第12話 ユーモア賞とみんなの発想

リザリアのところへ帰る途中 自分の手をグッ、パーと広げてみた。

自然系の魔法か~手品みたいだよな。

それにしても スパイスは売れていないようだけどカレーの売れ行きはすごかったな。

カレーを超えたい・・「カレーは 最高!がはは」なんて 俺には無理か・・。

 

リザリアのところへ帰る途中に 「毎度!」の声と共に 初日に通った太鼓の音が聞こえてきた。


トトン トン トン♪

「買う気になったかい? トン トン」


これ・・タブラって太鼓だったよな。 

初日にリザリアが楽しそうに踊っていたことを思い出した。

そして俺にできることというより 俺がやってみたい事が頭に浮かんだ。


「売ってくれ」

「毎度あり!」


タブラを持って帰るとリザリアは驚いたようだったけど

カレーを食べながら事情を話すと 売りつけられたわけじゃないと知って安心したようだった。

「・・・俺がタブラを叩いて リザリアには踊ってほしいんだ」

「それなら 私たちにもできるわ・・・簡単なリズムは私が教えてあげるわ」


トトン トン♪ トン♪「泉の水のコーヒーです! 飲んでみませんか?」


ヒラヒラと舞うリザリアは 太鼓の音に合わせてトン!と腰を振る。


トトン トン♪ トン♪「泉の水のコーヒーです!・・・」


リザリアが踊っているし太鼓のリズムがあれば呼び込みの声も出しやすいぞ。

村人たちが集まって来て 踊り終わると拍手が沸き起こった。

そして コーヒーとドード・ホールの販売を始めると思いのほか売れる。

お客が減ってきたらまた踊るの繰り返しをすればどんどん売れていった。


するとお客の中から ガネーシャたちが現れた。

「リザリア すごい売れ行きね。 私たち負けちゃうかも、ふふふ」


勝を譲るような言葉だけど クロレラたちには遠く及ばない。

ガネーシャたちはカレーを売り切ったようで 俺たちの様子を見に来たようだ。

さっき貰ったカレーの「美味しかった」と伝えてコーヒーとドード・ホールを渡すと

明日もカレーを持ってきてくれると言ってくれた。


バザーが終わって後片付けをして コンテストの賞の投票の途中結果を見ることができた。

「優秀賞はガネーシャで決まりだな。初日から参加していたこともあるけど凄い投票数だ。 それでユーモア賞は・・・はちみつナスビ?続いてコーヒーか」


初日から出品されていただけあって「はちみつナスビ」は強かった。

でも コーヒーは珍しかったらしく1日で集めたユーモア賞の中では一番の投票数だったようだ。


ビッツのところへ行くと ビッツたちはお酒を飲んでベロンベロンに酔っぱらっている。

グラスを片手に「よお! 売れたそうでよかったじゃなぇか がははは」と言いながら今晩は 家に泊めてくれると話をしてくれた。

リザリアも踊り疲れているだろうし 家のベッドで眠ったほうがいいだろう。


「ありがとう。でも 私は湖でキャンプがしたいわ ショウスケ」

そうだよな。 せっかくいい湖があるのに キャンプしないなんてもったいない。

だけど・・二人きりになるなら そろそろ聞いてみなくちゃいけない。

アレを渡すのも今晩がいいだろう。


「ああ そうだな。 俺たちはcabin02に 寝泊りをします」


ニマニマとにやけるビッツたちに見送られて湖に着いた。

薄暗くなった湖は 明るい時よりも隅々まで見通せる気がする。

カエルの声 しげっているシダに止まるトンボ

湖の中には ハスの根だろうか? その周りにはメダカが泳いでいた。



「実は話があるんだ。でも その前にこれを受け取ってほしい。俺たちの旅もいつか、終わっちゃうだろ?だから リザリアがいつでも美味しいコーヒーが飲めるようにって、リザリア専用のをドリッパーを作ってみたんだ」


