第29話 ハッピーエンド
「シアノバにはバルトがいるじゃないか?」
「私って可哀そうなの。せっかく羽衣で知識を与えてあげたのに捨てられちゃったのよ・・・」
シアノバの話では俺は数日眠っていたらしく、バルトが逃げ出しナイフが本物だったとわかるとそれを軍が追っているという話だった。
「3日も前の話なのか・・・」
・・・・
「バルト様 ここが遺跡ですか?」
そこは 石の床が広がる城後のような場所だったが草木が生い茂り、遺跡の面影は全くなかった。
バルトはゴーレムから降りるとナイフをかざして進む
すると何もなかったはずの城後から遺跡が姿を現した。
「これが 遺跡・・すごい」
「遺跡の中は二人の神官が必要だとメキストの書庫の文献には書かれていた。だからお前を連れてきたのだ」
「それで願いは 金でいいですか?山分けですよ。俺にもその権利があるはずだ」
「いいや 金は騙され、盗まれればそいつの物になってしまう。それより知識がいいだろう?羽衣の知恵を得てからオレはこの快楽に抗えなくなってしまったのだ。知恵は盗めない。そしてオレの代わりはいない。お前もそんな存在になりたくはないか?」
「神の知恵か・・へへへ。羽衣の知恵よりもすごそうだ」
ニマニマと笑う二人は 遺跡の入り口までやってきた。
ゴリラの像が二つ置かれており 石像のわりに大きな遺跡ではないのだが、中に光はなく入口から奥は真っ暗だった。
「石像か?この奥に神がいる」
「これが神様の像か? ははは ゴリラだぜ。 なんだコイツらは! うわぁぁ」
「レイギ ヲ シレ・・」
ベチャ!!
二体の巨大なゴリラの石像が動き出した。
そして ルビーのハンマーとサファイアのハンマーを振り回す。
バルトは 隙を突いてゴーレムに乗り込みゴリラのハンマーを受け止めた。
「オレのゴーレムをなめるなよ!」
しかし 受け止めたハンマーの上にもう一つのハンマーが打ち付けられた。
ドスン! ドン!ドン!ドスン!
「うわぁ・・。シアノバめ 騙したな・・」
バルトは 潰れてしまった。
・・しばらくして軍がやってきた・・
バイクにまたがる兵士は 大きな音がした方角へバイクを走らせる。
「先ほどの音は 戦闘でしょうか?」
「遺跡には 当然ワナが仕掛けられているだろう」
「では バルトはワナに?」
「いいや。ヤツは遺跡に潜んでいるだろうな。知恵者と言う話だからな。おそらく先に重要なヒントかアイテムを集めて交渉をするつもりなのだ」
「隊長! あれを見てください。ナイフです。城後の石床の上にナイフが落ちています。」
隊長は 走り出しナイフを拾い上げるともう一本のナイフを取り出して二本を頭上に掲げた。
「がははは 対になるナイフで間違いないぞ!」
「おー!!」
パチパチパチ
「ん? なんだ?」
隊長の後ろに遺跡が姿を現した。
「なるほど、バルトのヤツはここで仲間割れを始めたようだ。所詮は欲に群がる者どもの集まりよ」
隊長は 遺跡の入り口に立つと両手のナイフを高らかと掲げたまま兵士に宣言をした。
「いいか! その昔エルフの王族は不死に近い力を得たが滅んだと聞く。なぜだかわかるか?」
隊長は ナイフを向けて兵士たちを指さす。
お前は?
お前は?
ゴゴゴゴ・・・
「遺跡が揺れたぐらいで怯むな。いいか? 力を独占すれば恨みをかい滅びるのだ。だから オレはお前たちに宣言しよう。叶える願いは メキストの復興ではない。我々が一人残らず不死に近い存在になることだ!!」
おー!
隊長に付いて行きます・・。
さすが 隊長だぜ!
演説が終わった隊長は 掲げたナイフを下ろすと カッコよく逆手に持ち替えた。
炎と氷のナイフが日の光を美しく照り返す。
ゴゴゴゴ!
「レイギ ヲ シレ」
ベチャ!!
隊長にハンマーが振り下ろされた。
潰され打ち下ろされたハンマーの周辺は凍り付き 兵士たちも氷漬けになった。
ドスン!
