時の娘殺し

作者 雪村穂高

59

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★★★ Excellent!!!

ヨーロッパ圏には「真実は時の娘」なる格言があるそうです。

「時の娘」という言葉からジョセフィン・テイの名前を思い浮かべたという人は、きっとミステリ好きの方でしょう。

あるいはこの作品で初めて知ったという人、私のことですが、そんなミステリ畑に疎い私のような人でも、話を追うにつれ、このタイトルの秀逸さを肌で感じずにはいられないでしょう。作者さまの気迫がこもった、真に迫る、祈りにも似た、魂揺さぶられる作品でした。

私がカクヨムに登録して幸運だったことのひとつは、偶然にもミステリ好きの人たちと出会えたということでしょうか。

事件、推理、謎解き、犯人探し、真実――。

一見物語の世界だけで完結しそうに思えた小さな謎が、次第に大きなうねりとなって、現実を生きる私たちに切に訴えかけてきます。

「真実は時の娘」という言葉がいまも存在しているということ。それはすなわち、握り潰された真実と、それを追い求めた人たち、そして一人では耐えきれないほどの孤独に寄り添おうとする心優しい人たちが、確かにいたということなのでしょう。

その事実に救われた者の一人として、この作品がこれからも存在し続け、願わくば多くの人に届きますようにと、心から祈っています。

(もちろん、この作品は〝フィクション〟とのことですから批判されるにはあたらないと思いますが、万が一この作品が強制的に非公開にされるような時がきたら、その時は創作の自由について考える時なのかもしれません。一方で、この作品が存在している限り、そこには自由が確かに存在していると言えるのではないでしょうか?)

ミステリ×ジャーナリズムをひとつの作品として昇華させた力強さと優しさをあわせ持つ作品だと思います。ぜひ、ご一読ください。

★★★ Excellent!!!

本編が動き始めるのは密室、大学の新聞部室から。
フィクションに縁遠い新聞部員と、ノンフィクションを好まない演劇部員。2人を主役とした青春ミステリ。
3部構成で段階的に舞台は大きくなり、後書きでもう一段広がる。

全体を通して基底に「静かな怒り」を置かれた物語は、肌のヒリつくものでありました。良作。

★★★ Excellent!!!

新聞記者にあこがれて大学の新聞部に入部した青年、佐倉創一。
しかしその日、密室だったはずの新聞部の部室に森美月という一人の少女が眠っていました。
目を覚ました彼女によると「自分は隣の演劇サークルの部室で寝ていた」ということだったのですが……。

物語は大学を舞台に起こる奇妙な出来事の真相を、主人公の佐倉くんとそれに巻き込まれた森さんが解き明かしていくことから始まります。
しかし、その事件を解決する中で佐倉くんは自分の記者としての在り方を見つめなおすことになり、それは彼と森さんの抱えていた重大な過去の事件にも繋がっていくことになるのです。

三つの中編から構成されており、最後の章は実際に起こったバスの交通事故を題材にしています。そこには作者さんの「明かされるべき真実を歪められたために傷ついた人間に救いがあってほしい」という思いが込められています。

表題にある「時の娘」は「真実は時の娘」というイギリスの格言であり、同時に過去の歴史上の謎を解き明かすことをテーマにしたジョセフィン・テイの推理小説のタイトルでもあります。
この物語も同じように実際に起こった交通事故の真実の解明に物語の中で挑んでおり、「真実」=「時の娘」を殺そうとする者たちに対して訴えかける内容をはらんでいます。

青春ミステリでありながら社会派要素もふくむ良作です。
ぜひご一読を。

★★★ Excellent!!!

私は『フィーリング』で生きてきた人間のため、うまく言葉にできませんが……とても素晴らしい作品でした。

各話の内容もさることながら、とくに際立つのが、物語の主要人物のひとりである森 美月の『人格』です。その完成度は、最高水準だと思います。ガチ恋しました。

図書館で何気なく手に取った1冊の本が未知の名作だった──そんな読後感を抱いたミステリー小説です。早くもシリーズ化を心待ちにしております。

★★★ Excellent!!!

