おまけ

 「……で、どうしてこうなった」

 魔界帝国の城下町。その一角にあるカフェで、ギルベルトは頭を抱えていた。

 原因は、目の前に座ってパフェを頬張っている幼馴染み。

 今日は、二種族間戦争に巻き込まれた事への埋め合わせとして、ロゼアリアと外出、彼女の買い物に付き合っていた。

 だが、ひとつ問題があった。

 「……なあ、この件、皇弟殿下には」

 「言ってないわ。だって、言ったら絶対に許可してくださらないわ!女性同士でも、二人きりで会うのは駄目って言われているのよ?」

 「俺、皇弟殿下に殺される……」

 溺愛と過保護で有名な皇弟殿下なのだ。アスモデウスもいるものの、もうじき結婚するロゼアリアと共に出掛けたと知られれば、嫉妬で半殺しはやりかねない。

 テーブルに突っ伏して、盛大に溜め息をついた。

 「あら♡どうしてもと言うなら庇ってあげるから、元気出しなさい♡」

 「うるさい……」

 「アスモ様、こちらとても美味ですわよ!」

 「あらほんと?……美味しいけど、アリアの作ったお菓子の方が美味しいわね♡」

 「まあ、嬉しいですわ!」

 今日一日、雑貨店や呉服屋、アクセサリーショップと、様々な店をまわっていくうちに随分と仲良くなったのか、いつの間にかアスモデウスはロゼアリアに真名呼びを許していた。そして互いに、愛称で呼び合うまでになっていた。

 購入した物品も、何かと色違いのもので揃えており、距離がかなり近づいていた。

 そんな二人を遠い目で眺めながら、コーヒーを口にしたギルベルトだが、背中に殺気を感じて身体を強張らせた。

 「……!?」

 いきなり固まったギルベルトに、不審な顔を向けたロゼアリアだが、その背後に立つ人物を見て、さぁっと血の気が引いていった。

 「随分と、楽しそうだね?」

 笑顔を見せながら、殺気を隠そうともせず、話し掛けてきたのは、オズヴァルドだった。

 「お、オズヴァルド様……!?」

 「やあ、ロゼ。こんな所で、何をしているのかな?」

 「少し、休憩ですわ。あちこちまわりましたので。ギルベルト様は荷物持ちですわ」

 「へぇ、そう。何も言わずに?」

 「言ったら外出許可くださらないでしょう……?私、以前ギルベルト様に巻き込まれの埋め合わせをして頂く約束をしておりましたの」

 「……」

 「幼馴染みで、兄の様な方ですもの。何もありませんわ」

 「……相手の方はどうか知らないけどね?」

 「ギル兄様は、昔から唯一の遊び相手でしたの。許してくださらない?」

 上目遣いでおねだりしてみるロゼアリア。オズヴァルドは、しばらく黙っていたものの、

 「……はあ。次からはちゃんと報告してよね。あと、俺と一緒に、だからね?」

 「……はい」

 結局は、許してしまうのだった。

 

 「……そうだ、インディヴィア様、いらっしゃいます?」

 「いる……よ……?」

 オズヴァルドの後ろから、こそっと姿を現したレヴィアタン。彼女に、ロゼアリアは小さな包みをひとつ、差し出した。

 「これ……は……?」

 「バレッタです。髪飾りですわ。折角ですので、アスモ様とインディヴィア様と、お揃いのデザインの物が欲しかったのです。是非、貰ってくださいな」

 レースのリボンが特徴的なバレッタは、アクセサリーショップで一目惚れして買ったものだ。アスモデウスはピンク、ロゼアリアは水色、そしてレヴィアタンには黄緑色の淡い色合いのものを選んだ。購入してすぐに、アスモデウスとロゼアリアは髪につけている。

 「……ずるい」

 「え?……あの、お気に召しませんでしたか?」

 「違う……アスモデウスの事……愛称で呼んでる……ずるい……!」

 「え、そっち?」

 「私も……レヴィアタンで……ううん、レヴィアって呼んで……!でも……あの……ヴィアは……その……イルだけが……良くて……」

 徐々に声が小さくなって、聞き取れなくなっていったが、確かに今、真名呼びの許可を得たのだ。嬉しさに、ロゼアリアは顔を綻ばせた。

 「はい……!レヴィア様……!」

 「あらぁ、アリアちゃんたら、モテモテねぇ♡」

 「ふふ、嬉しいですわ!」

 色違いのバレッタを身に着けながら、女性三人はしばらく笑い合い、会話に花を咲かせていた。

 

 「……楽しそうだなぁ」

 「……俺、帰っていいですかね」

 「駄目だよ、ギルベルト。俺が困る」

 「えぇ……」

 テーブルの隅では、放置された男性二人が、苦笑いを浮かべながら見守っていた。

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魔界帝国物語 逸日《いつひ》 @itsuhi-y

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