8話
みんなの前でお姫様抱っこ――。
そんなことをされたばかりだというのに、どうしてこんな服を着ているんだろう?
しかも、小橋さんがカメラを手にボクの周りをあちこち動き回っている。まるで分身の術を使ってるみたいだ。
そこから、何度も聞こえてくるシャッター音――。
明らかに写真撮られてるよね?
「いい! 実にいいッ!」
「どうして、ボクがメイド服なんか……」
「あ、吉成君。こっちにポーズください!」
状況を説明すると……。
ボクらは双六をどうにかクリアし、他のところも巡って午前中の自由時間を終えた。
それから、クラスに戻って
だけど、なぜかボクに用意されていたのは『メイド服』。
どう考えてもおかしいよ。
小橋さんが用意したのかと思ったら、
「ううん、違うわよ。貴宝院さんに頼まれたから、突貫工事で急造したの」
……と、まさかの犯人が奈緒ちゃんだったなんて。
もちろん、その理由を本人に問い詰めたさ。
そうしたら、ヒドいんだよ? 奈緒ちゃんってば、この姿を見て堪え笑いするんだもん。
「フフフッ……。美樹、スゴく似合ってる」
「ちょっとそれヒドくない!? ボクは、これでも男だよ!!」
「……ゴメンって。でも、やっぱり美樹はカワイイな」
「全然、反省してない!!」
抗議しても、奈緒ちゃんは聞く耳を持たず。
あまりの酷さに頬を膨らませたり、ポカポカとお腹を叩いたりしたけど、全然聞いてくれない。
さすがに疲れて、怒る気も失せちゃった。
逆に奈緒ちゃんは、燕尾服をバッチリと着こなしていて、トレイを片手に給仕する姿が様になっている。
まさにイケメン執事だ。
そんな姿を見せられて、諦めるなって言う方が無理だよね。現にクラスに来た女子がもの凄く騒いでるし。
「美樹? どうかしたの?」
「どうかしたもなにも……。みんなに男らしいところを見せつける場だったのに、全部奈緒ちゃんに持ってかれて悔しいんだよ」
「そういうことか。それは悪いことしたね」
そう思っているなら反省してよ。
とはいうものの、本人にその気は無し。
それどころか、手に持っていたステンレス製の丸形のトレイを近くの机の上に置いて、こっちに近付いてくる。
「な、なにを……?」
戸惑うボクを心配する気なんて更々ない。
あくまでも、ボクをからかって遊ぶ気なんだ。だから、ボクの背丈に合わせて、たち膝になってしゃがみ込んだのもその前触れ。
刹那、ボクのアゴはクイッと持ち上げられた。
「だから、これからも『私のもの』だからね――
「もうっ!! 男として扱ってって言ってるでしょ!」
いつか奈緒ちゃんに『男らしい』と言わしめたい。
なので、あえて心の中で奈緒ちゃんに対する不満を叫ぶことにした。
(ボクより彼女の方がカッコイイのは、なんか違う気がする!)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます