第9話 ビスナトの村の祭り2日目

石垣や石造りの建物が見えてくると 音楽が聴こえてきた。

心が弾むような ウキウキした気持ちになる。

建物の屋根と屋根はロープで結ばれ旗が揺れており 元気よく走り回るニワトリと追いかける元気な子供たちがいた。


「バザーをやっているわ」

縁日のような臨時のバザーが軒を連ねており、奥には楽器の演奏が聴こえてきた。

これは異世界のお祭りじゃないか?

するとビッツが近寄って来てヒジを使って トントンとしてきた。

耳をビッツに近づけると「ビスナトの村は今は収穫祭なのさ。女って言うのはサプライズに弱い。舞い上がっている今がチャンスだぜ 兄ちゃん」

ビッツは背中をバシ バシ!と叩いてくると ウィンクをした。


サプライズか。。ドリッパーの事を思い出した。


ビスナトの村では ナスビが取れるこの時期に収穫祭が開かれているらしく今年のナスビの出来は例年にないほどいいらしい。

そう言うと3人でウインクをしながら帰っていった。 


「ゴミでも入ったのかしら?」

「それより。昨日貰った袋の鉱石を換金してお祭りを見に行こうぜ」

「ええ お祭りが待ち遠しいわ」


お祭りは数日間の開催がされるものらしく 遠投からは獣人や魚人や色々な種族が集まっている。

エルフこそいないけど 子ずれの親子やカップルが楽しんでいるようだった。

吹き矢でナスビを射貫くゲームや ナスビを割って相性を占う占いまであるようだ。


「リザリアは 何かやりたいものはないのか?」

でも リザリアはクビを振った。

「見てるだけで楽しいわ。みんな 幸せそうよ」

「そうだな でも ちょっと 待っててくれ」


俺は食品の売っているバザーに入った。

「いらっしゃい」

「二つくれ」

「はい ありがとよ」


「リザリア これを食べながら歩こうぜ」

「あら ショウスケは無理をするのね。ふふふ」

「いいや 買うのだけは慣れてるんだ」


村の中心辺りまで来ると ステージがあってコンテストが開かれているようだった。


「バザーの料理コンテストか」

「優秀賞・・努力賞・・ユーモア賞もあるのね」


ステージには商品が置かれていてその下には投票箱が二つあった。

すでに数日が経っているようで中間発表が張り出されている。

1位・・カレー ○○票

2位・・ナスビエックス ○○票


そして 別の箱にはユーモア賞と書かれた箱がある。

「1位は はちみつナスビ?」

「美味しいのかしら?」

だけどユーモア賞の商品は「魔法のシタール」という美しい楽器だった。

おそらく 「魔法のシタール」ははちみつナスビのものになるだろう・・。


「やあ お兄さんたち 私は村長のドルマンさ。バザーに興味があるならぜひ出店して故郷の料理を自慢してくれたまえ。歓迎するよ。」


若い村長の登場に 調子を狂わされた。

「俺は・・俺は・・」

「私は もう もうす・・」


「あはは 沈黙は金なりってね。 参加するのかな?」

「私たちには 無理です」


トントン!

太鼓の音が聞こえてきた。


「タブラの音だね。気が向いたらでいいから参加してくれよ。祭りを盛り上げてくれ」

手を振って俺たちを見送ってくれた。

バザーを開けば お金も稼げるしコーヒーが売れるだろうから悪い話じゃない。


トン!トン! トトン!


両手で器用に二つの太鼓をたたく男の前に来ると

リザリアは 歩み寄り 腰を一つくねらせた。トン!


トン!トン!


さらに次ぐく男の太鼓の魅力に引き寄せられるように リザリアの腰は一つ、また一つと動きを増やしていき

気が付いたころには 太鼓とシンクロしたかのように踊り出していた。


トン!トン! トトン!


踊りの姿に村人たちが集まってきたぞ。

そして 踊りもフィナーレなのか 男とリザリアは見つめ合い、愛を語るかのように片手を高らかと上げた。


トトン!


そこまではよかった。だけど 太鼓を叩いていた店主はリザリアに拍手をし始めて

「お嬢さん やるね! これはタブラって太鼓だけど お安くしておくよ」と商売が始まった。


ハッと気づいたようだけど もう遅い。

リザリアは ばつが悪そうにホホに笑みを浮かべるとチラ! チラ!と俺に助けを求めるような流し目をしてきた。


「ギターの音色がするなぁ~ あっちにいってみたいなぁ~」

「そうね ギターの音色がするわぁ ショウスケがそこまで言うなら、あっちに行ってみたいわぁ」

「太鼓はよかったから また来るかもしれないな~」

「そうねぇ 楽しかったから後でまた来ちゃうかもしれないわ~・・」


俺たちは店主に背を向けて 店を離れた。

店主は「ありゃー ギターじゃねえ。シタールって言う弦楽器さ。タブラとも相性がいいから一緒に買っておくれ。まいど!」と軽く叫んだ。

リザリアと手を繋いで 小走りに逃げ出した。

音色の場所に到着すると「カレー売り切れ」の看板と共にいくつかのスパイスが売られており 店番に砂漠にいそうな踊り子の服を着た女性と退屈そうに金のネックレスをした男がシタールを奏でていた。


