい。あいつらのやることに、もっと無反応でいられるようになりたい。そう簡単にできることではないけれど、どうせぼっちになったんだからこうなりゃ地道にでもわが道を行ける人間になろう!目指すは嫌な時にははっきりNОと言える日本人だ!
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4月12日 ランキング戦は8位で、レギュラーメンバーに入ることができなかった。あと一勝していれば、7位になっていたのに。本当にあと少し、目の前だったのに。悔しい。明日の放課後先生に呼び出された。何を言われるのかわからなくて怖い。
4月13日 呼び出された体育館倉庫に行くと、先生だけでなくコーチもいた。何かと思えば、僕に選手を辞めてマネージャーをしないかとの提案だった。あまりに突然のことで何も返せずにいると、選手としての才能があまり感じられないしひょっとするとマネージャーの方が向いているんじゃないかと笑いながら言われた。新入部員も入ってかなり大所帯になったわが部では最近準備や練習メニューの管理、その他もろもろ細かなところに手が回らなくなっているから、一人くらいマネージャーが欲しいらしい。そこで、必死こいて練習している割に伸び悩んでいる僕に白羽の矢が立ったということのようだ。新入生勧誘期間はまだ続いているし、今からマネージャーの募集をしても良いような気がするけれど、多分部内の様子やバドミントンについてそれなりに理解している即戦力が欲しかったのだろう。それにしたって先のことを考えるなら、3年生で引退間近の僕よりも2年生の誰かにマネージャーを頼む方がよっぽど現実的だ。それなのにわざわざ僕に頼んでくるのは、明らかに孤立した僕なら多少雑に扱っても部内から文句が出ないからだろう。今回はようやくレギュラーまであと一歩のところまで来たのに、今まで積み上げてきたものや自分自身の全てを踏みにじられたような気がした。今日はもう頭の中がグチャグチャで何もできそうにないから、自主練メニューをいつもの半分にして早めにふとんに入ろうと思う。
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