嬉しやむなし練習試合 その2

「あ!それと校長から言われたんだけど、練習試合で団体戦やって勝てなければ部室没収だってさ!」

 

「「「ええぇぇぇー!?」」」


 本日二度目の「えー!?」が部室に響き渡る。それも今度は一年生三人の綺麗にそろった大合唱。

 うん。知り合ってまだ間もないけど、きっと僕たちは仲良くなれそうだ。


 現実から目を背けたくてついそんな場違いなことが頭に浮かんでしまったのも、仕方のないことだと思う。


「どうして突然そんなことになったんですか!」


 普段落ち着きのある小夜川君が、勢い良く松下先輩に詰め寄る。


「それが、バドミントン部はなかなか難しい状況にいるんさ。うちの部が廃部寸前なのは部活紹介でも言ったじゃん?残念ながら長い事目立った結果は出せてないし、部員はどんどん減っていく。それなのにその昔全国常連の強豪だった頃の名残で部室は他の部よりかなり広いんだよ」

「そうなれば、他の部活から良く思われないのはみんなもわかるよねー?」


 珍しく眉間にしわを寄せる松下先輩の横で、天野先輩が切れ長の目を細める。


「他の部との関係もそうだけど、校長先生も何でかすごくバドミントン部に厳しくて今までもいろいろあったんだ。だけど、松下たちが頑張ってくれていたおかげで人数は少なくてもどうにか廃部は免れていた。だから三月に今年団体が組める人数集まらなかったら廃部って言われたときはさすがにびっくりしたよ。練習を少なくしたり楽にすればもっと気軽に入部してもらえるかもしれないとも思ったんだけど、僕たちは全国を目指したい。だから、話し合ってバドミントンを楽しむためにも、より高いところを目指すためにも、妥協はしないって決めていたんだ。でも、見学に来た新入生たちは皆逃げていっちゃうし、一時は本当に廃部も頭をよぎった」

「…だから、入部してくれて本当にありがとう。練習試合、一緒に頑張ってほしい」


 色々なことを思い出したのかなんだか複雑そうな顔の南先輩の隣で、花光先輩が柔らかに微笑む。

 我らがバドミントン部、と言えるほどまだ長くここにいるわけではない僕だけど、この部はきっと先輩方の思いや努力が積み重なって今日まで続いてきたんだと肌で感じた。

 まだ右も左もわからない僕だけど、この先輩方と一緒に、この学校を背負って、いつか全国のコートに立ちたいと思った。隣の羽代君も、心なしか目が輝いている気がする。


「なるほど。つまり今回は周りの部の不満もあって校長先生がこんな無茶を仕掛けてきたというわけだったんですね」

「おう!そういうことになる!確かに部室は他と比べて広いから最近演劇部と話し合って小道具置くのに半分くらい貸すって話になってたんだけど、部室の存在自体危うくなるなんてちょっと面倒くさいことになっちゃったな。ま!勝てばいいんだけど!」


 冷静さを取り戻した小夜川君が、簡潔に状況を整理してくれた。事の重大さに対して空気が重くなりすぎないのは、松下先輩のカラッとした明るい雰囲気のおかげかもしれないな。


「それで、肝心の練習試合相手はどこなんですか?」

「あー……、それなんだけど、実は白間川学園なんだよね」

「え!白間川学園ですか…あそこって確か怖そうな人が多いような…」


 小夜川君の問いに、天野先輩がちょっと言いにくそうに答える。それを聞いた羽代君は何ともいえないリアクションだ。

 それもそのはず。金髪、ピアス、その他もろもろ、大抵のことは許される。怖い人がいっぱい、遠回りしてでも迂回したいで有名な、僕でも名前を知っている、あの白間川学園なのだ。


 これならいっそ、県内トップの強豪校と試合の方が気持ち的にはまだ良かったかもしれない。部室どころか自分を含めた部員のみなさんの命が心配になってきたぞ。

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