なんでそんなに知ってるんですか!?

 衝撃の部活動紹介から数時間後の放課後。初っ端から行ったらやる気満々な奴だと思われてしまいそうだから、ちょっと時間を空けてから行くことにした。部活動開始時刻からたっぷり四〇分時間を空けて第二体育館の入り口に来たはいいものの、何となく一人では入りにくくて行ったり来たりすることさらに数分。


 ようやく足を踏み入れようとしたちょうどその時だった。


 ドドドドドドドドド……!


 どこからか地鳴りが聞こえてくる。

 

 何事かと周りを見渡してみても、何の変哲もない放課後の風景が広がっているだけだ。しかし、地鳴りはドンドン近づいてくる。不思議に思いながらもう一度入り口に向き直ると、そこには衝撃の光景が広がっていた。


「おいっ、どけよ!」

「そっちがどけよ!俺が先だ!」

「前の奴らは何をやってんだ!早くしないと追いつかれるぞ!!」

「やばい!来た来た来た!」


 何故か入り口に大慌てで殺到する大量の同級生。その様子はいつぞや歴史の教科書で見た「トイレットペーパー騒動」のようだった。そんなに押しこくったら前の人が転んでしまうぞ。


「そんなに押すなって!うわあっ」


 ほら。言わんこっちゃない。後ろにいた人たちがドサドサと雪崩のように飛び出してきた。傍から見ると何とも間抜けな光景だけど、怪我でもしていたら大変だ。


「大丈夫ですか?」


 急いで駆けよって声をかけるも、返事は帰ってこなかった。


「出られた!」

「みんな急げ!」


 僕のことなど眼中にないようで、みんな服の汚れや脱げた靴などお構いなしにあっという間に走り去っていったのだ。……無視されるのは非常に解せないことだが慣れている。それでもなんというか、こう、チクッとくるものがある。

 

 心の痛みに思いをはせているうちに、気づけばあんなにいた同級生は誰一人として影も形も無くなっていた。こうなると、怖いもの見たさというやつで一層中で何が起きているのか気になってきた。我ながら案外好奇心旺盛なのかもしれない。乱暴に閉められたままだった分厚い扉に手を伸ばそうとした本日二度目のちょうどその時だった。


 ガラガラガラ!


 勢い良く内側から扉が開く。


 顔だけひょっこり出てきた人物とばっちり目が合った。


「あ~!君は去年の県総体個人戦シングルス5位入賞、利き手は右で得意なのはネット前での早いラリーとフェイントショット!三月十日ミントの日生まれのA型十五歳羽代はねしろ颯太郎!」

「なんでそんなに知ってるんですか!?」


 おっと、つい反射的に言い返してしまった。


「ふっふっふ、それはね……」


 ピョンっと扉の陰から飛び出してきたのは、身長は平均以上、体格は細身、切れ長の目をキラキラ輝かせるイケメン。手にはラケットを持っている。そういえば、部活動紹介の時に確か強面先輩の隣に並んでいた人だ!


「答えは中に入ってのお楽しみー!一名様入りま~す!」

「えっ、ちょ、待っ!」

「ほらほら~!ゆかいな仲間が待ってるよ!」


 向こうのペースに呑まれているうちに、がっちり腕をつかまれて第二体育館へと連行されてしまう。これが僕の運命を大きく変えることになるとは夢にも思わなかった。

 

 この時の僕は好奇心が三割、めんどくさいことになって来たぞという気持ちが七割だったけれど、心の奥底ではちょっと面白いことになって来たぞなんて思っていたのは秘密。思春期真っただ中だもの。素直になるのは意外と難しいんです。


 とにもかくにも、後に連行してくれた先輩への感謝の気持ちが十割になるなんて想像もしていなかったのだ。

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