Part.5

 「アテレーゼ領へようこそいらっしゃいました、オズヴァルド皇弟殿下。我々一同、歓迎致します」

 「ありがとう、アテレーゼ公。暫く世話になるよ」

 独立領地、アテレーゼ領。その城のような趣きの領主館にて、使用人達と父と共に、ロゼアリアは皇弟オズヴァルド殿下を出迎えた。

 

 今日から数日間、オズヴァルドはアテレーゼ領を視察する。

 瘴気に侵食され、身体の一部が異形のものに変形した"混ざり者"を多く雇っているアテレーゼ家の様子に、オズヴァルドはす、と目を細めた。

 "混ざり者"は、自身の境遇を嘆き、塞ぎ込んでいるケースが多い。実際、その様子を良く見ていた。だが、この領地の者達はどうか。絶望した面持ちは無く、皆が皆前を向いている。

 面白い、と思った。一体何が前を向かせているのか、悲観する事なく生活出来るだけの魅力がこの領地にはあるのか。

 "混ざり者"達がアテレーゼ家を慕う理由は何処にあるのか。

 視察を通して、少しでも答えが出ればいいと、そう思った。

 

 オズヴァルドが到着した当日は、ゆっくりと身を休めて貰い、翌日から領地を案内した。

 まず赴いたのは、アテレーゼ領自慢の茶畑だ。

 「オズ様、こちらでお茶の葉を作っておりますの。広大な敷地でしょう?」

 「随分と広いな……」

 「ええ、自慢の茶畑ですわ。お茶の葉を摘んた後、発酵させることで茶葉が出来るのですが、発酵の度合いで味が変わるんですの。ご存知でした?」

 「いや、知らないな。あ、もしかして、緑茶と紅茶の違い?」

 「その通りですわ。完全に発酵させたものが紅茶、発酵させずに蒸して揉むと緑茶になりますの。半分だけ発酵させるとまた別の種類のお茶になります。こちらではあまり有名ではありませんが、烏龍茶、というものですわ」

 「へえ。そんな違いがあったんだ」

 「ちなみに、摘んだ葉を蒸した後に挽いて粉状にしたものが抹茶です」

 「へぇ!」

 ロゼアリアの説明を、感心した様子でオズヴァルドは聞いていた。

 

 次いで訪れたのは、領地の北部に位置する家畜小屋。

 嘗て戦争で奪われたルナライト王国領の一部であり、交渉の末に取り戻し、拡張したこの土地で行っているのは、畜産業だ。

 なのだが。

 「……ロックバード?」

 鶏ではなく、ロックバード。豚ではなく、グラスピッグ。どちらも魔物、土属性魔力を持つ魔鳥と、木属性魔力を持つ魔獣である。

 「……ええ。元の家畜は、瘴気の影響で死に絶えてしまいましたので」

 「え、じゃあ、魔物の肉を食べていると……?」

 「はい。結構美味しいですよ?牛は……その……肉が硬すぎて駄目でしたが……」

 困惑している表情のオズヴァルドに、曖昧に笑って返した。

 仕方無いだろう、魔物でなければ育たなかったのだから。

 安全に食べられる様に、魔力を完全に抜き取る方法を研究し、機材を造り上げ、領民に広めた。そうでもしなければ、かつては食べられる食材が無くなるという状況下にあったのだ。

 「……へぇ。そう、か……」

 「おほほ……」

 同情を含んだ視線を受けたので、ロゼアリアは笑って誤魔化しておいた。

 

 

 

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