本作は神楽大学新聞部の佐倉君と、演劇部の森さんが意外な所で出合い、奇妙な事件に巻き込まれるところから謎が始まります。

とても巧みに伏線が張られており、読み返したり、深く考えてもトリックは全く分かりませんでした。ミステリーって面白い!そう素直に思う作品です。

そして、本作の主人公である佐倉君と森さんが本当に魅力的なキャラクターで生き生きとしています。佐倉君は生粋の新聞記者体質で、森さんは観察眼が鋭く二人とも個性的であり物語から抜け出してくるように躍動感を感じます。ミステリーとして楽しめるのはもちろんのこと、主人公達の会話の掛け合いや考えていることもとても面白くてどんどん読み進めてしまいました。

私は『シェイクスピアの子ども』から雪村穂高さんのファンになりましたので、そちらと合わせて読むことをおすすめします!
最高のミステリー作品です!

★★★ Excellent!!!

とある大学の新聞部の主人公佐倉創一が、鍵をあけて部室に入ると、机の上でこんこんと眠る女子大学生と、血のように滴るトマトジュースによって破壊された備品のPCがあり――という始まりの日常ミステリです。本作はいくつかの短編〜中編を束ねた連作になるようで、以下では現時点(第1章「眠れる森の密室」終了時点)の感想を書きます(第2章もめちゃくちゃ楽しみです!)。

トリックはぜんっぜんわかんなかったです。怪しいなと思った要素はたくさんあったんですが、それをどう結びつけたら密室になるんだろうとウンウン唸ったけどわからず、種明かしを読んで「ウォー、なるほど!」となりました。さり気なくたくさん怪しい要素が提示され、かつ丁寧に別解も潰してあるので、ミステリとしてとても満足感がありました。

しかしこの作品、密室のトリックが明らかになってからが本番なんです。そのテーマについてめっちゃ語りたいんですけど、ネタバレはよくないのでぐっとこらえて、それを読み解く上で補助線になりそうな小話を1つ。

ミステリで『時の娘(The Daughter of Time)』と言えば、ジョセフィン・テイの名作歴史ミステリですね。入院中の主人公がベッドに寝転んだまま歴史書を紐解き、悪名高き英国王リチャード3世の真相を追求する、という物語です。ちなみにみんな大好き《古典部》シリーズ第1作『氷菓』の英題The Niece of Time(時の姪)は、このテイの作品をもじったものですね。

そのテイの小説のタイトルの由来が、「真実とは時の娘である(Truth, the daughter of Time)」というヨーロッパに昔からある慣用句です。これは、真実は時間が経つことで明らかになるという意味で、「時の娘」とはすなわち「真実」を意味します。

この作品のタイトルは、その「時の娘=真実」を「殺める」と言うんだから、ちょっと… 続きを読む

★★★ Excellent!!!

 うっかりネタバレを書いてしまうと怖いので、感想を。
 本作はトリックも精密に練られているだけでなく、登場人物たちの感情描写も色鮮やか。ミステリとしての謎に偏りすぎず、物語としての形もしっかりとつくられています。
 謎と感情が黄金比で絡み合う。謎が明かされたときの爽快感だけでなく、物語への納得も与えてくれる。
 そんな作品です。
 二章も期待してお待ちしております。(レビューは一章終了時点)

 あなたにはこの謎が解けるか。
 ちなみに私は解りませんでした。

★★★ Excellent!!!

佐倉創一は神楽大学一年生、新聞部に所属している。部員は三人、だが活動しているのは彼一人である。新聞部のメールアドレスにメールが入る。彼が報道した記事について話がある、と。部室に入ると、見知らぬ女子学生(演劇部部員森美月)が眠っていた。彼女にはここに来た記憶がないと言う。この部室が完全な密室であったことを確認し、新聞部報道のミスターグランプリ―不正事件と関係があることを突きとめた二人は、謎の解明と犯人の割り出しに挑む。
 ホームズ張りの佐倉、勘が働き突っ込み鋭い森。この組み合わせ、掛け合いが実にいい。

タイトルの「時の娘殺し」、なんとも意味深である。
このタイトルの持つ意味が、事件全体とどのように関わってくるのであろうか。興味がつきない。
 佐倉が大学新聞部に入った理由、ミスターグランプリ―不正事件との関り、十五年前の自動車事故のトラックメーカーの隠蔽記事、報道が持つ意義と重み、事件の背景は深く、複雑である。

作者の謎解きには定評がある。私もその魅力に憑りつかれている一人である。
読者の皆様も。佐倉、森と共に、密室から始まる事件の謎解きに挑戦してみては如何でしょうか。