自主練日記(うらみごと)その3

4月14日 マネージャーの話を断った。特にコーチが面白くなさそうにしていたけれど、誰が好き好んであいつらの世話なんかするか!チームの輪を乱しているなんて去り際に吐き捨てられたけど、知ったこっちゃない。僕は、バドミントンをするためにここにいるのだ。チームの事なんて考える義理はない。好きでこのチームにいるわけじゃない。出ていけるものならとっくに出ていっている。バドミントンのことはわからないといって学ぼうともせずにコーチの言いなりな先生にもどうしようもなく腹が立つ。百歩譲ってバドミントンの事はわからないにしても人としておかしいことがチーム内でまかり通っているのに、見て見ぬふりをしている時点でとても信用することはできない。


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4月23日 春季大会は2回戦で第3シードの東日中のペアと当たってフルセットまで持ち込んだけど負けてしまった。僕は正直勝算が薄いと思っていたから今までやってきたことをとにかく全部ぶつけてみようとある意味当たって砕けろの精神だったし、相方の相野はそもそも勝つ気がなかった。だから無我夢中で1セット取った時点で僕は正直限界が近かったし、相野は浮足立って空回りしていた。実力では相手の方がずっと上だから、こっちが勝手に崩れてしまえばその後あっさり負けてしまうのは当たり前の事だった。せめてペアの間に信頼関係があれば、結果も少しは違っていたのかもしれない。


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5月6日 相も変わらず団体メンバーが優遇されている。同じ部活にいることがアホらしくなるくらいだ。今まで表向きは中立を保っていた先生だけど、マネージャーを断ったせいなのか僕に対する扱いがあからさまに雑になった。校長先生やらコーチやらとにかく自分より上の立場の人の言うことの言いなりだ。元はといえば、そもそも先生が見学に来た校長先生にいいところを見せようと、普段は見て見ぬふりだったのに「○○を見習って後輩の準備を手伝え」なんて見栄を張ってお説教を始めたせいでこうなったのに。結局部内に信じられる人なんて誰もいない。


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5月12日 団体メンバーは練習会や強化合宿に参加している。参加資格は満たしているんだから、僕や他の部員だって参加できるはずなのに。強くなるための練習会や合宿なのに、「お前らが参加するなんておこがましい」とはいったい何様なのか。よっぽど他の先生に相談してやろうかと思ったけど、きっと先生方も団体メンバーや顧問、コーチの肩を持つ。なんであんなことしてるやつらの頭がいいのか。僕一人と県内トップ校に合格間違いなしなあいつらならあいつらをとるに決まってる。きっと、大人の事情ってやつなんだと思う。あいつらも優秀な頭をもっとましなことに使えばいいのに。


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5月20日 最後の大会のエントリーが近い。次のランキング戦が最後のチャンスだ。あいつらを見返すために絶対に団体メンバーに入り、個人戦でも上位を狙って良い順位でエントリーしてやる。そのために、毎日一番早く体育館に行って一番遅くまで残ってきた。家でだって自主練を欠かした日はない。ただ量をこなせばいいわけではないのはわかってる。それでも、あいつらよりはよっぽどバドミントンに向き合ってきたつもりだ。


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5月28日 ついにやった!ランキング戦の結果は7位。団体戦メンバーに入ることができる!レギュラーになれるんだ!最後の最後でやってやった!


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5月30日 団体戦と個人戦のメンバーが発表された。今回の団体メンバーは、1位から6位までのいつもの奴ら(原とゆかいな仲間たち)と、僕に負けて8位だった広崎の7人だった。それから、ベンチマネージャーが僕。発表されたときは目の前が真っ白になって、どうしていいかわからなかった。コーチの声は耳に入ってきているのに、頭が理解することを拒否していた。その後の練習は全く記憶がない。気づけば家にいてこれを書いている。正直魂が抜けて天国まで相当近いところに行っていたんじゃないかと思う。今までずっと1位から7位の部員をメンバーにしていたのに、急にどうして。「いや~昨日から寝ずに悩んで考えたんだ」とかコーチは言っていたけど、いつにもまして肌つやが良かったし、口によだれの跡がついていたから練習の直前まで寝ていて慌てて起きてきたに違いない。とりあえず今日はもう何も考えずに休む。


5月31日 一晩経ってようやく頭が落ち着いてきた。昨日は全く意識を向ける暇もなかったけれど、結局僕は個人戦シングルスに選ばれた。そっちで全力を尽くすしかない。団体戦のベンチマネージャーなんて正直ごめんだ。スコアのメモやタオルとドリンクの準備やらオーダーの提出くらい今までのように試合に出ていないメンバーや先生がやればいいのに、僕に対しての当てつけとしか思えない。それでも選ばれて登録されてしまった以上真面目にこなすしかない。あいつらのように嫌いだからって理不尽なことをする人間にはなりたくない。でも正直レモンのはちみつ漬けにこっそりタバスコを数滴くらい混ぜてやりたい気分だ。


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6月5日 今まで公式戦ではほとんどダブルスにしか出場したことがないから、やっぱり圧倒的に試合経験が足りていない。残念ながら部員の中で僕の自主練に付き合ってくれる人はいないから、今日は近所の体育館を予約して、親戚や母さんの知り合いの経験者の方々に頼み込んでシングルスの特訓に付き合ってもらった。体育館の利用費に全員分のドリンク代やシャトル代…今月の懐は寂しくなりそうだ。


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6月10日 自分で思っていた以上に、日に日に動けるようになっていく。今までシングルスは部内のランキング戦くらいしか経験がなかった。そのランキング戦では良い順位になるために何が何でも勝とうと闇雲な力押しになってしまっていたのかもしれない。もっとシンプルに、自分ができることを確実にしていけばいいんだ。


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6月30日 地区大会の組み合わせが発表された。未だかつてなく良い位置にいる!気がする。うちの学校はダブルスに力を入れているから、団体メンバーは全員個人戦ダブルスに出る。上の方がダブルスに出払っているから、繰り上がりで実質うちの中学のシングルス一番手として僕がエントリーされたんだろう。だから四つ角のシードからは遠い位置にしてもらえたに違いない!これはかなり希望がある。正直安定して県大会までは進める可能性が高い。奴らは団体戦でも個人戦でも関東大会を目指すと息巻いている。先を見るのは良いことだけど、油断してると足元救われるぞ。特に生田と原ペア、地区大会の1回戦は最近実力を伸ばしてきていると噂の第一中のペアが相手だし、なめてかかるとあっさり負けかねないと思う。多分奴らは他校の情報なんて全く気にしていないからそんなの知りもしないだろう。だからって、それを教えてあげるほど僕は親切ではない。


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7月17日 いよいよ明日が地区大会初日だ。ここで負けては何も成せずに終わってしまう。今まで頑張ってきた自分のためにも、試合の度に僕の出番がほとんどなくても毎回応援や送り迎えをしてくれた家族のためにも、そして何よりあいつらを見返すために、絶対に結果を残す。バドミントン自体は大好きだったはずなのに、こんな部にいることがあまりに苦痛でいつの間にかあいつらを見返すためだけに練習するようになっていた。今は試合の時も楽しさはひとかけらも感じない。だからこの大会が終わって引退したら、僕はもう一生コートに立つことは無い。どうせ最後なら、最高にすっきりした気分で引退するために全力を尽くす。

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