第5話 ウォークの美味しいお酒
大理石をくりぬいたような室内に皮に似た素材のソファーが置かれていた。
「cabin02へようこそ」
これから一緒に旅をすることになったけど室内はどうだろう?
リザリアにはわからないかもしれないけどソーラーパネルのほかに・・機能や・・・からもエネルギーが取り出せる。
「・・・まさに 地球のような車なんだ。すごいだろ、リザリア?」
だけど リザリアは首をかしげて感心そうに車内を眺めているだけで、「クリーナ部分がそんなことに!」とか「えぇぇ!ウォータろ過機能?すごーい」「ショウスケの車は最高よ」なんて言ってもらえるはずもなく、彼女が出来たらきっとこんな感じの反応なんだろうと予習をした気分になった。
そして女の子はファンタジックだ。
助手席に乗せたときに フカフカのソファーに腰を沈めて「魔獣のベロの上に座ったみたいね。食べられたりしないかしら?」と魔獣のベロに乗った事でもあるような言いぶりだった。
魔獣だなんて まさかね。
オフロードだけど振動もなくcabin02は走り出した。
魔獣のベロの上にも乗りなれたリザリアと話をしてみると 焚火とかキャンプの話は通じるので楽しいし
はっきりとは言わなかったが仕事の話をするとブラック企業で働いているような匂いがした。
cabin02を手に入れた俺も夢がかなったと思ったら今度は冒険の旅が待っていた。
リザリアもこれから自分の夢をどこへ運んでいくのだろう?
せめてネットが繋がる様になったらグッツくらいは買ってあげよう。
「馬車が見えてきたわ」
前方には道の真ん中を塞ぐように止まっている馬車が見えてきた。
ドローンで撮影した景色とも同じようで動いていないのか?
しかも 暖かい気候なのにもかかわらず毛皮のコートを着込んだ男性が体格の良さに任せて
馬車の車輪を押し上げているようだった。
車輪がぬかるみにハマったのか?
ブヒーっと変わった声を張り上げて 力強く押し上げようとするものの最後の一押しがうまくいかずに車輪が抜け出せない。
「ショウスケ 困ってるみたいよ・・」
「ああ 俺 実は初対面の相手が苦手なんだ・・」
「私の方が苦手なのよ」
「コート 脱げばいいのにな。暑そうだ。リザリア 教えてあげたほうがいいんじゃないか?」
「馭者がいないから 馬が草を食べているわ。ショウスケなら手伝えるはずよ?」
「なあ 助けるよな?」
「ええ もちろんよ。おいて行けるはずないじゃない」
リザリアが うるんだ瞳をこちらに向けてきた。
俺の右手が ドアを開けようとプルプルと動き出す。
「ショウスケ お願い」とウィンクをしてきた。
リザリアはずるいと思った。けど なんで?って聞かれても答えられるわけもなく
cabin02のドアが開く 俺は馬車の方へ駆けだした。
そして 車輪を押している人に「こんにちは」と後ろから声をかけてみた。
「ブヒ?」
振り返った顔は ゴム製の豚の被り物?
牙もリアル。ギョロギョロとした瞳もリアル。
ヨダレまで再現されていてこれは 本物だ!
