我等上州羽球部!

織羽朔久

羽代颯太郎

自主練日記(うらみごと)

基本メニュー 

・フットワーク前後、左右、前二点、後ろ二点を15回

・素振り フォアとバック(ロブとサイドどちらも)、オーバーヘッドそれぞれ30回

・体幹 部活と同じメニュー


先輩やコーチにもらったアドバイスなどをメモする。その日に思ったことなども書いてみる。基本メニューをできなかった場合や減らした場合は必ず書く。(できれば理由も)追加メニューを行った場合も書く。

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7月30日 先輩方が引退して以降初めての部活だった。いよいよ僕たちの代だ。原くんがやけに張り切っていた。先輩がいなくなって寂しい気持ちが大きいけれど、団体戦のメンバーに選ばれるように新人戦に向けてがんばっていきたい。コーチに注意された重心を意識する。


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8月1日 いつも通り体育館に一番乗りした。原くんをはじめとした実力上位メンバーがなぜか僕を無視してくる。なにも心当たりはない。僕とノック練のチームが一緒になった釜田くんに向けて「うわっ!あいつと一緒とかかわいそう(笑)ドンマイ!」はさすがにひどいと思う。言われた釜田くんも爆笑とはどういうことなんだ。わけがわからなくて結構ショックだ。全然練習に集中できなかった。


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8月4日 いったいどうすればいいんだろう。あれから数日たっても、相変わらず上位メンバーは練習中の必要最低限の会話以外僕のことをまるでいないものとして扱っている。それどころか、それに同調するように同級生のほとんどがきまり悪そうに僕を避けるようになった。どうしたらいいのかわからない。何か悪いことをしてしまったのかな?謝れば許してもらえるのかな?部活がつらい。楽しくない。


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8月6日 頭が真っ白でバドミントンどころじゃない。まともに会話ができない以上原因を見つけることもできない。


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8月17日 後輩と一緒に準備をするのがそんなにいけない事なのか。みんなが先生に小言を言われるような理由をつくったって?先輩が引退する前から準備をしろといくら言われても後輩や僕にまかせっきり。生返事でだべりながら靴ひもを結んでいたんだから、小言を言われて当然。今までそれとなく僕が準備をするように促しても、全く聞き入れなかったのはそっちだ。いままでぼんやりとチームに対して感じていたモヤモヤが、一気に形になったような気がする。エブリデイ孤立。


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8月20日 先輩方が引退してからシューズケースを変えるのはこれで3回目だ。とんでもないハイペース。こんな仕打ちを受けてまでここでバドミントンをする意味があるのかな。人の目が怖い。


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8月26日 新学期。まさかとは思っていたけど、クラスでも居場所がない。友達がこんなに薄っぺらい関係だとは思いもしなかった。あいつらは僕が孤立しているのを見てそんなに楽しいのかな。本当に信頼できる人は家族以外どこにもいないのかもしれない。今日は軽いメニューで終了。もうすぐランキング戦があるらしい。部活を辞めたい。だけど学校の規則があるから辞められない。いまさら他の部活にも入れない。


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9月1日 今日からランキング戦が始まった。体育館にいること自体が苦痛。コートに立つと不思議と体は動く。でも内心もう後輩に負けようがビリになろうが知ったこっちゃない。毎日一番乗りして準備や自主練をしていた自分が馬鹿らしい。


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9月5日 やっとランキング戦が終わった。なんだかんだ結果は先輩方が抜けた分の順位が上がっただけ。つまりはいつも通り。習慣とはおそろしい。心の中は大荒れだったのに案外動ける自分にびっくりした。団体戦のメンバーを目標にしていたなんて今思うと笑えてくる。あんな奴らと円陣組んでおそろいのユニフォームなんて想像しただけでゾッとする。毎日の部活が地獄の時間。我ながら最近情緒不安定だ。


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9月20日 今日は新人戦1日目だった。団体戦だから出番は特になし。ひたすら応援だった。結果は3位で県大会出場。大躍進だ。まだ新人戦。あと1年近くある。早く引退したい。今日は自主練休み。明日のためにストレッチだけした。けがをしたら自分だけならともかく家族にも迷惑がかかる。