ルビーのハンマーが打ち下ろされ。そして 氷は砕けたのだった・・・。
・・ショウスケたちが現れた・・
「ここが 遺跡なのか?何もないじゃないか?」
「そこを見て。ナイフが落ちているわ?」
なぜか二本のナイフが置かれており周囲には誰もいないようだった。
「どうみても ワナだろ? スキル:ネーチャーリバース!!!」
ショウスケの周辺のガレキが自然物へと変わりウネウネの芽が現れた。
「でも 遺跡に入るにはナイフが必要なはずよ」
「じゃぁ バルトと軍はここで倒されたということか?」
「知らないわ。ワナかもしれないし 逃げたのかもしれない。私はどうしたらいいのかしら?」
「俺の覚悟は出来てる。シアノバは逃げてもいいぞ」
シアノバはナイフを蹴り上げると 一本を自分で握りもう一本は俺の方に投げてよこした。
「壁画を思い出して。ナイフを捧げる神官は二人いたはずよ。きっと 意味があるのよ」
ゴゴゴゴ!
ドスン! ドスン!
攻撃を交わしたショウスケは ウネウネでハンマーを絡めとろうとするが氷と炎にウネウネは歯が立たない。
「レイギ ヲ シレ」
「ショウスケ 私はどうしたらいいのかしら?」
ドスン!
シアノバは 両手を広げて笑い出した。
ショウスケは シアノバを抱きかかえて転げるように回避した。
「大丈夫か?」
「天女は非力よ。だから守ってくれる人が必要なの」
ゴリラたちが転んで動けないショウスケたちに狙いを定めてにじり寄る。。。
ショウスケは 壁画にあった絵を思い出した。
二本のナイフ。
それを捧げる神官の姿。
礼儀?捧げる? そうか。
「神官のナイフを捧げる絵の意味はこれだったのか。シアノバ ナイフを頭上より上にあげるんだ」
二人はナイフを掲げるとゴリラの動きは止まった。
ショウスケはシアノバを抱き起し 松明を掲げるようにナイフを掲げた。
ゴリラはまぶしそうに 目を細めてただナイフを見ているようだった。
「こんな簡単な事だったのね。でも ねえ 私も少しは役に立てたのかしら?」
「少しだけな。 さあ 行こう」
俺たちは遺跡の中へ入った。
遺跡は 外からは真っ暗だったけど中に入ると不思議と薄明りが差したような明るさがあった。
しばらく進んでいくと 黒い壁が現れた。
よく見れば 壁というより闇が壁のように見えるようで 通り抜けができそうだ。
「何してるの?早くいきましょうよ」
暗闇に入って行ったシアノバの姿はすぐに見えなくなった。
でも しばらくすると再び闇の中から帰ってくる。
「ショウスケ これはワナだったわ」
「奥に何があったんだ?」
「ふふふ 私と来て正解だったわね。これは エルフ以外の種族が通り抜けられないように考えられたワナよ」
この闇の中では 時間が止まったような感覚になるらしい。
もしかすると 昔のエルフたちは二人でこのワナに入り 互いを励ましながら数百年の感覚に耐えて神に会っていたのかもしれない。
「ワナというより 試練だな」
「寿命が長いエルフじゃなければ 精神が崩壊しちゃうでしょうね。ふふふ」
シアノバは 軽く回って踊る。そして手を差し出してきた。
「暗闇は5歩ぐらいあるわ。だけど天女の私にはそもそも効かないの~。さあ 私の手を握って」
シアノバの手を取り 闇の中へ入る。
「本当に真っ暗だ」
「絶対に私の手を放しちゃダメよ」
さらに進むと感覚が 無くなった。
そして時間が止まる。
「ここはどこだ?」
半年後・・
意識は確りとしていて眠くなることもお腹が空くこともない。
真っ暗な闇の中、なぜかシアノバの手だけが見える。
この手がなかったら俺はとっくにダメだったかもしれない。
「ふふふ ショウスケ 確りして。私が居るわ。さあ 進みましょう」
数年後・・
「なあ シアノバ どうして天界にいたくないんだ?」
「また その話が聞きたいの? でも いいわ。何度でも話してあげる」
さらに 数年後・・
「ショウスケは私の事が好きなんじゃないかしら? きっとそうよ。ふふふ」
十年後・・
「ショウスケ。教えてあげるわ。私を失う恐怖をね。必死にもがきなさい。そしてあなたから私を求めなさい。私を愛することであなたは救われるのよ」
「手を離さないでくれ やめてくれ!!」
シアノバは手を放した。
すると 暗闇が包み五感のすべてが闇に消えた。
