ボクが彼氏なのか、カノジョが彼氏なのか、よくわからない日常の話。

丸尾累児

ボクが彼氏なのか、カノジョが彼氏なのか、よくわからない日常の話。

1話

 ボクの名前は、吉成美樹よしなり よしき

 突然だけど、ボクには彼女がいる。

 でも、悔しいかな。なぜか彼女の方が男らしい。その理由は、ボクの背が小っちゃくてで童顔だからだ。

 一応、これでも高校生だよ?

 対する彼女は、おとぎ話から飛び出してきたような中性的で本物の男子と見紛みまごう容姿。

 そのせいで、女子から大人気。

 もちろん、ボクもこの見た目なので、みんなに可愛がられる。ただ、解せないのは「弟みたい」って言われること。

 失礼だよね? なんでボクは王子様じゃないのさ?



「お待たせ、美樹」




 そんな考え事をしていると、地に響くような美声とともに当人が現れる──ボクの彼女「貴宝院奈緒きほういん なお」、その人だ。

 女バスのエースにして、この学校の王子様。

 紺色の前髪はざっくばらんに切られていて、反対に後ろ髪は動きやすいよう襟足で一本結びで束ねられ、背中の中程まで降ろされている。

 容姿の良さを表現する横長のツリ目と長いまつ毛は、どちらも自然に整っていて、一目した女子の声色が豹変するほどにキレイだった。

 でも、奈緒ちゃんは出るところは出てるから、すぐに女子ってわかる。気付かなければ、本当に男子だと思っちゃうけど。



「奈緒ちゃん、お疲れ様。今日の部活はどうだった?」

「もちろん、今日も絶好調だったよ。キミがマネージャーとして入ってくれたら、もっと活躍できたんだけどな」

「だから、ボクが女バスなんかに入った日には、全員に揉みくちゃにされてるだけって、何度も言ってるじゃないか」

「それでも、私としてはいてくれた方がガンバれるんだけどな」

「ボクがいろいろと困るの!!」

「何が困るって言うんだい?」

「え? だ、だから……その……ダメな部分が……当たって……」

「ダメな部分? 抽象的でわからないな」

「む、胸だよ!」

「胸? 胸って、男子の胸のことかい?」

「男子じゃないよ。女バスには、女子しかいないでしょ!?」

「ハッキリ言ってくれないとわからないなぁ」



 と言われて気付いた。

 いま奈緒ちゃんはイジワルそうな顔をしている。それも特段に楽しんで、ボクをからかうつもりなのだ。

 でも、きっと答えないと奈緒ちゃんは執拗に絡んでくる。

 つまり、『オッパイ』と言わせたいんだ。

 それをわかってか、奈緒ちゃんは近付いてくるなり、さり気なく右手でほっぺたに触れてきた。



「もう! 恥ずかしい言葉を言わせないでよ」

「ゴメン、ゴメン。あまりにも美樹がカワイくて、つい」

「『つい』じゃないよ! 隙あれば、ボクのことからかって」

「それは、美樹が魅力的だからだよ」

「何が魅力的だよ!」

「怒った美樹も可愛いな」

「だから違うって!」

「……フフフッ」

「いつも言ってるじゃないか。丁重に男として扱ってって!!」



 あまりの粗雑な扱いに、ボクはプクゥ~ッと頬を膨らませた。

 でも、奈緒ちゃんは面白がって、目尻を緩ませた王子様スマイルを浮かべている。これじゃあ、ボクが本当にお姫様みたいじゃないか。

 小憎らしいというかなんというか、こういうときの奈緒ちゃんが男より男らしいからイヤになる。



「そろそろ帰ろうか」


 まるで何事もなかったように歩き出す奈緒ちゃん。

 こういうときの切り替えの速さはズルいと思う。ボクが背後でため息をついても、奈緒ちゃんは気付くことなく先を行く。



「おーい、お二人さん!」



 そんなとき、背後から誰かの呼びかけられた。

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