第10話 ビスナトの村のお祭り3日目
俺たちはビッツに相談に乗ってもらおうと家に向かった。
ビッツたちの家は 炭鉱夫だけあって石造りの大きな家だ。
ドアにたどり着くよりも先に階段の隅や マキ小屋やいろんなところから 子供たちが「わーい」と歓声を上げて楽しそうに駆け寄ってきた。
「こんにちわ。わたしミル ボクはトム 私はシェーンよ」
挨拶を介さなきゃいけない。
でも 自己紹介できるのか俺は?
「異世界からやってきました ショウスケです」みたいな感じでいいのか?
異世界人って子供に通じるのかわからない。
だけどリザリアなら きっと クルリと回って「私は 天女のリザリアよ」って踊りながらバシっと自己紹介を決めるんだろうな。そうに違いない。
「わ・わたし・・は 天界よりまいった・・リザリアともうす・・」
相手は子供だよ?まあ 俺も人のことは言えないけど
俺たちは初対面の相手には弱かった。
「なあ ビッツさんに会いに来たけど中にいるのかな?」
「うん ボクが案内してあげる。ダメ 私が案内するの! ミルも ミルも!!」
ビッツも中から出てきて家へ案内された。
石で出来た家の中央には 巨木を輪切りにしたテーブルがありその奥には石窯のキッチンがあるようだ。
俺たちはビッツにバザーでお店を出店しようと思っていると話をした。
「・・・コーヒーを売ろうと思っている。それから 軽食も売りたいので窯を貸してくれないか?」
「なるほど・・コーヒーという飲み物を・・それなら 泉の水で淹れるといいぜ。迷信だがあの泉にはナスビの精霊が眠っていると言われているからな。売れるだろうさ。がはは」
・・・・
軽食を作るための石窯も借りられるし 泉の水を汲みに行ってコーヒーを入れれば売れるだろう。
「あれ? コスプレ?」
「どうしたのショウスケ?」
「なんか 人ごみの中にリザリアみたいな服装の人がいたような気がしたんだ」
「き・・気のせいよ」
「クロレラとリザリアは服装も全然違うし天女かと思ったけど気のせいだな。リザリアみたいな服はこの世界でも珍しいよ ははは」
「そうよ・・。」
湖まではcabin02で一気にこれた。
ゲロ ゲロ ゲロ
美しい湖だった。
「よし 水は汲んだ。あとは 軽食のほうだな」
「それなら缶詰はどうかしら?」
「それは売れると思うよ ただ お祭りで売るほどのストックはないかな。」
ゲロゲロ ゲロゲロ
珍しい缶詰ならきっと売れるだろうけど 売るとなると数が必要になるからできれば村にある食材で作りたい。
お祭りはしばらく続くようだし 軽食が無理でもコーヒーを売り続ければお祭りが終わるまでには何とか出来るかな?
どうしたリザリア?
リザリアは 暗い顔をすると右手にガラス玉のような玉を握っていた。
何の玉だ?
「ねえ ショウスケ。天女って何のためにいると思う?」
「そんな 張り詰めてどうしたんだ?」
そんなとき ガネーシャの声がした。
「おーい おーい がっはは」
クロレラも一緒のようだ
「カレーに使う水を汲みに来たのです。もしかしてお二人もバザーに参加されるのですか?」
「コーヒーと軽食を売るつもりだ」
ガネーシャが 笑い出した。
「がっはは ショウスケよ。もしもそなたがユーモア賞をとれたなら 代わりに魔法を授けてやろうと思うのだがどうじゃ?」
「俺でも魔法を覚えることが出来るのか?」
「むろん。心に秘密の呪文(ルーン)を刻むことでその者に特有の魔法を授けることができるのじゃ がっはは」
ルーンとか魔法とかよくわからない。
けど 覚えられるなら面白そうだ。
「ああ 取れるかわからないけど そのときは頼むよ」
俺たちは握手を交わした。
すると クロレラが魔法の事について教えてくれるという。
「ショウスケさん。魔法の事でしたら私が教えましょう。よければ湖を二人切で歩きませんか?」
クロレラに誘われて 湖のほとりを二人で歩くことになった。
リザリアは もしかして焼きもちなのか? ずっと 俺を見ていた。
「・・・が魔力の仕組みになります。つまり 系統で言えばショウスケさんは「自然系」の魔法の使い手ということです」
「自然系の魔法か?初めて聞いた」
「ファイアのような直接発生させる系統とは違い 間接的に変換や操作を行って攻撃や補助を行うことのできる魔法です」
クロレラはニッコリと微笑む
「レアですよ」
確かに珍しい魔法だ。使い方が難しい系統だと思った。
「実は 魔法よりも大切な話があります。先ほどのショウスケさんは危ないところでした」
「どういうことだ?」
「やはり 気づいていませんでしたか。リザリア天女です。ショウスケさんとリザリアが一緒に旅をしている理由は・・。それは ショウスケさん あなたを殺すためですよ!」
短い時間とはいっても一緒に過ごしてきたリザリアが俺を殺そうとしていただなんて・・
胃袋をもみくちゃにされたような感覚にツバがこみ上げた。
そんなはずがない。
「リザリアは親友ですが 私たちは天界から逃げてきた身。今 ショウスケさんが殺されてリザリアが天界に帰ってしまったら私たちの事も天界に知られてガネーシャ様が連れ戻されてしまうかもしれません」
クロレラはショウスケの手を握った。
リザリアとは真逆の瞳は 逃げる者としての意志の弱さを物語っている。
「リザリアが親友を裏切って 二人の居場所を話すのか?それに羽衣が直らなければ天界に帰ることもできないだろ?」
「そうでしょうね。リザリアが天女でなければそうでしょう。それに ショウスケさんを倒して下界を見下ろす神の目の前に現れれば イカズチも防げますし羽衣も直す必要はないのですよ。信じられませんか?」
「一緒に旅をしてきたんだ。きっと リザリアは俺を殺したくないんだ。そうに決まってるさ」
俺はクロレラの手を放した。
するとクロレラはうつむいてしまった。
ゲロゲロ!! ゲロゲロ!!
「あ そうか それがあった」
「どうされましたか?」
「バザーの軽食を思いついたんだ」
ショウスケは事実を受け止めることが出来るのだろうか。
ぶぅ~~~~~~!!
なんだ? 元来た場所の方からいい匂いがする。。
何の匂いだ? これは カレーの匂いだ。
リザリアたちのいるところへ 急いで戻るとガネーシャが親指を「チュパチュパ」とくわえて幼児帰りをしていた。
「あらあら ガネーシャ様」
クロレラは 正座をするとガネーシャを立たせて自分の肩を揉ませ始めた。
逆に見えるけど 成立しているのなら口を挟まないほうがいいのかもしれない。
複雑な心境の中、この日は湖にキャンプを張った。
そして次の日、バザーが始まった。
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