3話




 そして、文化祭当日――。

 ボクと奈緒ちゃんは、『アスレチック双六』の会場に赴いた。



「美樹、大丈夫? 結構高いとこ登ったり、池に設置された平均台の上を通ったりするみたいだけど」

「うん、平気だよ」

「いざとなったら、私を頼ってね」

「それ男のボクが言うべきセリフなんだけどなあ」

「美樹には美樹の役割があるんだから、そう見栄を張らなくていいさ」

「むぅ〜、見栄張るもん!」



 まったく奈緒ちゃんってば、失礼しちゃうな。

 確かに文武両道で、ボクなんかより目立ってるどさ。それでも、ボクにも『男のカイショー』があるっていうのに。

 でも、奈緒ちゃんからしたら、ボクは本当にお姫様なのかもしれない。

 ちなみにボクたちのクラスの出し物での出番は午後から。だから、午前中のうちに二人で出店を回れるだけ回るつもり。

 そして、その手始めに小橋さんが実況するというアスレチック双六を選んだわけ。



「やあやあ、お二人さん! お待ちしてました」

「大盛況だね、小橋さん」

「おかげさまで。力を入れて作った甲斐があったわ」

「ところで、『例のブツ』は忘れてないよね?」



(例のブツ? いったいなんだろう?)

 そのことを問おうとしたら、奈緒ちゃんから「気にしなくていいよ」って制されちゃった。



「もちろん」

「それじゃあ、引き渡しはのちほど」

「了解。あ、でもちゃんと活躍してくれないと困りますからね?」

「その辺は善処するとして。今回は、楽しませてもらうよ」

「是非是非!」



 なにがなにやらで、ちんぷんかんぷん。

 ボクを放っておいて、いったいなんの話?



「美樹?」

「あ、ゴメン。ボーッとしてた」

「そろそろ始めるよ?」

「うん、いつでもオッケー」



 そういうわけで、ボクたちは『アスレチック双六』に挑むことにした。

 見る限りコースは、学校全部を使っているみたいだ。

 もちろん、他の出店の邪魔にならないように、ステージ両脇にはロープパーテーションと、無数の定点カメラが設置されている。

 ……というか、こんな予算どうやって出したの?

 謎が謎を呼ぶ。

 そんなことを考えているうちに、小橋さんがマイク越しに実況し始めた。


『さあ、緑の牧高校にお越しの皆様。本日、注目のプレイヤーをご紹介いたします! 誰もが一度は耳にしたことのある『牧高の貴公子』こと、貴宝院奈緒。そして、その彼氏でありながら容姿は幼くお姫様の如し――』



 お姫様は辞めてほしいんだけどなあ……。

 でも、小橋さんの演説は止まらない。



『童顔の美少年、吉成美樹君のカップルの登場だぁーい!』



 周囲に集まったギャラリーの歓声が一斉に上げる。

 そのほとんどが、奈緒ちゃんに向けられたもの。内外問わず、奈緒ちゃんは芸能人みたいに凄まじいほどに女子に人気。

 ボクも、奈緒ちゃんみたいなカッコよさがあったら騒がれるのかな?



「手始めに私が投げてみるけど、いいかな?」

「うん、お願い」



 こうして、ボクらのチャレンジは始まったのだった。

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