Part.8

 時は少し遡り、オズヴァルドが視察を終えてアテレーゼ領を出立した頃。

 ルナライト領の東の外れの地。山の麓であるこの土地は、昔から人の行き来が少なかった。

 そして、この小さな町の中心部には、孤児院を併設する小さな教会があった。ルナライト王国時代から続く教会であり、善神を祀っている。

 そんな教会の地下。教壇に隠れるように存在する階段を降りた先にある、小さな空間には、ある魔法陣が書かれていた。

 「良いですか。この魔法陣で、強力な悪魔を召喚するのです。そして味方につけなさい。そうすれば、この国は本来の姿を取り戻せる。そして貴女は、救国の聖女となるのです」

 「……はい、神官長様」

 数人の神官に見守られ、神官長の言葉を聞き、少女は頷いた。

 この少女は、孤児である。この時のために、強力な悪魔を喚び出して契約し、神官長の言う"救国の聖女"となるべく、孤児院で育てられてきた。

 魔法陣に立ち、魔力を流す。

 魔法陣が輝き始め、召喚が行われる。

 

 「……この私を喚び出すとは、身の程知らずも居たものだな」

 光が収まり、降り立ったのは、長身の男性。

 その姿を見止めるや、神官達は歓喜で声を上げた。

 「やった……!やったぞ!成功だ!よくやった!」

 「うるさいぞ、貴様ら」

 男性の声に、神官達の動きがピタリと止まる。纏う魔力は、かなり強いものであり、有無を言わさず従わせる空気を醸し出していた。

 「……え、と」

 「貴様、名は」

 「はい!……えっと、キャメル・メーガスと申します」

 「キャメル、か。……良く覚えておくと良い。我が名はルシファー。七つの大罪がひとり、傲慢の罪を司る悪魔である。死にたくなくば、私の気を損ねるなよ」

 「……畏まりました」

 

 「……ここは?」

 「私の部屋です」

 「……物が少な過ぎやしないか?」

 「……そうでしょうか?」

 首を傾げる少女。

 純粋、無垢、世間知らず。この少女は恐らく、この教会の外を知らない。

 意のままに従わせるには丁度良い存在。

 神官も、その為に何も教えず、与えずに育てたのだろう。

 そして、そういった無垢な存在は、ルシファーの大好物である。

 知らずのうちに、口角が上がっていた。

 

 そうして、七つの大罪のひとり、傲慢の悪魔が、人族の側に付いた。この情報は秘密裏にルナライト領内広まっていき、急ピッチである支度が進められていった。

 アテレーゼ領の者達と、アテレーゼと親しい現ルナライト領主は、争い事を好まない穏便派だが、ルナライト領に住む者達は、多くが武力を以って土地を取り戻そうという過激派だ。工業と加工業で領地を興したのも、策略のうちである。

 この領地には、魔道具や家具等を造る為の、鉄や鉛が大量にある。であれば、型さえ造ってしまえば武器が用意出来るのだ。

 意気揚々として、だがしかし帝国側に悟られないように、着々と準備を進めていった。

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