Part.10
その日、ルナライトとアテレーゼの連名で、帝国に宣戦布告が行われた。
魔界帝国は即座に軍隊を派遣。領地への侵攻を始めていたルナライト領の軍隊と衝突。
魔族と人族、二種族間戦争が、勃発した。
重火器を多く使用し、序盤は優位に立っているように見えたのは、ルナライト側に傲慢の悪魔と色欲の悪魔がいたからである。流石の帝国軍でも、ルシファーとアスモデウスを相手には苦戦を強いられていた。
『月の光よ、闇を照らせ!』
そして、ギルベルト、もといルナライト一族の持つ魔術は、月の光を源とする浄化魔術だ。悪魔にとって毒となる、浄化魔術。ギルベルトの能力は、帝国軍にとってかなりの脅威であった。
だが、数日後に戦況は一変する。
ギルベルトの浄化魔術の欠点は、月の満ち欠けに影響されることだ。この日は、なんと新月。ギルベルトの魔力が一番弱まる日であった。
威力が低下し、徐々に苦戦を強いられていくギルベルト。それだけでなく、浄化魔術を脅威と見た帝国軍がアテレーゼ領を一日で沈静化させた上に、ルナライト領と対峙する帝国軍に憤怒、嫉妬、強欲の悪魔を加えたのである。
ルシファーとアスモデウスを、マモン、サタン、レヴィアタンが抑え込み、その間に帝国軍が一気に攻め込んだ。
「……やっぱり、こうなったか」
ルナライト領主邸内。負傷し、膝をついた状態でギルベルトは呟いた。
目の前には帝国軍を率いていた七つの大罪のひとり、サタンがいる。その周囲にはレヴィアタン、マモンをはじめとする帝国軍が。ルナライト領軍はほぼ死傷し、アスモデウスも重症を負い、最早一切の抵抗が出来ない状況にあった。
「よくもまあ、ここまで暴れられたものだな」
苦笑しながら、サタンが言う。その言葉に、ギルベルトも苦笑で返した。
「それは、まあ、意地というか、な」
「……そうか。だが、まだまだ力不足だったな」
「痛感しているよ」
「……何か、言い残す事は?」
「特には。覚悟は決めていたし。……ああでも、世話になったアテレーゼに、もっと返せればよかったな」
笑って、目を閉じる。この戦争を率いた責任があるのだ、後はここで、潔く、散るだけだ。
「……いくらサタンでも、それは許さないわ」
驚いて、目を開ける。間に入り、庇う様に立っていたのは、アスモデウスだった。
「……アスモ?」
「……どういうつもりだ、アスモデウス」
「どうもこうもないわよ。これは私の従僕。殺すのも、生かすのも、私次第。私のものよ。あんたが殺すと言うなら、私は命を賭けてでも抵抗する」
「おい、アスモデウス」
「死んだって動かないから。絶対に、殺させない」
「アスモ」
「除籍されようが、嫌なものは嫌なのー!」
睨み合うサタンとアスモデウス。しばらく沈黙が続き、
「……はぁ、分かったよ。ったく」
サタンの方が折れたのだった。
「主導したとはいえ、元々穏便派なのは知ってるからなぁ……。七つの大罪の従僕は殺さないでやる。ただ、平民落ちの上で全財産没収。七つの大罪の監視下での生活と、逐一俺への報告が条件だ。これ以上は優遇できないからな」
「……本当?やったぁ♡」
「……え、と?俺は、」
「生きるのよギルベルト♡私の元で♡一生可愛がってあげる♡」
「痛い抱き着くなアスモ!……って、死ななくていいのか?」
「サタンの許可取ったもの〜♡あんたは生きるのよ〜♡」
「……そうか。そう、か……」
覚悟はしていたとはいえ、やはり死ぬのは怖かったのだ。罪悪感、安堵、等々、様々な感情が混ざり合い、ギルベルトは泣きそうな顔で笑っていた。
そうして領主ギルベルト・フォン・ルナライトは捕らえられ、戦局は崩れ去った。
領地を取り返そうと反旗を翻した人族の未来は、居住区を完全に乗っ取られることで終わりを告げたのだった。
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