嬉しやむなし練習試合
「えぇぇぇーーー!?練習試合ぃ?」
愉快な自己紹介タイムの翌日、男子バドミントン部の部室に羽代君の絶叫が響き渡る。
遡る事十数分前、おっかなびっくりといった様子で第二体育館にやって来た彼は、あれよあれよという間に先輩方によってここに連行された。
僕と小夜川君は松下先輩の「ついて来いお前らー!」の掛け声に追い立てられて、わけもわからず連れていかれる羽代君を追いかけて今に至る。
もう少し詳しく振り返ろう。部室にたどり着くや否や、なぜか突然ミーティングが始まったのだ。そこでニコニコ笑顔の南先輩から、来週末練習試合をすることが発表された。
ここで冒頭の羽代君の叫びに繋がる。羽代君が叫んでいなくても、その数秒後にきっと僕か小夜川君が叫んでいたに違いない。それくらいの驚きだった。
なんでかって?説明しよう!我らがバドミントン部は、まだ入部届すら出していない羽代君を部員にカウントしても全部で六人。そしてそのうち一人は、全力素振り練習中でまだ一度もシャトルを打ったことのない戦力外の僕なのだ。ついでに言うとまだルールも完全にわかっていない。絶賛勉強中だ。
一体どうしてこのタイミングで?
戸惑いと不安が入り混じったような何とも言えない表情でフリーズしている羽代君を筆頭に、言葉を失う僕たち一年生。もしかすると、羽代君は中学時代に嫌な思いをしていたからバドミントンを続ける気はなかったのかもしれない。それなのに突然引っ張り込まれで練習試合なんて言われたら声をあげてしまうのも無理はない。
「あの…、羽代君大丈夫?」
「ん?何が?」
「その、なんだか元気がなさそうだから、もしかして本当はバドミントンやりたくないんじゃないかって思って」
一年生のユニフォームをどうするか先輩方がやいのやいのと話し合いを始めた隙に、隣の羽代君にそっと声をかけてみる。
「あー…、バドミントンが嫌いなわけじゃないんさ。実はバドミントン関係でいい思い出があんまりないから、少しだけ不安になっちゃって」
「そっか…」
苦笑いを浮かべながら言葉を濁す羽代君。さすがに何があったかぼんやり知っているとは言いにくくて、僕も言葉に詰まる。
「うちの学校って絶対部活に入らなきゃってわけじゃないじゃん?だからもし嫌になったらその時はいつでも辞めるつもりでいるんさ!先輩方も悪い人たちじゃなさそうだから、きっと理由を話せば納得はしてくれるだろうし。あの時と違って逃げ場があると思えるだけで気持ちが全然軽いよ。だから、きっかけが何であれせっかくもう一度バドミントンと向き合う事になったんだし思いっきり楽しみたいと思う」
「そっか!無理をしているわけじゃないならよかった。これからよろしくね!」
「うん!こちらこそ」
なんだかこっちが気を使ってもらっちゃったかもしれない。思っていることが顔に出やすいのは僕の弱点だ。でも、羽代君がうそを言っているようには思えなかった。
「よっし!決まりだな!」
丁度会話が終わったタイミングで、松下先輩の声が響く。話し合いが終わったみたいだ。
「ユニフォームはとりあえず部室に残ってた昔のやつを使おうと思う!それなら人数分あるから!」
「クリーニングとかも済んでるから、一年生以外もズボンだけ自前で用意してもらえれば今回は大丈夫だよ。じゃあ、練習試合の予定表配っちゃうね!その後は作戦会議とそれを踏まえた来週末までの練習計画をたてようか」
十中八九初心者の僕には出番がないはずなのに、それでも当然のように全員分ユニフォームを用意してくれることがとっても嬉しい。なんだか心が温かい。
「はい」
「ありがとうございます!」
一体どこの高校が相手なんだろう?そもそも県内でどこが強いのかな?様々な疑問を頭に浮かべながら南先輩から手渡されたプリントに目を落とすことは、
「あ!それと校長から言われたんだけど、練習試合で団体戦やって勝てなければ部室没収だってさ!」
「「「ええぇぇぇー!?」」」
松下先輩の衝撃発言によりかなわなかった。
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