凄まじい治癒魔法をもつ主人公の聖女ヘカティア。
不死身になるほど強大な力を持つというのに、彼女にもどうにもならない事があった。そのことに心を痛めたヘカティアは逃亡して旅にでる。
旅の途中、ヘカティアは秘宝の眠るダンジョンに行くことになり、ボルテという男と出会うのだが……
戦争で傷ついた人々を癒し、感謝されるヘカティア。
でも、感謝されてもヘカティアは素直に喜べない。そんな彼女の苦悩と葛藤が印象的な物語でした。
彼女の世の中の理不尽さへの言及に、何度「なるほど」と唸ったかわかりません。物語の根底を流れる作者様の深い洞察が見どころのひとつなのは間違いないと思います。
シリアスさのあるファンタジー作品が読みたい方におススメ!
「救国の聖女」と呼ばれた、治癒魔法使いのへカティアは、己が不死身になってしまうほどに、強力な能力を持っていた。
しかし、一時は戦争で活躍したもののいつまでも続くかもわからないそれに反抗して投獄される身に。
そんなへカティアの前に姿を現したのは、ランパスだった。
闇の妖精ランパスと行動を共にするが、思惑はそこ知れず。しかし二人の行動は危険を伴いながらも、気楽に見える。
そこにボルテも加わり、時を取り戻す魔法があるというダンジョンへと向かう事になる。
時を取り戻す魔法とは何か。
時を戻すではなく、時を取り戻す。
時が戻ったその時に何があるのか。
とにかく、へカティアの心情がストーリーの大元と言っても良いでしょう。
人にとって、孤独とは何か。
幸福とは何か。
人の為とは何か。
様々な人の心が繊細に書き出され、時に胸が苦しくもなります。しかし、それを乗り越えた先にある答えにきっと胸が温かくなるはず。
へカティアの苦悩、ランパスの目的、その先にあるものをどうかじっくりとご覧になってみて下さい。
聖女と呼ばれているのに「これが聖女への扱いなのか?」と疑問に思ってしまう扱いを受けていたヘカティア。
そんなヘカティアを助けてくれた妖精ランパス、用心棒のボルテと共に「時を取り戻す魔法」がある不思議なダンジョンへ行きます。
そんなヘカティアには、ある望みがありました。
その望みを抱く気持ちはわかります。
頑張った分、得られるはずのものが手のひらからこぼれ落ちてしまっていたのです。
けれど、このダンジョンでヘカティアは真実と向き合うことになり……これがまたハードで、胸が締め付けられました。
それでも、悩み、苦しんで出した答えは、ヘカティアの未来に光が差し込んでいました。
皆様もぜひ、ヘカティアが出した答えをご覧ください。
治癒する力を持った少女へカティアは、その力を利用して兵士たちを戦わせ続けるために自分を聖女として担ぎ上げる国家に反感を覚えます。
そして反逆したために囚われの身となってしまうのですが、そんな彼女を妖精ランパスが冒険へと導くのです。
やがてヘカティアたちは用心棒ボルテをつれて、失った時間を取り戻すことができるという不思議なダンジョンへ向かうのですが……。
世界の理不尽に苦しむ主人公がダンジョンの中で過去と出会い、隠された真実と対面することになります。
どこか幻想的で神話や叙事詩のような雰囲気の世界観の中で、悩み苦しみながら運命と向き合う主人公の心理描写が光っています。
シリアスなファンタジー冒険ものとして、独特な空気感を楽しむことができると思います。
かつて『救国の聖女』と呼ばれたへカティアが謎の妖精ランパス、そして口数が少ない用心棒ボルテと共に「時を取り戻す魔法がある」と言われるダンジョンを目指す。
ランパスはやり直したい過去があり、ボルテはとあることがきっかけで人の役に、とりわけある人の立ちたいという願いがある。地下牢から脱獄したへカティアにも、取り戻したい時間があった。だがそれはへカティアが望んでも手に入れられなかった存在しない時間。彼女は類稀な治癒魔法で多くの兵士を救い自国に貢献したが、そのせいで失ったもの、そして得られたはずなのに得られなかったものがあまりにも多すぎた。
こんな自分では望んでも手に入らないと諦めたはずの過去か、
今の自分を全て捨てて生まれ変わり、望みを叶えた遠い未来か、
それとも、たった一人でも自分の帰りを待ってくれている人がいる今か。
へカティアがダンジョンの女神に望んだ時間を、ぜひ見届けてください。
自分を見つめ直す奥深いダンジョンで、黒い犬があなたを待っています。
「救国の聖女」と呼ばれた、治癒魔法の使い手ヘカティア。
本作を語る上で知っておかないといけないのは、ヘカティアの回復魔法の凄まじさ。通常の異世界ファンタジーもので出てくる回復魔法を、大きく上回っているのですよ。
例えば腕を失っても元に戻したり、ヘカティア自身にも魔法の効果があって、どんなに攻撃されても死ななかったりと、彼女の治癒魔法の力は奇跡そのもの。
しかし、いかに優れた魔法でも、心の傷までは治せないようで。
国は何度も戦争を繰り返し、ヘカティアがケガを治した人は次々戦地に送られていく。聖女ともてはやされていても、その実戦争の道具のように扱われるヘカティアの苦悩が、とても痛々しかったです。
しかし、そんな彼女にも人生逆転のチャンスが? ヘカティアが仲間と共に訪れたのは、時を取り戻す魔法があるダンジョン。
はたして彼女は、失った大切なものを取り戻すことができるのか?
ハードな展開が続くお話ですが、もちろんそれだけではありません。
ヘカティアが心を許した愛犬への思い、幽閉されていたヘカティアを助け出してくれた仲間との絆。胸が熱くなる要素がしっかり組み込まれていて、闇の中に光が差したような、希望のある読後感がありました。
類稀なる治癒魔法を使うへカティア。
それにより戦場で多くの人の命を救い、救国の聖女と呼ばれた彼女ですが、誰もが崇めるような英雄として優雅な暮らしを、なんてことにはなりませんでした。
それどころか、少し前まで彼女がいたのは地下牢。
とても聖女とは思えないほど悲惨な扱いを受けていた彼女ですが、そこに現れた妖精ランパスの助けのおかげで、なんとか脱出となりました。
しかし、いったいなぜそんなことになってしまったのか。
実は戦場で多くの人々を救ったへカティアですが、それでも戦いは続きます。兵士は再び戦場に行き命を落とす。そんな彼らを差別し、死地になるとわかっていて送り込むものがいる。
へカティアは傷は治せても、こんな世界の歪みみたいなものは、さすがにどうすることもできませんでした。
そんな世の中の負の部分を目の当たりにしたへカティアの葛藤と苦しみこそが、本作の見どころ。
本作で書かれる世界は決して美しいものではなく、むしろ痛みや苦しさに溢れていて、へカティアも当然傷つきます。
苦しい場面が出る度に不安になり、だからこそ何かしらの形で救いがあってほしいと願わずにはいられません。
心がすっかり折れてしまっても不思議じゃない。
そんな思いをした彼女は、最後いったい何を望み、どこに向かって歩みを進めていくことになるのでしょう?