作戦会議を始めましょう!
「それで、小夜川は白間川学園について何か知ってることはある?」
「はい。皆さんもご存知のようにかなり特殊な状況の学校なため、大会も参加したりしなかったりみたいです。さらに部活自体も自由参加のサークルのような状態らしく、大会に出てきたとしても毎回メンバーが違ったり個人戦に一人だけ出ていたりと全く傾向が掴めません」
「なるほどね!だから大会で見かけないことも多かったんか!あれだけ派手だとやっぱり目立つから、いつぞや団体戦に出てきたときなんか会場がざわついたもんね。ひなたとかめっちゃ怖がってたし。ってつつくなよ!」
さすがの小夜川君。何も見ずにスラスラと情報が出てくる。まだ入部してから日が浅いのに、すっかり先輩方から頼りにされているな。それにしてもいったいどこから情報を仕入れてくるんだろう?
眼鏡を光らせる小夜川君の横で、思わぬ暴露に天野先輩の肩を高速ツンツンする花光先輩。三角座りをする横顔は心なしか不満げだ。一週間ほどバドミントン部の先輩方を見てきて最初とのギャップが一番大きいのは、間違いなく花光先輩だった。
「あ!それと、一人だけほとんどの大会に参加している選手がいるみたいで気になりますね。三年生の宮郷って人です。えっと…バドミントンは小学4年生から始めたようで、中学二年生頃から高校一年生の一学期頃まで二年程、パッタリと大会に出場していない空白の期間があるようです。ですが、それ以降は県内の大会にほぼ参加しています」
「宮郷?俺どっかで聞いたことあるかもしれない。あれー?どこだっけ?…あっ!小学校とか中学の最初の頃は確かに県大会に名前があった気がする!なるほどあいつかー!うーん、どんな奴だったかな?」
「幹人が知ってるってことはかなりバドミントン歴も長そうだし、確かに警戒しておいた方がよさそうですね!南先輩」
「うん。そうだね。小夜川情報を見る限りほぼシングルスで出場しているみたいだし、常に安定して二回戦までは勝ち抜いてる。団体戦の記録も、シングルス
今度はどこからかノートを取り出しまたもやツラツラと話し出す小夜川君。一人でうんうん唸っている松下先輩をほったらかしにして、他の先輩方は興味深そうに小夜川ノートをのぞき込んでいる。
「そうなると、ダブルスに天野・花光組と…急造コンビになっちゃうけど羽代・小夜川の一年生組で出すのが無難かな?というか今の戦力で勝ちに行くにはこれが一番ベスト……というかこれしか組みようがないよね。そんで第二シングルスと第三シングルスは……」
「あっあの!さっきから言ってるシングルスワン?とか第一第二とかって?」
「ああ、ごめんごめん!団体戦のルールとか、まだ全然説明していなかったもんね。高校の団体戦は、基本的に二複三単…つまり、ダブルス二試合とシングルス三試合の計五試合で行われるんだ。先に三勝した方が勝ちってわけ!」
危うく置いてけぼりになりそうだった僕に、しまったという顔で説明してくれる天野先輩。五試合もするなんて初めて知った。結構時間もかかるし疲れそうだな。でも、シングルス三試合ってことは三人、ダブルス二試合ってことは四人。三+四=七ってことは七人必要なんじゃ・・・?今うちの部はマネージャーの南先輩を除くと松下先輩、天野先輩、花光先輩、羽代君、小夜川君、僕の計六人。一人足りないのでは?!っというかこのままだと
「なるほど。でも松下先輩がシングルスワン?で、ダブルス二試合に天野先輩、花光先輩ペアと羽代、小夜川ペアが出たとして残りの二つのシングルスってどうするんですか?もう残っている部員は僕だけですよね?」
「おっ!よく気づいたね。ここからがちょっとややこしいんだけど、第二シングルスと第三シングルスには、ダブルスに出た四人の中なら誰でも重複して出られるんだ。だからダブルス二ペアとシングルス一人の合わせて5人いれば、ギリギリチームが組めるってわけ。シングルス1でも第一シングルスでもどっちで言っても通じると思うから、そんな感じなんだ~ってザックリ覚えとけば良いよ」
