4人の高校生が部活や行事を通して失敗と成長を重ねる群像劇です。
主人公は、占いの結果を元に行動することを信条とする理屈屋の高校生です。よく言われていることですが、日常ミステリーって、謎が謎に見えないほどささやかなものだったり、探偵役が探偵を生業にしているわけではないので、なぜその謎を調査するのかという動機付けの設定が難しいんですよね。しかしこの設定ならトリッキーな理由付けで、探偵役に推理に向かわせたり/逆に手を引かせたり、あるいは読者にミスディレクションを与えたりできるなと思いました。第3章ではこの設定がギミックからテーマへと推移していて、キャラクター小説としての練度を感じました。あとは沙妓乃ちゃんが可愛い。推せる。
ただ、ミステリーとしての面白さやギミック、例えば「回答が提示される前に真相を暴きたい」とか、「え、あの何気ないシーンがここに繋がるの?!」的な驚きを期待して読むと、かなり物足りない印象を受けました。謎をもう少しわかりやすく謎に見せかける工夫や、解答が提示されるまでに推理に必要となる全ての情報を提示する工夫があると良かったです。ただ、これは私の好みと期待の問題なので、そんなんどうでもいいんだぜという人には問題ないと思います。
まだ未完結ということですが現在(第41話)までのストーリーを見る感じ、この4人それぞれが自分の理想や信条に固執しすぎて、空回りし続けている印象を受けています。この4人の化かし合いの末に、いったいどんな「青春」が現れるのか、楽しみにしています。
(自主企画『学園&青春ミステリー』にご参加頂いた作品です。ご参加ありがとうございました。)
ミステリーというジャンルの執筆に一度でも手を着けた方ならお分かりでしょうが、「人が死なないミステリー」を書くことは難しいです。登場人物の"死"というものは、良くも悪くも容易くストーリーに起伏を生みます。
だからこそ、ミステリーというジャンルに限らず、ときに書き手はその"刺激物"に甘えがちなところがあります(言わずもがな、登場人物の"死"ありきの作品もまた多数存在します。これは「人が死ぬミステリー」を貶めることを意図した記述ではありません)。
そして、御作にその安易な"刺激物"は存在しません。
しかし、読み手を引き付ける確かな起伏がそこにはあります。
占いを否が応にも叶えにいってしまう──柴剣太郎。
春に取り残されたような名前でありながら、エネルギーに満ち満ちている──山根小冬(ときにいいねbotと化す)
頭の回る破天荒──木滝恒彦
その佇まい、さながら文化部のエース候補──能沙妓乃
──何だかバンドのイカれたメンバーを紹介するぜ! みたいな流れで、冒頭のお堅い感じがもはや息も絶え絶えですがその辺りは目を瞑っていただくとして。
私個人としては、作品の完成度も然ることながら、シリーズ物としてきちんと「第二章を読みたくなる第一章」に仕上がっている点が特長だと思います。
「人が死なないミステリー」の面白さを未経験の方、あるいはそれを形にする苦しみを身を以て知っている方にこそ、おすすめしたい作品です。