手のひらクルンクルン

  よし、ようやく終わった。六人分をどうにか無事に聞き届けた。小夜川君の件については何度さりげなく探りを入れてもうまいこと躱されてしまったし、青葉君は延々童顔エピソードを熱弁するし、天野先輩はそれに大うけだし、花光先輩は窓の外の小鳥を眺めているし、松下先輩は飽きてしまったようでいつの間にか素振りを始めている。


 唯一の常識人 (おそらく) で最後の砦の南先輩はというと、ただひたすらニコニコ笑顔だ。もしこれが放課後の図書室の窓際だったなら、あら素敵☆って感じでめでたしめでたしだっただろう。だがしかし、ここは嵐のような状況のバドミントン部。あなたが止めなきゃ誰が止めるんですか?!


「………」

「(ニコニコ)」

「………………!」

「(ニコニコニコニコ)」


 僕の無言のメッセージにも南先輩は笑顔を崩さない。それどころかこれが普通ですが?何かおかしいところあります?みたいな空気を醸し出している。残念ながらやはりバドミントン部にノーマルな高校生はいないらしい。


 よし決めた。やっぱり今日はもうお暇しよう。このままじゃあ一日にして僕の胃に穴があいてしまう。というかできれば、バドミントン部からは永遠にお暇したい。


「あの……、僕そろそろ」

「あ!そうだよね!まだ入学したばっかりだし色々忙しいもんね!」


  訂正します。南先輩、やっぱり最高です!


「明日も放課後第二体育館で練習してるから、シューズとラケット持ってきてね!あ、後四月と五月の予定表もその時渡すね」


  は?


  さらに訂正します。南先輩が一番やばい人かもしれません。

 

 そりゃあ僕だって少なからず興味があったから見に来たし、心の本当に隅っこの方では、ほんとのホント にちょっとだけだけどもし良さげな雰囲気だったら入部しちゃおっかな~なんて気持ちが無かったと言ったら嘘になる。それにしてもね、物事には心の準備というものがあるわけですよ。


  そんな、急に新幹線もびっくりな速度でナチュラルに入部決められてしまうとは夢にも思っていなかったわけで……。だからって断るのも難しいもんな。NOと言える日本人への道はまだまだ遠い。


 ああ、本日最大レベルで胃が痛い。


 不安や戸惑い、それから個性豊かなバドミントン部のこと。部活動紹介から始まった怒涛の展開に頭の中はゴチャゴチャで、自分がその後どうやって帰宅したのか全く覚えていない。 買ったばかりの制服がなぜかびしょ濡れで頭にはたくさん葉っぱがついていたから、きっと僕はさぞかしデンジャラスな帰り道を過ごしたんだろう。



  不安とほんのちょっとの期待を抱えて、とりあえず僕の高校バドミントンが始まった。

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