よかったぁ。下手したらルールもわかっていない僕が出されてボッコボコにされるんじゃないかと思った。あれ?でもそれじゃあエースの松下先輩は一回しか試合に出ないの?それじゃあなんか損な気がする。
「松下先輩がもう一回シングルスに出たりはできないんですか?それが駄目なら羽代か小夜川と組んでダブルスで出たりはすればいいんじゃ?」
「それなんだけど、さっき松下を出そうって言っていた第一シングルスに出た選手は他の試合に重複して出ることはできないっていうルールなんだ。だから青葉の言うように上手な選手をダブルスに配置して第二、第三シングルスにも出られるようにする戦術をよく見かけるよ。だけど今回はちょっとイレギュラーな状況なんだよね、ひなたー?」
「……経験者の一年生二人のうち小夜川はダブルスが得意で、小夜川情報によれば羽代はネット前での早いラリーが得意。これはダブルスの前衛で生かせる。さらにはシングルスで関東大会に出場経験もあるから、できればシングルスとダブルスどちらにも出てほしい。松下君は、シングルスが得意でダブルスはちょっと苦手。ダブルスするなら、組む相手と息を合わせるのにはある程度時間がかかるタイプ。だから、本番が間近に迫っている中で急にペアを組んでダブルス練習を始めるのは得策ではない。さらに、相手には第一シングルスで出てくる確率が高い実力者がいる。それならそこに松下君をぶつけて確実に取りに行きたい」
「おお~!ひなたがこんなに喋ってるの久しぶりに聞いた~!やればできるじゃん!」
「……うるさい、天野涼」
「だから何でフルネーム!?」
未だかつてなくスラスラとよどみなく解説をする花光先輩。とってもわかりやすいし、聞きやすい声で内容がスルスル入ってきた。ドライな反応をされている天野先輩は見なかったことにしよう。
「それに、実は俺とひなたのペア毎回県大会だとかなりいい線いってるんだよね。だから県内なら、それこそベスト8に入ってくるようなペアじゃない限り勝てる自信がある。松下がシングルスで一勝、俺とひなたが第一ダブルスで一勝、第二ダブルスの羽代・小夜川組かシングルスの二か三にエントリーする羽代のどっちかが勝ってくれれば、ほらっ!三勝で俺たちの勝ち!」
キラキラ笑顔でピースする天野先輩。その姿はなんだか雑誌にでも載っていそうだ。ふと先輩の後ろを見ると、羽代君がプルプル震えている。・・・・震えている?!
よくよく見ると頬も紅潮している。調子でも悪いのかな?
「羽代君?大丈夫?」
同じく羽代君の様子に気づいていたらしい南先輩が、心配そうに覗き込む。
「いえっあの、僕団体戦に出るのは練習試合も含めてもこれが初めてで、それも二回も試合をさせてもらえるなんて、夢みたいで嬉しくて」
「フフッ。体調が悪いわけじゃないのならよかった。頼りにしているよ」
「はい!もうしばらくラケットを握っていないから不安もありますが頑張ります!」
感動で震えていたらしい。このタイミングでもし羽代君がダウンしていたら、危うく練習試合が不戦敗になるところだった。ほんとに良かった、一安心。
「よっし!それじゃあ対白間川のオーダーはある程度固まったし、チャチャッと来週末までの練習計画立ててできる限り早く体育館に行くぞー!」
『おー!』
松下先輩の号令に、全員の声が綺麗に揃った。
絶対に負けられないプレッシャーの中での練習試合なはずなのに、久しぶりに羽代君のバドミントンを見られることにワクワクしている自分がいる。先輩方や、小夜川君のコートでの姿も早く見たいな。
僕も、できることを精いっぱい頑張るぞ!
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