記者志望の青年が少女ともに隠されていた真実を解き明かす青春ミステリ

新聞記者にあこがれて大学の新聞部に入部した青年、佐倉創一。
しかしその日、密室だったはずの新聞部の部室に森美月という一人の少女が眠っていました。
目を覚ました彼女によると「自分は隣の演劇サークルの部室で寝ていた」ということだったのですが……。

物語は大学を舞台に起こる奇妙な出来事の真相を、主人公の佐倉くんとそれに巻き込まれた森さんが解き明かしていくことから始まります。
しかし、その事件を解決する中で佐倉くんは自分の記者としての在り方を見つめなおすことになり、それは彼と森さんの抱えていた重大な過去の事件にも繋がっていくことになるのです。

三つの中編から構成されており、最後の章は実際に起こったバスの交通事故を題材にしています。そこには作者さんの「明かされるべき真実を歪められたために傷ついた人間に救いがあってほしい」という思いが込められています。

表題にある「時の娘」は「真実は時の娘」というイギリスの格言であり、同時に過去の歴史上の謎を解き明かすことをテーマにしたジョセフィン・テイの推理小説のタイトルでもあります。
この物語も同じように実際に起こった交通事故の真実の解明に物語の中で挑んでおり、「真実」=「時の娘」を殺そうとする者たちに対して訴えかける内容をはらんでいます。

青春ミステリでありながら社会派要素もふくむ良作です。
ぜひご一読を。

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時の娘殺し

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