情報渋滞

「……二年生の花光はなみつひなた、です。さっきの天野とペアを組んでいます。バドミントンは小学三年生の時に始めました。……最近の悩みは、同級生や先輩だけでなく新入生にも……怖がられることです」

「ひなたぁ!ほらほらもっと明るくいかなきゃ。だから怖がられるんだよ!」

「うるさい、天野涼」

「何故にフルネームなの?!まあそれは置いといて、口下手でやたら貫禄あるけど、こう見えて甘い物大好きでお菓子作りの腕はプロ級、趣味はカフェ巡りな可愛いところあるからみんな仲良くしてあげてね~!」


 かわいらしい名前や趣味からは全く想像ができないがっちりとした体格に高身長、貫禄のある佇まい。しばらく耳から入った情報を理解するのに時間がかかってしまったのも、仕方がないことだと思う。


 もちろん、見た目だけで人を判断なんてするつもりはない。誰が何を好きだろうがそれは自由。十人十色だ。それでもあまりにもギャップが過ぎる。やたら説明口調な天野先輩の補足がなければ正直僕も怖そうな先輩というイメージを持っていただろう。


「それじゃあ次は僕かな?三年生の南はるです。前は選手だったんだけど、色々あって今はマネージャーしています!これからよろしくね」


 ギャーギャー騒ぎ出した天野先輩とそれを冷ややかな目で見つめる花光先輩の迷コンビを華麗にスルーしつつ、スムーズに自己紹介を済ませた南先輩。……なんというか普通だ。ようやく世間一般がイメージする高校生に出会えた。


 いや、今までが濃ゆすぎたからそう思ってしまうのかもしれない。栗色の髪をさらりと揺らす先輩は、なんだかとっても爽やかだ。というか「これからよろしくね」ってサラっとこっちを見ながら言ってるし僕が入部する前提で話が進んでいないか?


「それじゃあもう入部を決めている一年生二人にも自己紹介お願いしようかな?なんだかんだまだ僕らも二人の事あんまり知らないからね」

「はーい!じゃあ僕から!一年二組の青葉陸です!中学ではバスケやってました。体力には自信あります!一度も一緒のクラスにならなかったから羽代くんは覚えてないかもしれないけど、実は同じ中学でした!!」

「……一年六組の小夜川さよかわれいです。バドミントンは中学一年生から始めました。特技は他校の選手のデータ収集。中学時代一度でも俺と対戦した人や大きな大会に出ていた人、それからチームメイトになり得る新入生のバドミントン経験者、及び他のスポーツで結果を残している人は全員リサーチ済みです」


 ん……?爽やか南先輩に気を取られている間に何やら色々爆弾が落とされたような気がするぞ?

 

 よし、順番に整理していこう。まずクリクリおめめに少し癖のあるフワフワした髪、なんだか小動物っぽい青葉君。後述する小夜川君のインパクトが強すぎたせいで危うくスルーするところだったけれど、さらっと僕と同じ中学だったって言ったよね?あんな同級生いたっけ……?


 バスケ部といえばよく隣で練習していたような気がする。確かうちの学校で一番部員の人数が多かったような気もする。……だんだん思い出してきたぞ。滅茶苦茶強くて、中学生とは思えない身長の人々がひしめき合っていた。そこに混じってまるで子犬のようにボールを右へ左へ追いかけているちびっ子がいたような…?てっきり後輩かと思っていたけれど……?


「もしかして、あれが…?」

「あはは……。多分そのもしかしてだと思うよ!」


 僕の様子を見て何かを察した青葉君。「慣れてるから気にしないでね!」なんてフォローまでしてくれているだけに、なんというかいろんな意味で申し訳ない。続けて流れるように春休みショッピングモールへ行ったら見知らぬおばさんに小学生と間違われて迷子センターに連れていかれた話を始める青葉君の横顔からは、何とも言えない哀愁を感じる。

 

 おっと、青葉君に気を取られて危うく今日一番の大問題である小夜川君を忘れるところだった。趣味はデータ収集と言っていたから、おそらく天野先輩が誕生日やら血液型まで言い当てていたのは彼の情報提供によるものなのだろう。出所が判明してひとまず安心。


 し    か    し  、さらなる問題はここからだ。

 

 問二、小夜川君は一体どうやって僕の誕生日や血液型を知ったんでしょうか?


「あの、小夜川君はどうして僕の誕生日や血液型を知ってるの?記憶が正しければ今日が初めましてだと思うんだけど……」


 青葉君の童顔エピソードに先輩方が聞き入っている中申し訳ないけれど、隣に座る小夜川君に小声で問いかけてみる。


「フフフ……企業秘密」


 だがしかし、眼鏡をきらりと光らせる小夜川君の答えは全然答えになっていなかった。…………ああ、さっきよりもさらに胃が痛い。

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