私が町長です。Part.3
そして、その夜――。
お屋敷で盛大なパーティが催された。
出された料理の数もたくさんで、王宮のパーティに負けてないと思う。
(でも、フーゴさんはボクたちをこんなにもてなして、どうするつもりなんだろう?)
そんなことを考えながら、ボクはホールの片隅の壁にもたれ掛かってジュースを飲んでいた。
奈緒様は、会場の真ん中でフーゴさんや集まった地方貴族のみなさんに囲まれて談笑している。
「勇者様、大人気ですね」
そんな時に突然キョーカ様がグラスを持って現れた。
片隅で飲んでいたボクを見つけるなり、同じように壁にもたれ掛かって横に並び立つ。
「こんなところにいて、大丈夫なんですか?」
「何がです?」
「キョーカ様だって、さっきまでお貴族様たちに囲まれていたじゃないですか」
「いえ、私に対する囲みは中央への繋ぎと言ったところでしたから。それに、もう話題は異邦人である奈緒様に移ってますよ」
そう言いながら、キョーカ様はグラスに入った液体を口にする。中身はジュースなのか、ブドウの芳醇な匂いがこっちにまで漂ってきた。
「そういえば、まだきちんと御礼を言えてませんでしたね」
「御礼ですか?」
「勇者召喚の日、アナタが決死の覚悟で魔法陣の完成に努めてくれたことです」
と言われ、ボクはあの日のことを思い返した。
何事もなく、無事に終わるはずだった勇者召喚の儀。それが惨劇に代わってしまったあの日から1ヶ月も経つと、なんだかもの凄く昔に起きたかのようだよ。
でも、ボクはあの日に思いがけない決断によって、奈緒様を呼び出すことに貢献した。
そして、こうして今魔王討伐の旅に同行している。
それだけでも信じられないのに、まさかキョーカ様に感謝されるなんて思ってもみなかったよ。
「そ、そ、そんな!? ボクはあのときそうするしかないと思ったから――」
「その決断が
確かにボクがそうしなければ、もっと多くの人が死んでいたかもしれない……。
奈緒様も来なくて、ユナ様が倒されていたら、きっと人類は本当に絶望していただろう。
やがて、魔王によって世界が支配される。
――だが、それは訪れることはなかった。
勇者が召喚され、聖堂に現れた魔族もやっつけてくれた。
たったそれだけだったけど、ボクたちは希望を持てたんだ。
だから、奈緒様が来てくれてよかった。
「ボクは、当然のことをしたまでです。もし、あのまま何もしなかったら、奈緒様は来てくれなかったと思いますし」
「その当然のことをするのが難しいのです。たとえ、私たち人類が滅び行かんとしているときにでさえ、恐怖に打ち勝ち、勇気を持って行動することは困難なのです」
「そんなことはありません。誰だってそのときになれば……」
と言いかけて、ボクは気づいた。
もし、ボクが別の誰かだったとしたら、どんな行動をしただろう?
もし、勇気もなく、震え上がってるだけだったら、正しい判断ができたのかな?
それを考えると、キョーカ様の言わんとしていることがわかった気がする……。
「気づきましたか? 自分が如何に勇気ある行動をしていたかを」
「……そうですね。よく考えたら、ボクはとんでもないことをしていたのかもしれません」
「フフッ……。あのときは、きっと必死でそこまで思っても見なかったのでしょう。ですが、アナタは確かに勇気ある行動をしたのですよ」
そうか。
ボクも役に立ったんだ……。
それを実感した途端、なんだかうれしくなってしまった。
キョーカ様を助け、奈緒様が召喚されたこと。この1ヶ月でいろんなことがあった。
それを思えば、ボクが今ここにいるのも当然なのかもしれない。
「キョーカァァァ~! た、た、助けてほしいかなぁ~」
ふと、ユナ様がそんな弱音を吐きながら、こっちにやってくる。
さっきまでウィリディスの騎士団長という立場もあって、貴族のご婦人方と話していた。
その人気は黄色い声が色めき立つほど。
でも、元冒険者ということもあって、こういう堅苦しい場は苦手なのかもしれない。
こうして、その日の夜は過ぎていった……。
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