魔界帝国物語

逸日《いつひ》

プロローグ

 魔界。ここは嘗て、様々な種族がそれぞれの国を創って治め、それぞれの信仰する神々を祭り上げていた。ところが、幾百年か過ぎ、土地の拡張や支配権を巡って、後に種族間戦争と呼ばれる争いが起き始めた。数多の種族が殺され、支配され、滅びていった。

 その争いで勝利を収めたのは、善神ではなく悪神であり、悪神を信仰する悪魔をはじめとする魔族の国。多くの種族は魔族の国の支配下に入り、悪魔達が統治する様になった。

 そうして生まれたのが、魔界帝国である。

 そんな魔界帝国に対し、最後まで抵抗を続けたのが、光を司る善神を信仰する人族の国、ルナライト王国であった。中でも、アテレーゼ公爵家が治める領地が徹底抗戦を敷き、戦争が収まるまで領地への侵入を一切許さなかったという。

 争いの末、人族の居住区は王都をはじめとする僅かな領地と、アテレーゼ公爵領のみとなったが、魔界帝国の管理下にあれど自治権を獲得。嘗てのルナライト王国の王都であり、商業地として栄えるルナライト領と、"不落の領地"として領地を全て守り抜いた、農耕と畜産の地アテレーゼ領。この二つの領地を、人族の独立領地として土地を守り抜いたのだ。

 だが、人族には別の問題が発生した。悪神が勝利し、魔界帝国が土地を支配下においたことで、大気中に瘴気が満ちるようになったのだ。魔力があれば、ある程度は抵抗できるが、人族は基本的に魔力を持たない。瘴気に侵食され続けた結果、気が短くなり、身体の一部が異形のものに変形する様になってしまった。

 そこで考えられたのが、従属契約。魔族を召喚し、自ら従属する代わりに、瘴気を吸収してもらおうというものだ。上手く行けば、瘴気に侵食されることなく、今まで通りの生活ができる。また、魔界帝国への抵抗手段として主君となる魔族の力を利用する事ができる。しかし、主君となる魔族の気を損ねたり、気に入られなければ、完全に使役され、操られてしまう。下手をすれば、魔界帝国側に帰属させられ、領地を取り上げられる。

 従属契約は、帝国へ反旗を翻す手段となり、帝国からの侵攻を許すリスクを負う代物である。

 全ては、主君となる魔族に如何に好かれるか、機嫌を取って味方にできるかにかかっていた。

 

 ――そして、月日は流れ、現代。

 

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