華の高校帰宅部ライフ

 四月、常日頃からそれなりに勉学に励んでいたおかげで成績もそれなりだった僕は、第一志望の高校にめでたく推薦合格していた。


 部活を終えてから本腰を入れて勉強したんじゃもう遅い!なんて先生から耳にタコができるくらい聞かされていたから多少の不安もあったけれど、あの最低最悪の部活のおかげでちょっとやそっとじゃめげないメンタルと集中力という大きな武器を手に入れていた僕に死角はなかった。最終的には志望校のランクを上げてもいいんじゃないか、なんて先生に言われるくらいになったのだ。

 

 まあ、万が一にもあいつらと被る可能性がある高校を志望校になんてしたくなかったから丁重にお断りした。そんなこんなで僕は、あまり中学の同級生が志望しないであろう片道十キロは余裕で越えるここ、「晴風せいふう高校」に入学を決めたのだ。

 

 入学式を終えて僕たち新入生がごった返す玄関周辺では、先輩らしき人々による部活動の勧誘も行われている。確か来週説明会があるらしいからそこで嫌でも勧誘できるのに熱心だな。

 

 高校ではもう毎日のように部活に明け暮れるのは嫌だ。晴風高校は僕の中学みたいな部活に絶対所属なんていうしょーもないルールがないことはすでにリサーチ済みだ。

 

 僕には華の帰宅部ライフが待っている!

 

 放課後はひたすら本を読んだり、ゲームをしたりするぞ!!まあ、もし一週一活動くらいの緩い部活で面白そうなのがあれば、入ってみてもいいかもな。

 あれやこれや考えながら人波を掻い潜り、ようやく駐輪場へと足を踏み出したちょうどその時だった。


「バドミントン部です!全国目指してるので経験者でも初心者でも興味のある人は体育館に来てください!絶対損はさせないから!」


 突然空気がビリビリと音を立てているような、そんなすさまじいボリュームの叫びが響き渡った。声の主を探して周囲を見回すと、何やら二階の窓から身を乗り出す人影が見える。真面目な生徒が多いと評判の晴風高校らしからぬ光景に、周りの生徒も上を見上げて怪訝そうな目だ。

 

 そんな視線などお構いなしに右手にはラケット、左手にはシャトル、そんでもって制服ではなく真っ赤なTシャツを着て笑顔で両手をブンブン振り回す先輩らしき人。

 確か校則では、校内では部活の際を除いて制服以外の着用は禁止されていたような気がするけれど大丈夫なのだろうか。


「おい!そこでなにやってるんだ!」

「うわっ矢場センじゃん!来るの早いな!」


 僕の心配は案の定的中し、先輩は新入生の間でもすでに怖いと話題の矢場先生に見つかってしまったようだ。


「それじゃ!そういうことで、部活の見学したい人は第二体育館までよろしく!」


 それだけ言い残すと、颯爽と廊下を走り去っていく先輩。それと同時に矢場先生の怒号も遠ざかっていく。

 嵐のような出来事にしばしフリーズしていた同級生が一人、また一人と動き出す中、僕は未だに二階の窓から目を離せずにいた。

 

 あれほどもう二度と部活には、特にバドミントンになんて絶対に夢中にならないと固く決心していたのに。

 どうしてか、心を惹かれてしまう。

 

 いやいや、たまたま自分がやっていた競技だから無意識に目が行っただけで、あんなひどい目にあった競技をもう一度やろうと思うほど僕は物好きではないはずだ。

 入部したいなんて思うはずもない。

 一度くらい見学に行ってみようなんて思うはずがないのだ。

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