9月21日 個人戦ダブルスに出たが、2回戦で沢峰中の一番手と当たって負けた。組み合わせを見た時からわかりきっていたことだし仕方がない。原・生田組と釜田・広崎組がベスト8入りして県大会出場。個人戦シングルスでは青谷がベスト4に入り県大会出場。うちの中学が一気に強豪の仲間入りしたみたいだ。レギュラーのみなさんは僕が手も足も出ずに負けているのを見て楽しそうで何よりです。ペアを組んでいる源くんがみんなから気の毒そうに見られていて申し訳ない。


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9月30日 「負け組は後輩と一緒に練習してろ」とは、いったい何様のつもりなんだろう。今までは明らかに僕だけを目の敵にしていたけど、いよいよ他のみんなまでばかにしはじめた。バドミントンが上手いからって、部活の中心メンバーだからって、そんなに偉いのか?だからって何をしてもいいと思っているのか?


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10月3日 僕はどうしてあんな奴らにおびえたり言いなりになったりしていたんだろう。よくよく考えたらあいつらにされるがままになる必要はない。僕は悪いことをしたわけではないのだから、堂々としていればいいんだ。目が覚めた。明日からは何をされても言われてもこっちも完全無視だ。事なかれ主義で見て見ぬふりの先生も、お気に入りの部員しか相手にしないコーチもあてにならない。期待しちゃだめだ。助けを待ってるだけじゃだめだ。最終目標は強くなってあいつらを見返すこと。頼りになるのは自分だけ。負け組なんて二度と言わせない。今日から復讐の始まりだ。


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10月24日 今日も放課後体育館に一番乗り。準備をした後は自主練をした。コーチは原たち団体戦メンバーが県大会でもそれなりの成績を残したことにご満悦なようで、今日もそっちにつきっきりで他の部員には見向きもしない。県大会前は「勝ち残っている部員が優先」とか言って僕たちを放置してたのに結局大会が終わってもこれか。このままではあいつらはどんどん調子に乗るし、それ以外の部員は居心地が悪くなるばかりだ。チームとして何とか崩れずにいるのは、僕といういけにえがいるからだと思う。もし僕がいなくなればあいつらは結局何か理由をつけて次のターゲットを探すだろうし、他の部員はそれが怖くて逃げだすだろう。そうなればもう空中分解だ。先輩にはいい顔しておいていなくなったらすぐに本性を見せるなんてなかなかみみっちい。


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11月2日 ダブルスの試合練の時に、生田がネット前で打ったプッシュが僕の左目を直撃した。しばらく目が開かなかった。相方が少し浮いた球を打ってしまったのだから、強い球が返ってくるのは当然だった。だから後ろへ下がるのが遅れてしまった僕にも否があったと思う。でも、しゃがみこんだ僕にかけよってあわてて謝る生田へ向かって「当たる方が悪いんだから謝る必要はない」とコーチが言い放った時にはさすがに思考が停止した。ちょうど一年前くらいにエースだった三田先輩へ同じようにシャトルが当たった時は、大騒ぎで救急車まで呼んだのにね。そんなコーチの様子を見て生田は安心したのか「次は気を付けなよ」なんて、それまでの申し訳なさげな様子はどこへ行ったのかと思うほどの手のひらフル回転な態度を見せた。ついでに生田の相方の原くん。こっそり釜田とのろまだの下手くそだの好き放題言ってたのばっちり聞こえていたよ。もういちいちそんなのにかまっていられないから反応しないだけです。みんなのおかげでここ数か月ずいぶんスルースキルが成長した気がする。しばらく目の焦点が合わなかったけど数時間後には普通に見えるようになった。念のため眼科に行ったが異常なし。


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11月22日 今日は午前練だった。久しぶりにコートでシングルスの試合をすることができた。冬休みにランキング戦があるらしい。それに向けて今日からランニングと素振りと筋トレに加えて壁打ちとフットワークも始めた。けがには気を付けて、良い状態に持っていきたい。今日で用具倉庫に閉じ込められるのは5回目。そろそろ小さな窓からの脱出にも慣れてきた。女バドの小鈴さんに上半身だけ窓から出ているところを見られて何とも言えない顔をされた。何か大事なものを失った気がする。元々扉の立て付けが悪くて閉じ込めたってばれにくいからってそんなに何度も同じことをやってよくあきないなと思う。あわよくばまた最初の時みたいに僕が練習に遅れて怒られるのが見られると思っているのかも。こんなことしている暇があるなら少しでも練習すればいいのに。あんな奴らに勝てない自分にもむかつく。

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