真実を殺める

とある大学の新聞部の主人公佐倉創一が、鍵をあけて部室に入ると、机の上でこんこんと眠る女子大学生と、血のように滴るトマトジュースによって破壊された備品のPCがあり――という始まりの日常ミステリです。本作はいくつかの短編〜中編を束ねた連作になるようで、以下では現時点(第1章「眠れる森の密室」終了時点)の感想を書きます(第2章もめちゃくちゃ楽しみです!)。

トリックはぜんっぜんわかんなかったです。怪しいなと思った要素はたくさんあったんですが、それをどう結びつけたら密室になるんだろうとウンウン唸ったけどわからず、種明かしを読んで「ウォー、なるほど!」となりました。さり気なくたくさん怪しい要素が提示され、かつ丁寧に別解も潰してあるので、ミステリとしてとても満足感がありました。

しかしこの作品、密室のトリックが明らかになってからが本番なんです。そのテーマについてめっちゃ語りたいんですけど、ネタバレはよくないのでぐっとこらえて、それを読み解く上で補助線になりそうな小話を1つ。

ミステリで『時の娘(The Daughter of Time)』と言えば、ジョセフィン・テイの名作歴史ミステリですね。入院中の主人公がベッドに寝転んだまま歴史書を紐解き、悪名高き英国王リチャード3世の真相を追求する、という物語です。ちなみにみんな大好き《古典部》シリーズ第1作『氷菓』の英題The Niece of Time(時の姪)は、このテイの作品をもじったものですね。

そのテイの小説のタイトルの由来が、「真実とは時の娘である(Truth, the daughter of Time)」というヨーロッパに昔からある慣用句です。これは、真実は時間が経つことで明らかになるという意味で、「時の娘」とはすなわち「真実」を意味します。

この作品のタイトルは、その「時の娘=真実」を「殺める」と言うんだから、ちょっとギョッとするものですよね。ですがこのタイトルの含意と事件の真相が交錯するところに、何が現れるのか――未読の方はぜひその目で確かめてほしいです。

(自主企画『学園&青春ミステリー』にご参加頂いた作品です。ご参加、ありがとうございました)

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