第2章「勇者の理由とボクの決意」
勇者の理由とボクの決意①
「よく来てくれた。勇者『貴宝院奈緒』殿」
突然の魔族の襲来。
それは、グレージアやウィリディスを始めとする連合国に多くの損害をもたらした。
騎士や神官、魔導師に罪のない侍女まで……。
ありとあらゆる人が巻き込まれ、そして死ぬ事件となってしまった。そのせいで、外城には多くの遺体が安置された。
(こんな犠牲を払わなければ、勇者は呼べないものだったの……?)
戦闘の後、ボクは涙ながらにそう思った。
しかし、時間は待ってくれない。勇者様を歓迎する催し物がすぐに行われ、王の間でグレージア国王であられる『ターセルド=ノビラート』様が出迎えの述べられた。
ちなみにターセルド様は、とても若い方だ。
年齢もボクと同じぐらい(実際に聞いたわけじゃない)で、とても優秀な王様だ。
「アナタがこの国の王様ですか?」
「ああ、そうだ。もっと年老いていると思っていたか?」
「そうですね。テンプレ的なことを言わせていただければ、『なろう系』の王様の大半は年をお召しになっていらっしゃるものです」
「なろう系がなんなのかよくわからんが、まあ私は父上が魔族との戦争で命を亡くされて、この年で国王になったんだ」
「なるほど。そういう事情がおありでしたか」
「まあなんだ。オマエとは、年も近いからタメ口でいいぜ」
とてつもない提案がなされる。
ボクも聞いてて驚いちゃった。当然、横にいた宰相閣下が「陛下、その提案は」と言いながら、慌てふためいていた。
そりゃあそうだよね。
たとえ勇者様でも、王様と同格っていうのはおかしいもの。
だけど、陛下は気にしていないご様子。むしろ、宰相閣下を「よいのだ」と諫めていらっしゃった。
それを見てか、奈緒様がしゃべり始めた。
「じゃあ、お言葉に甘えて。ターセルド王、私はやることを済ませたら、元の世界に帰りたいと思っている――その準備はできてるんだよね」
「……そのことに関しては申し訳ない。実は、召喚する方法に関しての調査を優先して、帰還に関する方法はまだ見つけられていないんだ」
「つまり、私は勝手に呼ばれた上に帰れもしないと?」
「そういうことだ。だが、必ず帰れる方法を見つけ出すと約束する」
「本当に帰れるんだろうね?」
刹那、奈緒様の目つきが変わる――。
そこには、遠目でもわかるぐらい憎しみが込められているようにも見えた。
確かに奈緒様は勝手に呼び出された被害者だ。
そう考えれば、そういう目つきをしないワケがない。ボクは奈緒様の心境に申し訳なさを感じつつも、張り詰めた場の空気に慌てふためいた。
ところが、それは杞憂だった。
「ふぅ……オッケー、わかった」
不意に奈緒様の雰囲気が変わったんだ。
まるで気にしていないという態度は、さっきまでの憎しみを感じさせないフランクなもの。
ボクはそれを見てて、スゴくポカンとしちゃった。
「本当にスマン。その約束だけは、国王であるオレの維持と名誉にかけて果たすと誓うぜ」
「頼むよ。一応、私にも生活というものがあるのだから」
「代わりにオマエの望むものは、できうる限り用意する。だから、なんでも言ってくれ」
「なっ!! 本当にいいのか?」
あれ? 奈緒様、どうしちゃったんだ?
また雰囲気が変わったみたいだし……。それほど、何でも用意すると言われたことにビックリしちゃったのかな?
ボクは、奈緒様の驚きっぷりに何が起きたのかを理解できずにいた。
「ああ、本当だ。オマエが指定するものを下賜する。地位であろうと、名誉であろうと必ず用意すると約束しよう」
「では、『あそこでたたずんでるショタ』を私にゆずってくれ!!」
ふーん、奈緒様は『少年』が欲しいんだ……って、あれ?
もしかして、こっちを指差してる?
まさかボク? そんなことないよね? ないよね!?
静まりかえる広間の中で、ボクはキョロキョロと周囲を見渡した。でも、『少年』とおぼしき人間は、ボクを除いてこの場にはいない。
その証拠にみんなの視線がこちらに向けられている。
つまり、今注目されているのはボク――。
「……あ、あの……えっと……」
おかげで、発する言葉に詰まっちゃったよ。
だって、いきなり「告白」みたいなこと言われちゃうんだよ? 公衆の面前でそんなこと言われたら、誰だって狼狽えちゃうじゃないか。
でも、顔を見合わせた奈緒様はイケメンスマイルで親指を上に向かって突き立てていた。
ボクは、それで思わず自分を指差して聞いちゃった。
「ボ、ボク……?」
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