上も下も臭いもない世界は 退屈というより恐怖しかない。
頭が痛いような気がするけど痛いのかもわからなくなった。
「これが 死なのか・・」
さらに 十年後・・
「なんだ 簡単な事だったんじゃないか ははは」
俺は 足を一歩踏み出した。
遺跡の中の薄暗い光をまぶしく感じてマブタをこする。
目の前にはシアノバが手を伸ばしていた。
俺はシアノバの手を握った。
「帰ってきた」
「どうして 私を求めないの?そんなにリザリアがいいの?」
ショウスケは 自分の右手の薬指を見たが・・何事もなかったかのように「??」と視線を戻した。
「ああ それを言われると辛いところだ。 実は途中までシアノバの事を好きになりかけていた。俺たち人間には 生きていくためにきっと呪文(ルーン)が刻まれているんだ」
通路の奥から 声量のある若い声が聞こえてくる。
「その通りよ。生命を維持するために人にはルーンが刻まれているの」
ヒールの音をコツコツとさせて奥から現れたのは金髪の神々しい女性だった。
シアノバが 腰を抜かしてっ口をパクパクさせる。
「女神様? でも・・お若い・・。」
「若い??ありがとう。 あなたは多分、私の天女ね?少しだけ眠りなさい」
女神はシアノバのオデコに手を当てるとシアノバは眠ってしまった。
「なるほどね。シアノバって名前だったのね。それからショウスケ。事情を話すから付いてきなさい」
奥に進むと 大きな時計のある部屋に通された。
「私は女神。といってもあなたを狙っている女神じゃないわ。それよりもずっと過去の女神なの」
この世界を造った神は女神だった。
そして大昔 自分の一部をこの時の部屋に閉じ込めて世界を管理しているらしい。
「・・・未来の私って 性格が悪くなるのね。残念・・でも 若い私が変わろうとすれば少しだけ未来は変わるはずよ。教えてくれてありがとう。お礼に一つ願いを叶えてあげようと思うけど 何かあるかしら?」
ショウスケは膝をついてお願いをした。
「リザリアを復活させてください」
「どうして? 願いは一つだけなのよ。それでいいの?もしかしてリザリアってぇ あなたのことが好きなのかしら?」
「いいえ わかりません。」
「じゃあ あなたがリザリアの事が好きなのかしら?」
「それも わかりません。」
「なるほどね。あなたって初対面の相手が苦手だったわよね?シアノバと二人きりで遺跡に来ちゃうしどうなってるのかしら?」
女神は首をかしげると 今度は笑い始めた。
「ふふふ ははは。あなたを試してあげるわ。だから約束して 願いをかなえる代わりに自分の気持ちをリザリアに伝えるって」
女神が手を振ると俺の薬指に天女の羽衣の糸が現れた。
時計よりもさらに奥の部屋へに続いているようだった。
「その糸の先にリザリアがいるわよ。さあ 進んで」
進んでいくと 蒸し暑く湯気の立ち込める温泉のような場所に出た。
糸を引っ張ると さっきまで手ごたえのない糸に手ごたえが出始めた。
「リザリア・・」
「ところで あなたは天女を作りたいと思ったことはないのかしら?」
「それは どういうことだ?」
「そのまま歩けばリザリアは現れるわ。でも リザリアがあなたの思い通りの答えを持っているとは限らないわよ。それでもいいの?願いは一つなのよ 叶う前によく考えて。。」
俺は自分の考えを巡らせながら糸を引っ張った。
すると 湯気の奥からぼんやりと 景色が見え始めた。
「これは メキストのトリデの映像だ!」
女神は軽く拍手をした。
「おめでとう。あなたはその気持ちを大切にするのよ。」
ゴーレムと戦ったときの過去の映像のようだった。
奥にいるのは 俺とリザリア?
トリデに居たリザリアは消えてこちらに現れる。
「リザリア」
ショウスケはリザリアを抱きしめた。
「リザリア 好きだ!愛している」
「私・・私はどうしたらいいのかしら?」
「なんでも好きに言ってくれ」
「私ね。嬉しくてどうしたらいいのかわからないの!私も ショウスケが好きよ」
こうして初対面が苦手な二人は 力を合わせて生きていく事になったのでした。
キャンピングカーで異世界の旅 もるっさん @morusan
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