Part.11

 ギルベルトが捕らえられる数刻前。

 魔界将軍として軍隊の一部隊を率いていたオズヴァルドは、アテレーゼ領の西部の城壁の前に立っていた。

 アテレーゼ領は、嘗ての戦争でも防戦を敷き、領地を囲う様に石畳の城壁を造り上げていた。その城壁の上部からの攻撃により、領地内に入る事が出来ず、"不落の領地"と呼ぶようになったのだ。

 当時と同様に、現在も戦線を敷いている様子に、ふ、と笑みが溢れた。

 「……オズヴァルド様?」

 「いやなに、流石"不落の領地"だなと。守るための戦いは完璧だ」

 「……では、いかが致しますか」

 「戦わないよ」

 え、と戸惑う声が聞こえた。が、オズヴァルドには、はじめから戦う気など無かった。

 従僕であるロゼアリアを通して、とばっちりで巻き込まれた事は知っていた。そして何より、先日見たあの光景を、領民達が皆楽しそうに笑い、領主を慕うアテレーゼ領の姿を、壊したくはなかったのだ。

 「戦わない。お前達は、領民達の介抱の為に集めたのだ」

 実際、オズヴァルドが率いている部隊の隊員達は、回復や治療が得意な者達ばかりだ。この為に、わざわざ集めたのだ。

 『闇、全てを包み深みへ誘う』

 右手を掲げ、魔力を放つ。アテレーゼ領を包み込む様に発動させたのは、闇属性の睡眠魔術。

 領民達を、全員まとめて眠らせたのだ。

 「倒れている領民達の介抱を。眠らせただけだ、敷物の上に寝かせてやれ」

 「はっ。……オズヴァルド様はどちらに?」

 「従僕の所」

 言い残して、真っ直ぐ歩みを進める。

 向かうのは、アテレーゼ領主館。契約によって魔術が弾かれ、この領地で唯一起きている、愛しい婚約者の元へ。

 

 「……そろそろ、いらっしゃる頃合いだと思っておりました」

 契約を辿って着いたのは、奥まった位置にある一室。様々な器具と書類が並ぶ、研究室の様な部屋。

 「……ここは?」

 「実験室ですわ。代々、アテレーゼの魔女が使用していた場所ですの。ここで、研究や改良を行っておりました」

 資料を纏めながら、ロゼアリアが答えた。

 「へえ。こんな所あったんだ」

 「私的なものですから、お教えしませんでしたの。……ここまでいらっしゃったと言う事は、既に領地は掌握済みなのでしょう。どうぞ、処罰を与えて下さいませ。帝国様に反旗を翻した愚かな領主一族を、裁いて下さいませ」

 そう言って、ロゼアリアは目を閉じた。

 黙って聞いていたオズヴァルドは、ゆっくりと近づき、

 「……そう、なら、好きにさせてもらうよ」

 顔を上げさせて、口を塞ぐ。

 驚いた表情のロゼアリアに微笑み、首元に牙を突き立てた。

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