リザリアはドロッパーを受け取ると湖のふちへ ゆっくりと歩き始めた。


「神のイカズチの話はしたわよね?・・キャ!」


風が急に吹いてきて飛ばされないようにと リザリアは前かがみになった。

胸の谷間が強調されて見える。


「そうだわ。バザーのおかげでコーヒーの豆を上手に引けるようになったのよ。私がショウスケのコーヒーを淹れてあげる」


なかなか慣れた手つきでコーヒーを淹れてくれ始めた。

淹れてくれたコーヒーは プライスレスの笑顔共に俺の手に託された。


「美味しいよ ありがとう」

「コーヒーが美味しいのはドリッパーのおかげかしら」

この後は お祭りの残りのドード・ホールを食べながら出会ってから馬車を助けた事や今までの事を話した。

「・・・・最初はアイドルかと思ったよ」

「・・・ふふふ ショウスケのcabin02だって すごいわよ」


数日の間だったのに沢山の思い出が出来た。


「明日はお祭りも最終日ね。 私、ユーモア賞を狙っていたのよ」

「それは もしかして俺のために?」

「そうね でも バザーをやってみてコーヒーが勝つところを見てみたいわ」

「はちみつナスビは 強いぜ ははは」

「そうね でもコーヒーは勝つわ。ふふふ」


リザリアの勝ちたいの一言に勇気を貰えた。

食事も終わり俺はテントを張って 中に潜り込んだ。


「ふん♪ フン♪ ふん♪」


焚火の炎の光がテントの照らしランタンがなくても明るく見える。

聞けなかった・・。 

シャワーを浴びるリザリアからは鼻歌が聴こえてくる。

今日は ぐっすり眠れそうだ。 


次の日・・・。


目覚めることが出来た俺は リザリアとバザーを開いていると

「ジャラン♪ ジャラン♪」とギターの音がする。

シタールの音色だった。


そうか 今日はガネーシャたちも演奏をするのか?


ガネーシャの声がする

「カレーは 熟成するほど美味いのだ がははは」


今日はクロレラの踊りとガネーシャのシタールの演奏をするようで、どこからか連れてきた村人が店番までしていて完璧だった。

昨日よりも多い人だかりが出来ていて、こっちの店は 逆にさっぱりになった。

すると店番の子供が一人やって来て「ガネーシャ様からです」とカレーを手渡してくれる。

「覚えていてくれたんだ」

カレーと受け取った。


ドード・ホールの材料は余ってしまったけど焼かないほうがいいだろう。

布を織るお金が溜まったらリザリアとはどうなるんだろう?

俺には「神のイカズチ」が狙っているから 村を離れなくちゃいけないしビッツたちに頼むことも出来るけど

リザリアが俺に付いてくる理由はもうなくなるんだ。

それでも リザリアが付いてくるというならクロレラが言っていたことを確認しなくちゃいけなかった。


リザリアが俺の視線の前に突然 張り込んできてクロレラのクネクネした踊りをいつの間にか取り入れて「楽しかったわ」とおどけた踊りを見せてくれる。

元気づけてくれているのか?


「でも ユーモア賞取りたかったわね。だって このままいけばユーモア賞は、はちみつナスビよ。私 どうしたらいいのかしら?」

それもそうだ。

はちみつナスビに負けてしまうなんて・・。


リザリアは クロレラのクネクネした踊りをマスターしたようで自分でアレンジをし始めた。

「ショウスケ タブラを叩いてもらえないかしら?イメージが浮かんだのよ」


トン!トン!トントン!


お客はあまり来なかったけど 見事な踊りだ。二人のいいところどりのようなそんな踊りだった。


いいところどりか? その手があったか?


 



「リザリア 午後からのドード・ホールの仕込みをやり直すぞ。カレードード・ホールを作るんだ!」

「えええぇぇぇぇぇ!!!!」


・・・・


トトン トン♪トン♪ 

「美味しい 美味しい カレードード・ホールだよ~ ♪」


トトン トン♪トン♪ 

カレーはガネーシャからもらっていた分があったし 調味料として加えるならそれほど沢山の量はいらない。

窯で焼いているときからカレーのいい匂いがして コンガリと焼けた大きなソーセージにカレーのソースのしみ込んだコクのあるパン生地は十分に勝負の出来るものだった。

 


トトン トン♪トン♪ 


「このソーセージ たまらないわぁ~」

「ほんのり焦げたカレーの 香ばしい匂いたまらんわい。」

「私は10本 食べたいわ 後コーヒーもお願い。」


村人が集まり、1日目とは違うドード・ホールが食べられると言うこともあって

昨日食べてくれた村人のリピーターも集まって大盛況になった。



カレーを売り終わったガネーシャが現れた

「カレードード・ホールか?素晴らしいではないか?はっはは  ジャラン♪ ジャラン♪」


後で話そうと思っていたのに そこは神様だ。

「気にするはずがないカレーは最強だ。 素晴らしいではないか?がははは」といって

タブラを叩く俺の横に座ってシタールを奏で始めて驚いたけどそんんあ暇もなく クロレラとリザリアの二人の舞が

始まった。


これが 本当の「天女の舞」。


息のピッタリ合った二人の踊りは 何百年と踊り続けただけの事はある。

ショウスケは 本当のリザリアの姿を初めて知った気がした。

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