Part.4

 「……それで、お裾分けってか」

 「要らないのであれば返してくださいませ、ギルベルト様」

 「食べないとは言ってない」

 ここはルナライト領、領主の執務室。いつもの様に、ロゼアリアは報告書の回収をしに来ていた。ついでに、昨日作った抹茶のプリンの余りを差し入れていた。

 ルナライト領の領主、ギルベルト・フォン・ルナライト。嘗てのルナライト王国の王族であり、ロゼアリアの幼馴染みでもある。人族としての誇りやプライドがある為か、瘴気によって異形化した"混ざり者"に対して忌避する様子が伺えるも、根はお人好しであり、良主として領民からは慕われている。工業と加工業で領地を発展させた人物だ。

 「美味しそうなもの食べてるのね♡私にも頂戴♡」

 むぎゅ、とギルベルトを後ろから抱きしめる形で現れたのは、彼と契約している七つの大罪のひとり、色欲の悪魔アスモデウスだ。

 「勿論、ルクスリア様の分も御座いますわ。こちらです」

 「アスモデウス……語尾にハートをつけないでくれ……あと離れてくれ」

 うんざりとした様子でギルベルトが抗議するも、すぐに一掃された。

 「あら、従僕如きが私に指図するなんて♡随分と偉くなったのね?♡」

 「君の場合、俺への嫌がらせだろうが」

 「正解♡」

 「……俺で遊ばないでくれ」

 「い、や、よ♡」

 ニヤニヤと笑いながら言うアスモデウスに対し、溜め息をついたギルベルト。

 そんな二人を尻目に、溜め息をついたロゼアリアは、報告書類を確認した。

 「……相変わらず、鉄の輸入が多いのね」

 「そうか?使うぞ、それくらいは」

 「……良からぬ事を、考えてはおりませんよね?ギルベルト様」

 「当たり前だろう。俺は領地の発展についてしか考えていないさ。……が、そうだな。失った領地を取り戻せるのであれば、何でもする覚悟はある。時が来れば、お前にも協力してもらうからな」

 「そうならぬ様、努力して頂きたいものですわ。……現に今、少しずつですが、交渉で取り戻せているではありませんか」

 「それはそうだがな。領民の一部はそうは思っていない。武力行使で反旗を翻すべき、と言う話をたまに聞くんだ」

 「それは困りますわ。もしそうなった場合、我がアテレーゼ領も無事では済みませんもの。……"不落の領地"、等と言われておりますが、当時は運が良かっただけですわ。七つの大罪の悪魔達が皆不参加であったこと、脅威の対象として認識されていたのが、ルナライト王都のみであったことが幸いした結果に過ぎません。人族が再び帝国に反旗を翻す場合、最大脅威として戦力を送り込まれるのは、間違いなく我がアテレーゼ領です。それは、避けたいですわ」

 「なるべくこちらも対処はするけどな。……最近は過激派も出てくる始末だ。警戒しておいて欲しい」

 「ご忠告、痛み入りますわ、ギルベルト様。……この件は、我が主たるオズヴァルド皇弟殿下にもすぐに伝わるでしょう。いえ、今も契約を通して聞いていらっしゃいますわね。少しでも不審な動きがあれば、すぐに帝国側に攻め入られること、覚悟しておいた方が宜しいですわ」

 「……わかった、感謝する」

 「いいえ。穏便に済ませたいのは、我がアテレーゼの意志ですもの。……では、書類は預かりますね」

 「ああ、宜しく頼む」

 ロゼアリアは一礼し、書類を手にしてルナライト領を後にした。

 

 

 ロゼアリアが退室した後。

 「ふーん、帝国に歯向かうの?」

 「"俺には"、その気はない。……が、"ルナライト領として"は、そうなる可能性はある、な」

 「……そう」

 「……出来れば、どの様な結果になっても、俺の方に付いていてほしい」

 「面白そうであれば、ついていてあげるわ」

 ギルベルトとアスモデウスの間で、この様なやり取りが行われていたのだが、ロゼアリアには知る由もなかった。

 

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