既に計画ずれまくり
赤T先輩事件後一週間はオリエンテーションやら課題の提出やらで、その時頭をちらついたバドミントンの事を考えずに済んでいた。
だけど今日は部活紹介。入学式以降も続いていた熱心な勧誘によりもうどこに入部するか決めている生徒も一定数いるようだけど、ほとんどの新入生にとっては落ち着いて全ての部活を見ることができる一般的に楽しみなイベントなのかもしれない。
ところがどっこい、僕にとってはバドミントンに嫌でも触れることになる最悪のイベントなのだ。
ああ、こうなることなら事前にバドミントン部があるかどうかのリサーチをしておくべきだった。とにかくあいつらが来ないであろう高校に進学することで頭がいっぱいだった過去の自分に文句を言ってやりたい。
そうこうしているうちにステージではトップバッターの文芸部が発表を初めている。元々文章を書くことは好きだし、今日の部活動紹介のプログラムを見た時から興味を持っていたはずの部活なのに、説明は不思議なくらい耳に入ってこなかった。
やはり頭をちらつくのは、あの地獄のような日々と中学最後の大会、それから赤T先輩の笑顔。
当たり前のように、僕の生活の一部にあったバドミントン。
受験期の忙しさのおかげでもうすっかり忘れられたと思っていたけれど、実際は全然忘れられていなかったみたいだ。バドミントンが悪いわけではなくて、あいつらが悪いのはわかってる。それでも、あの悪意と理不尽の塊のような日々はバドミントンと固く結びついている。
でも、僕がもっと大人になれていれば、もっと上手いこと躱せていたのかもしれないとも今になって思う。そもそも僕がもっと身長が高くてパワーもあって、バドミントンの才能があれば、あんなこと起こらなかったんじゃないか。
後ろ向きな考えばかりが浮かんでは消える。
とにかく、とにかくバドミントンにろくな思い出がないのだ。だけど、それと同時に初めてラケットを握った日のワクワクや、試合で勝った時の達成感、狙い通りにショットを決めた時の快感。どれも昨日の事のように覚えている。
楽しいことが忘れられないから、嫌いになり切れない。
だから苦しい。
思考回路がぐちゃぐちゃで、いろいろなことが頭を巡る。
そうこうしているうちに、部活紹介の前半が終わって休憩時間が始まったようだ。周囲の同級生はそれぞれどの部活に入りたいかの話で盛り上がっている。文芸部の他にも興味のある部活はいくつかあったけれど、結局説明は右から左で全く持って頭に入ってこなかった。 一番の問題は着々と近づいている。休憩後のトップバッターはバドミントン部なのだ。赤T先輩がもし出てくるとすれば、間違いなくまた僕の心は揺さぶられてしまう。
あそこまで真っ直ぐ、ただひたすらにバドミントンが大好きなのが傍から見ていてもわかるような眩しい人がこの世にいるとは思わなかった。あんな人が中学の部活にいたら、どんなに良かっただろう。
でも、それが表向きの姿だったら?
結局また同じことを繰り返すことになったら?
うじうじしていても意味はないのはわかり切っているのに、それでもやはり考えてしまう。でもまさか入学早々サボるわけにはいかないし、腹をくくって大人しく時を待つしかない。まあ、何もしていなくたって時間は進むし、つらいことも楽しいこともいつかは同じように過ぎ去っていくものだ。
最悪つい
さて、後一分で休憩時間が終わりだ。ちらりと横目でステージを見ると、いつの間にかコートのセッティングが完了していた。断じて楽しみなわけではないけれど、ちょっとだけドキドキしている。
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