Part.6
「……あ、ロゼアリアお嬢様!丁度いい所に!」
「こんにちは。どうかなさいまして?」
オズヴァルドと共に領地の視察を続けていたロゼアリアは、農地の一角で呼び止められた。
「実は、水撒き用のスプリンクラーが壊れてしまって……」
「修理の申請は致しましたの?」
「はい。ですが、着工出来るのが明日以降になると言われてしまいまして、今日、まだ水を撒いていないんです……」
「成程。分かりました」
了承を告げ、右手を上空に掲げる。体内にある魔力を、掌から放出した。
すると、農地全体に、水が雨の様に降り注いだ。
「……お見事。流石ロゼだね」
「ふふ、これくらいお手の物ですわ」
「ありがとうございます、お嬢様!助かります……!」
礼を言う領民達に、ロゼアリアは手を振って応えた。
「お嬢様ー!この人参採れたてなので持っていってくださーい!」
「こっちの白菜も新鮮ですよ!」
「隣の方もどうぞ!お裾分けです!」
人参、白菜、等々。耳慣れた名前で呼んではいるが、どれも魔草、魔物の一種である。
こちらも畜産業と同様に、研究を重ねて食用に改良した物である。
「あら、ありがとう」
「貰って良いのかい?」
「どうぞどうぞ!領主様にも宜しくお伝え下さい!」
「ええ、分かりましたわ。皆様これからも宜しくお願い致しますわね」
「はい!」
そうして一日の視察を終える頃には、抱え切れない量のお裾分けを貰っていたのであった。
アテレーゼ領では、領地の至る所で"混ざり者"がそれぞれの異形を活かす形で働いている。鎌の様な形に変形した者は、作物の収穫や雑草の刈り取りを、獣の手足の様に変形した者は、家畜として改良した魔物の管理や育成、狩り等を、といった具合に。
「……よく、明るく振る舞えるね、ここの"混ざり者"は」
「……説得には、苦労したそうですわ。ですが、我がアテレーゼ家自体、魔術師の家系ですの。昔から魔族との関わりがあり、異形化にも理解が有りました。瘴気を完全に取り除く事は出来ませんでしたが、我が家の秘術にて、ある程度の抑制や、一時的な切り替えが可能となりました。普段は人族の元の姿を取り、必要に応じて一部を異形化する、ということが出来るようになったのですわ。それを踏まえ、異形化した能力を農耕に活かしてほしい、と御先祖様が懸命に頼み込んだそうなのです。それ以来、領民達に慕われているそうですわ」
「そう……。アテレーゼは、魔術師の家系だったの」
「ええ。ルーツは"魔の森の管理者"様だそうですわ」
「ああ、ソフィアードの。……成程、だから水と氷の魔術を使うのか」
「はい。ファレスト分家の属性魔術を引き継いだそうですわ」
こくり、と頷いて、農地で働く領民達を見渡した。皆、楽しそうに働いている。
「……良い場所だね、ここは」
「……ええ、自慢の領民達ですわ」
夕陽に染まる領地を背に、人気の無い丘の上で休息を取っていたオズヴァルドとロゼアリアは、顔を見合わせて、二人同時に微笑んだ。
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