Part.2

 「あら、我が領は帝国の配下ですわよ?」

 「人族の王国と両属だろうが。帰属させたい。まじで欲しい」

 「高く買っていただいているのは有り難い事ですが、我々は人族ですの。もし何か我が領が被害被った場合、直ちに抗戦致しますのでそのつもりでいてくださいまし」

 「抜かり無いなほんと。流石だわ」

 「お褒めに預かり光栄ですわ、サタン様」

 笑顔でカーテンシーを披露した。

 

 「失礼します。軍の予算案持ってきましたよ。……っと、ロゼ?来てたんだね」

 「はいよ。それそこな」

 「オズ様……!御機嫌よう!」

 扉が開き、入ってきたのは、現皇帝の弟であり、七つの大罪のひとり、嫉妬の悪魔レヴィアタンと契約しているオズヴァルド・ナイトベルン。ロゼアリアが従属する契約主でもある二重契約者であり、帝国軍をまとめる長である魔界将軍の地位を持っている。ちなみに、ナイトベルンは母方の名である。

 ロゼアリアにのみ愛称呼びを許し、主従関係でありながら婚約者にも据えているオズヴァルドの溺愛ぶりは、帝国の上層部では知らない人は居ないほど有名である。 

 「丁度良い所にいらっしゃいました!新作のお菓子をお持ち致しましたの。試作品ですので、ご感想を頂けると嬉しいですわ」

 「頂くよ。お茶にしようか」

 「俺らの分は?」

 「勿論、サタン様とインディヴィア様の分もご用意しておりますわ」

 「あり……がとう……」

 ふわり、と現れたのはオズヴァルドと契約している七つの大罪のひとり、レヴィアタンだ。

 七つの大罪の悪魔達は、基本的に真名で呼ばれるのを嫌う。昔から存在する"真名隠し"の習慣であり、真名を名乗る事で自らの弱点となり得る情報を悟られるのを防ぐ目的がある。名前が広く知れ渡っている悪魔ほど、真名を隠して偽名を名乗り、許可を与えた人物にのみ、真名呼びを許す傾向がある。

 現在ロゼアリアは、オズヴァルドとサタンからは真名呼びの許可を得ている。が、その他の七つの大罪の悪魔達からは許可を得ていないため、古代語におけるそれぞれの罪の名で呼んでいた。ちなみに、それぞれ傲慢スペルヴィア強欲アヴァリティア嫉妬インディヴィア憤怒イーラ色欲ルクスリア暴食グーラ怠惰アーケディアである。

 「お茶……淹れた……」

 レヴィアタンは、嫉妬の罪の名を冠する女性の悪魔だ。人見知りが激しいのか、あまり話をしようとしない印象がある。

 「ありがとうございます、インディヴィア様」

 テーブルにティーセットが並べられる。魔族には無かった、アフタヌーンティーの概念を教えたのは、ロゼアリア自身である。カップを並べ、紅茶を淹れたところで、書類と共に持ってきていた籠の中身を取り出す。

 「今日は何かな?」

 「こちら、プリンというものですわ。通常のものと、抹茶味の二種類をご用意致しました」

 言いながら、それぞれの目の前にプリンを置く。興味深そうに眺める三人に対し、ロゼアリアは饒舌に語った。

 「漸く、ようやっと、抹茶の実用化にこぎつけたのですわ!瘴気によって育たなくなり、研究に研究を重ねて早数百年、御先祖様からの悲願が遂に達成されたのです!あぁ、長かった……!ようやく満足のいくものが出来上がりましたのよ。抹茶は点てて飲むものですが、苦味が強く好き嫌い分かれますので、スイーツにしてみました」

 「そう。ロゼは本当にお茶が好きだね」

 にこにこと笑いながら、オズヴァルドが問いかけた。

 


 

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