女性は顔を上げるなり スパイスを見ていたリザリアを見て

「リザリア!」と叫び始めた。

「クロ? クロレラ? あなたクロレラなのね! うわわ 会いたかったわ」


女性はリザリアの毛糸玉のアクセサリーを見つけると口を開いた。

「その毛糸玉 もしかして?」

「そうなの 枝にひっかけてほどけちゃったのよ」

「それは困ったでしょう。よく村まで来れましたね」と柔らかい表情を浮かべて手と手を握り合うと キャッキャ キャッキャと ジャンプを始める。

つもり話が始まりそうだ。


再び取り残された俺の目の前には 金のネックレスの男がいる。

シタールを構えてこちらを見ているが 片方の瞳は猛獣のように力強く俺を観察しているようだった。


「ユーモア賞を狙ったのに 優秀賞を取ってしまったら面白いとは思わぬか?」

 

すごい眼光だ。 これは 返答を誤るとまずいパターンになるのか?・・。


「面白いです・・」

男はひょうきんになり俺の肩に腕を組んで笑い出した。

「ワレの名は ガネーシャだぁ!はっはは。クロレラとその天女は仲がいいな。ショウスケとやらも我を友と呼ぶがよいぞ はっはは」


ひょうきんで身振り手振りが大げさで、スパイスやシタールの話をすると簡単に打ち解けることが出来た。

さっきの緊迫感はなんだったのか?ウソのようだった。

「なんじゃ バザーには参加せぬのか? 面白いぞ」

「何を売っているんだ?」

「カレーじゃ 今日の分は売り切れじゃ。代わりにスパイスを売っておるのじゃがこっちは全く売れんのじゃ がははは」


リザリアとクロレラの話しはまだ続いている。

「キャッキャ キャッキャ」

何百年ぶりの再会だから 積もる話もあるだろう。

けど俺が生きている間に終わるのか?

そんなことを考えていると ついにガネーシャが二人の会話に割って入った。


「二人とも楽しそうだな。そうだ オナラを一発してやろう。楽しいぞ!はっはは。」


ぶぅ~~~~~~!!


辺りに黄色い色の空気が立ち込めた。

天女の二人は 手で口を覆い、そして俺は驚いた。

オナラの匂いが オナラじゃない。カレーの匂いだ。


村人たちも気づき始めたようで騒ぎ声をあげ


ま~美味しそうな匂いがするわ。

おかあさん! 私 カレーが食べたい


カレーのバザーを探す村人や 母親に晩御飯をカレーにするようにせがむ子供たちの姿があった。

その匂いはカレーじゃないよ。と子供に教えてあげたくなったが初対面の相手だった。


「チュパ チュパ クロレラ・・」


ガネーシャを見ると 赤子の様にうずくまり親指をしゃぶっているようだった。

クロレラは ガネーシャの姿を見て「あらあら ガネーシャ様」とそばに寄ると抱き起すのかと思ったら

正座をさせて自分が膝枕をしてもらう形になった。

「寂しかったのね」とクロレラの言葉こそ慰めに聞こえるが クロレラが慰められているようにしか見えない。


慰めると言うより クロレラがガネーシャに慰められている・・。

すると クロレラがガネーシャの過去を語り出す

「私たちは 天界から逃げてきたのです。・・・でお母さまの言いつけを守ったガネーシャ様は、お父様の逆鱗に触れ、斬りかかられたところを命からがら異世界へ逃げてきたのです。私はガネーシャ様のお供をするために異世界へ共にやってきました」


ガネーシャは今度は耳掃除を始めた。

「そう言う訳なのじゃ。クロレラは ワレのために旅の途中で羽衣を捨てることになったのじゃ。もう一人では天界へは帰れぬのじゃ」

「元々 帰るつもりはありません・・ガネーシャ様」


よくわからないけど ガネーシャは元気を取り戻して行くようだった。

  

二人と別れてから 織物屋へ行ってきた。

「やあ 君たち参加する気になったのかな?」

「村長さん?」

織物屋は村長の家だった。

事情を話してリザリアの毛糸玉を見せると 特殊な糸だから金がかかるという。

「それにしても 珍しい糸だね。職人魂がくすぐられるよ。そうだ。繰り返しになっちゃうけどバザーに参加しないか?それならお金も稼げるし、もしも 入賞出来たら織物の代金を安くしてあげるなんて話でどうだい?」


羽衣が直ればリザリアは帰ってしまうかもしれない。

だけど いつ帰るかどうかはリザリアが決められるようにしてあげたかった。


「バザーに参加するぜ」

「そう言ってくれると思ったよ 祭りを盛り上げてくれ」

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