相手も戸惑うそぶりで男と男が戸惑いながら見つめ合っているけど
そこからは発展するような感情は何も生まれそうにない。
沈黙が続く・・。
「ウォークよ」と遠くからリザリアの声がした。
これがウォーク? リザリアを見ると車の側にいる・・助けてくれる気はなさそうだ。
「ワレワレハ・・地球人ダ・ヨロシクね」
「ブヒー ブヒー ブヒ?」
ダメだ。初対面の相手が苦手というより言葉が通じない・・。
だけど この状況でやることと言ったら一つだけだ。
俺は車輪を押し上げた。
「うりゃ!」
「ブヒー ブヒー!」
「うりゃ!」
「ブヒー ブヒー」
二人で押してもやっぱり重い。ぬかるみの先に中くらいの石があって持ち上がりそうなところで車輪が石に引っかかってしまう。
リザリアが車輪の側に寄ってきた。
「私も 手伝ったほうがいいのかしら?」
リザリアに車輪を押してもらうわけにはいかないし
「そうだ もし馬を前に進められるなら俺たちの動きに合わせて進めてくれないか?」と馬の方をお願いしてみた。
すると すんなりうなずいて「わかったわ。二人とも頑張ってね」といって馬車に乗る。
三人は 息を合わせて引き上げる。
「行くぞ! せ~の! うりゃ!」」
「ブヒー ブヒー」
車輪が動き出す・・が石に引っかかる。
「いい子ね、お馬さ~ん いくわよ」
馬が前進して車輪が持ち上がるとゴットン!と音を立てて車輪がぬかるみから飛び出した。
「やったわ!」
「ブヒー!ブーブー・・」
「よし!はぁはぁ」
達成感と充実感が駆け巡ったが はあ はあと息の方がきれた。
息も落ち着くとウォークは思い出したかのように飛び起きて馬車の中をゴソゴソとし始めると革袋の水筒を取り出した。
「のどが渇いただろ?」と言わんばかりに「ブヒ?」といって 袋を手渡す。
ゴクゴクと飲み干すと、これは・・お酒?
薬のような味だけど 少しハッカのようなスッキリした感じのする飲みやすいお酒だ。
「美味しかったです ははは」と感想を述べると通じているようで
「ブヒー ブヒー」と牙をむき出しにして笑っているようだった。
「ねえ 私ものみたいんですけどぉ~」
リザリアはマシュマロのホッペを膨らませて羨ましがっていた。
ズボンは泥だらけになったけど cabin02にある洗濯ポケットに放り込んでおけば大丈夫。
「いいことをすると気分がいいわね」
「そうだな」
オークがさっきのお酒を箱に抱えてこちらへ走ってくる。
きっと お礼の品だろう。
「ブヒー ブヒー・・・」といって箱を手渡してきたので受け取ると「ええ そうなの?」とリザリアが身を乗り出して運転席の方へやって来てウォークと話始めた。
もしかして・・。
「ウォークのブルクさんがね。このまま真っすぐ行くと村があるって教えてくれたの」
ツインテールは ブヒブヒと豚のような声を上げるわけでもなく人語を返して普通に会話をしていた。
「話せたのか?」
「おそらく 毛糸玉になっちゃったけどこの天女の羽衣の力よ」
ブルクさんも「ブヒー ブヒー」と最後の挨拶をしたようだ。
意味は分かるけど色々ともらってしまったし やっぱり気になるな。。
「なあ 教えてくれよ リザリア」
「そうね。今回の行いで私はますます あなたを見直したわ。ショウスケの右手を貸して?」
リザリアは 毛糸玉から糸を引っ張り出して適当なところでかみ切ると俺の左手の薬指に結んで
もう片方を自分の薬指に結んでほしいと言ってきた。
「消えた」
「これで ショウスケも話せるわよ」
糸は 結び終わると消えて触ることも出来なくなった。
ウォークのブルクさんの声がする。
「さっきは ありがとう。オレ 行商してる。この先はぬかるみも多いから 気負付けてブヒ。では!よい旅を ブヒ!」
言葉がわかると 顔の表情も人間らしく見えるものだな
「こちらこそ 美味しいお酒をありがとう。でも cabin02ならぬかるみも大丈夫さ」
「すごい馬車を持っているブヒね」
cabin02は馬車に見えるようだ。
魔法のある世界ならそう言った馬車も存在するのかもしれない。
「なあリザリア、ブルクさんと一緒に元来た道を進むのはどうだろう?行商人なら街へいくだろうし、いろいろな事を教えてもらう事もできるんじゃないかな?」
お酒を飲もうと蓋を開けて唇を付けかけていたリザリアは 残念そうにセンをした。
「先に 進んだほうがいいわ・・神様はおおらかな性格だけど 戻るのは危険よ。神は迷える者を見つけるのが得意だから 前に進まなくちゃいけないわ」
名残惜しい気持ちになったけど 先へ進むことにした。
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