勇者の理由とボクの決意④
キョーカ様は、おかしくなられたのだろうか?
いつものお淑やかな雰囲気はどこにもない。そして、創造神のお告げと言って憚らぬ不審な言動は、本人なのかと疑いたくなっちゃう。
それぐらいキョーカ様の言動はおかしかった。
「あ、あのキョーカ様。本当にどうしちゃったんですか?」
こう不審だと心配になっちゃうよね。
だから、ボクから声をかけてみたんだ。そしたら、キョーカ様は途端に落ち着きを取り戻して、いつものキョーカ様らしくなった。
「失礼。ナオ×ヨシがあまりにも神々し……ではなく、ふたりが不審なことをしていたもので、つい我を忘れてしまいました」
「その割には、大喜びの表情を浮かべてたような……」
「気のせいです」
「えっと、キョーカ様?」
「気のせいです! これ以上の言及は許しません」
ええぇぇ〜!? 言ってることとやってることがまるで違う。
しかも、キョーカ様からはどこかよそよそしい感じがするし。
言及することを禁じられたボクは、故意に話をそらすしかなかった。
「実は、勇者様が名前で呼んでほしいと仰られて困っていたんです」
「うーん、だとしても、あんな状況にはならないんじゃないかな」
「ち、ち、違うんですっ! あれは恥ずかしがっていたら、勇者様が強引にせまってきて……」
「くわし――」
「キョーカは黙っててほしいかな」
と何かを言おうとしたキョーカ様をユナ様が制する。
きっとキョーカ様に話をしていたら、まともに取りあってくれなかった気がする。
……事実、さっきまで様子がおかしかった。
「つまり、名前を呼べなくてオタオタしているウチに壁際まで追い込まれたと――そういうことかな?」
「そうです。決してやましいことをしていたわけじゃないんです」
逆にユナ様が話を聞いてくださるのはありがたい。
起こったことをきちんと説明すると、ユナ様は最後まで真剣に話を聞いてくれた。
「私は、それでもよかったんだけどなぁ~」
ところが、水を差すように奈緒様が口をはさんでくる。
もう! どうして、丸く収まったと思ったのにヘンなことしようとするんだろ。ちょっとだけムカってきちゃったよ。
「勇者様。ヨシム君がイヤがってるのだから、強引にせまるのはよくないかな?」
「そうは言っても、ヨシムが私の名前を呼んでくれないから……」
「呼んでほしい気持ちはわかるかな。でも、そのために押せ押せでせまるのはダメかな」
「だったら、ユナにせまってみてもいいんだよ?」
とユナ様の元までやってきて、奈緒様が顔を近づける。
でも、ユナ様はそれがイヤだったみたい。直前で奈緒様の顔に手を当てて、近づくことを拒否していた。
「残念だけど、ウチはそういうのは興味ないかな」
「じゃあ、興味持てるようにしてあげたらいい? 私は向こうの世界じゃ、女子にだいぶ持てたしね」
「勇者様がノーマルでも、バイでも、それは勇者様の嗜好なので構わないかな。だとしても、ウチは興味ないので」
あれ? なにこれ? 一触即発の様相を呈してきたような。
気付けば、ふたりは表面的にしか笑っていなかった。
隣に立つキョーカ様は、そんなふたりを見て、慌てふためいている。
「ちょっと! ちょっと!」
すぐさま割って入り、仲を取り持とうとしている。
当然だよね。
これから、魔王討伐に向かう仲間となるのに、こんなところでケンカなんかしてらんないもん。
だから、ボクも止めに掛かった。
「ふたりとも! こんなところでケンカなんかよくないですよっ」
「そ、そうよ。これから、パーティを組む仲間なのに最初からこれじゃあ……」
とキョーカ様が言いかけた途端、勇者様からため息が上がる。
そのため息が何を表しているのかは、よくわからない。だけど、これ以上ふたりの仲が悪くなる雰囲気じゃなさそうだった。
とっさに奈緒様が両手を拡げて、悪意がないことを示す。
「冗談だよ。私も勇者パーティのメンバーと不仲でしたなんて話は後世に残したくないからね」
本当に奈緒様はお騒がせな人だ。
その影響を受けて、ユナ様もため息をついてらっしゃる。
こっちの溜息は疲労感が混じっていてわかりやすく、「冗談もほどほどにしてほしいかな」と言ったこともあって、呆れた様子が見て取れた。
「こんな時でなんだけどさ……」
そんな中、突然奈緒様が真面目な表情で切り出した。
さっきまで、ボクをもてあそんでくれた顔(思い出しただけでも恥ずかしい)はどこへやら。
奈緒様は、僕たちを前に頭を下げていた。
「改めて、勇者に拝命した貴宝院奈緒です――みんな、どうか私に力を貸して!」
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