事故に遭った「僕」は、不可解な状態から、あるものを見る。「怖い」と一言も書いていないのに、ひたすら恐ろしいホラー短編。一人称語りの妙味が光ります。不気味なのに、非常に切ない読後感がします。匂いの描写が鮮烈でした。
少年時代と現在が入り交じる。そのノスタルジックな雰囲気の中に、戦慄が投げ込まれる。しかしその戦慄も何ということのない出来事のように描かれていて、美しい情景描写に違和感なく溶け込んでしまう。この短い作品の醸し出す雰囲気は、相当異様だと思う。
冒頭、「明日」のことを気にする彼が、不穏ながらも、どこか可笑しくて、ワクワクしました。全然、良くないんですけど、ハッピーエンドのお話を読んだような気持ちになります。…いや、ハッピーエンドでいいのかな?
幸せなのか、不幸せなのか……じりじりと伝わってくる恐怖を感じる作品!
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