私が町長です。Part.4
夜が更け始めた頃、パーティは幕を閉じた。
ボクは用意された客室へと戻り、即座にベッドに寝っ転がった。
町にたどり着いたと思ったら、すぐに歓迎の宴。もう身体はヘトヘトで、起き上がる気力すら沸かない。
「今日はさすがに疲れたなあ……」
ぼつりとつぶやきながら、仰向けになって天井を見る。
メイドさんが着替えを用意してくれたけど、さすがに疲れて着替える気も起きない。
だから、このまま目をつぶって寝てしまおうと思った。
(疲れた分、なんだか心地がいいなあ。今夜はぐっすり眠れそうだよ……)
そう思った直後だった。
突然、「ガタッ」という音が窓際から聞こえくる。ボクはとっさの出来事に反応して、上半身を起こさざるえなかった。
「……誰?」
明らかに窓が揺らされた音だ。
外は風もなく、雨さえ降っていない。じゃあ、動物や昆虫が窓に当たったのかというとそうでもない。
逆に人の気配を感じる。
ボクは窓際に行き、真偽を確かめることにした。
ベッドからゆっくりと這い上がり、窓へと向かう。客間は広い分、窓までの距離が遠く感じられる。
宿屋のこじんまりとした狭さになれたせいかな? どうも窓まで歩くという感覚が億劫だよ。
そこで、ボクは気配の有無を確かめた。
「……誰もいない」
おかしい。
確かにさっきまで誰かいたような気がする。
じゃあ、さっきの気配は錯覚?
その確証を取りたくて、ボクはあたりを見回した。
「やっぱり、誰もいない」
そうなると、人の気配は気のせい?
ハァ〜ッ、よかった。
これで誰かに襲われでもしたら、さすがのボクでも抵抗できないよ。
これで心置きなく眠れる。
――と思って、ベッドに戻ろうとしたけど、途端に別の可能性を思い浮かべちゃった。
「ま、ま、まさかこんなオバケとかじゃないよね……?」
幽霊。
それは、ボクが嫌いなものの1つ。
小さい頃にお父さんの悪ふざけで聞かされて以来、薄気味悪い場所のトイレなんかは行くのにちょっと勇気がいる。
……どうしよう。本気で怖くなってきた。
足もすくんで動けないし、手だって震えて動かしづらい。なにより、心が「早く逃げろ」と叫んでる。
ボクはヒヨコみたいな足取りで、誰かを呼びに行こうと部屋の扉に向かって歩き出した。
「どこへ行くんだい?」
どこに行くって、誰かを呼びに行くに決まってるじゃないか。
なのに、ぶしつけな質問をしていったいなにがしたいをだろう?
……。
…………。
………………。
あれ? ボク、誰としゃべって……。
その疑問が浮かんだ途端、ボクは首を右の方向にクルリと傾けた。
すると、そこには人の顔があった。
「うわあああぁぁぁぁ〜ッ‼」
当然、ボクは腰を抜かして驚いた。
後ろへと倒れ込み、手足を使ってキッチンに
よくいるGのつく生き物みたいに素早く後退る。
そして、現れた幽霊に食べられないよう創世神に祈りを捧げ、両手で頭を抱え込んだ。
「て、て、天におわす我らが創世神‼ そ、それから、数多の神々よ。どうかボクをお救い下さい‼」
もう必死だったよ。
そこからは、どれぐらい祈ったか覚えてない。
ただひたすら祈って大っ嫌いな幽霊から護られるのを願ったんだ。
それぐらい幽霊は苦手。
でも、幾分か過ぎて、誰かに名前を呼ばれてる気がした。それがはっきりし出したのは、気分が少し落ち着いてからのこと。
「……ヨシム。おーいっ、ヨシム君?」
おぼろげに聞こえてきた声は、どこかで聞いたことがいたことがあるもの。
どこだっけ? 最近までずっと一緒だったような……? ボクはその真実を確かめようと、勇気を振り絞って目を開く。
すると、アクアマリンのようなふたつのアーモンドアイがボクを見ていた。
身体をしゃがみ込ませ、ボクの顔をじっと見ている。しかも、「なんで驚いてるの?」と言いたげな表情を浮かべているし。
まったくもう! 幽霊かと思って、スゴく怖かったのにこれだもん。
ボクは声を荒げて、そんな奈緒様に抗議した。
「奈緒様! ビックリさせないでくださいよ、幽霊かと思いましたよ」
「幽霊? ああ、もしかして驚かせた理由はそれ?」
「そうです。ボク、もの凄く幽霊が苦手なのに、急に現れるから本物が出たのかと――」
「ふ~ん、ヨシムは幽霊が苦手なんだ」
不意に浮かべられるイタズラしそうな表情。
普段のイケ女スマイルが面白そうなものを見つけ、一見微笑んでいるような表情の中に悪意を含ませてる。
あ、これ言っちゃダメなヤツだった……。きっと奈緒様は、今のでボクの弱点を知ってからかおうと画策したかも。
ボクは、自分の犯したミスを後悔した。
「ねえ、ヨシム」
「わぁぁ~、聞きたくないです! 聞きたくないです!」
「まだ何も言ってないんだけどなあ……」
「だって、奈緒様。今、絶対ボクのことからかおうって思いましたよね?」
「思ったよ?」
「ほら、やっぱり! 絶対幽霊がいるってボクのことを怖がらせて」
「あ、あそこのシミっぽいヤツ。今、ちょっと動かなかった?」
「いやぁぁぁあああああ~ッ!!!」
怖い、怖い、怖い、怖い!
ボクは両手で耳を塞いで、顔をうつむけた。
そんなボクの姿を見てか、唐突に笑い声がする。笑ったのは、言うまでもなく奈緒様で、ボクは無性に腹が立った。
「わ、笑うなぁぁぁぁ〜っ」
「ゴメン、ゴメン……フフッ、でも怖がってるヨシムも可愛いいよ」
「もうっ! もうっ、もぉ〜うッ‼」
それを聞いて、ボクはますます腹が立った。そのせいで、思わず奈緒様の頭をポカポカと叩いちゃった。
ところが、その行為は何かに包まれて身動きが取れなくなったことで、不意にできなくなった。
「もう大丈夫。私がいるから、怖くないよ」
気づけば、ボクは奈緒様の両腕に頭からすっぽりと抱きかかえられていた。
甘くささやかれる砂糖菓子のような声は、なんだかお母さんみたいで心地がいい。あ、あ、あと……奈緒様のおっぱいが柔らかくて戸惑っちゃった。
もちろん、他意はないよ、他意は。
でも、ついつい奈緒様に甘えたくちゃっう。
わずかに目をつむって、心を落ち着かせる。それから、一呼吸して奈緒様にお礼した。
「ありがとうございます……」
「フフッ、どういたしまして――ところで、オバケはもういいのかい?」
「もう思い出したくないのにぃ~‼」
「なら、私が添い寝してあげようか?」
「別にいいですっ」
こうして、夜中のハプニングに遭いながらも、ボクは再び眠りについた。
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