第12話 隣にある死

「俺の3倍以上はある身長に、横幅もあるデカイ体だけど……動きをちゃんと見ていれば!」


 自身に振るってくる大剣をギリギリで避けつつ岩石の魔物との距離を縮めることに成功をすると、剣に先ほどと同じく手を添えた。


「今度はこれでどうだ!」


 剣身が濃い青色に染まり一気に岩石の魔物の足に向けて剣を振るうと、岩石の魔物の足元から発生した氷が全身を覆っていく。

 そして出雲が剣を氷漬けになった岩石の魔物に向けて投げると、ガラスが割れるようにその体が砕け散った。


「この程度の魔物なら、俺でも倒せるな。そっちはどうだ? 無事か?」

「私を舐めないことね! この程度の魔物なら倒せるわ!」


 武器を持たずに魔法だけで美桜は岩石の魔物を倒していた。

 どういう風に倒したのか見ていなかったので美桜の戦い方が凄い気になるが、今は聞き出す暇もないので次に迫る魔物の対処を考えなくてはならなかった。


「まだまだいけるわ! この程度じゃへこたれないわよ!」

「よかった! どんな魔物が来るかわからないから、気を付けて!」


 2人が高原の方向を向くと、騎士や配達士が血相を変えて町に戻って来る姿が見えた。その数は騎士と配達士を合わせて50名は越しているように見え、ほぼ全員が怪我を負っているようである。


「逃げろ! 騎士が何名か残って戦っているが、俺達の敵う相手じゃない!」

「君達はまだ子供だろう!? 前線に出ないで町の防衛をしていなさい!」


 騎士と配達士が2人に話しかけると、町に急いで入っていく。

 町で治療を受けたら再度前線に出るのだろうと出雲が考えていると、町に避難をしろと戻ってきた騎士と配達士達全員が話しかけてきていた。


「ここまで全員が言うんだから、町に戻りましょうよ。私達じゃ敵わない魔物が沢山いるんだって」

「そうだろうけど、ここで逃げるのもな……」


 美桜の不安そうな顔を見ると、戻った方がいいのではないかと心が揺らいでしまう。


「確かに美桜をこれ以上危険な目に合わせるわけにはいかないか……戻ろうか」


 そう言葉を発した瞬間、爆音が辺り一帯に鳴り響く。

 何が起きたのか理解が出来ていない2人は、地面に手を置いて周囲を見渡して状況を確認していた。


「な、何が起きたの!? 近くで何かが爆発したような感覚だったわ!」

「俺もそうだった! 残っている騎士はどんな戦いをしているんだ!?」


 高原の方で戦っている騎士の強さや、戦闘のレベルの高さを想像をしていた。

 だが、そんな暇もなく再度爆音が辺り一帯に鳴り響く。


「また!? 何が起きているの!?」

「わからない! だけど、凄い戦いが行われているのは確かみたいだ!」


 態勢を整えた出雲は美桜の手を握って町に入ろうとすると、遠くから人が吹き飛んでくる姿が目に入った。 

 その姿は青色と白色のコントラストが美しい騎士団の制服を着ている騎士であり、左腕から血を流しているようである。


 騎士は耳にかかる長さの金髪をしており、二重の目元と端正な顔立ちが人目を引く顔をしている。また、制服を着ていても見える体格の良さが日々鍛えているのだと一目でわかるほどで、騎士は地面に辛くも着地をすると剣を地面に刺して息を荒くしていた。


「君達は配達士か? ここから速く逃げるんだ! あの魔物は今までとは違う!」


 あの魔物とは何だと出雲が前方を向くと、静かにこちらに歩いて来る不可思議な人型の姿をしている魔物が目に入る。

 その魔物は左腕が太く鱗で覆われて鋭い爪をして右腕は人間の腕であるが、顔に当たる部分には見たことがある仮面を被っているように見える。


「なあ美桜……あれって昨日襲ってきた刺客じゃないか?」


 隣にいる美桜に話しかけると目を見開いてもしかしてと呟いているので、何か思い当たる節でもあるのかと思った出雲はどうかしたのかと話しかけた。


「私が陸奥でしたことは知っているわよね? その時に呪いが国中に蔓延したのよ。その呪いは人によって様々だけど、あの刺客は重度の魔物化みたいね」


 魔物化。

 それがどういう意味なのかは言葉通りなのだろうと思っていた。昨日弾け飛ばされた左腕は太い異形の腕が生えており、仮面で顔は見えないが静かに歩いていることから理性は残っているのだろうと見える。

 騎士がどうして魔物と断言出来たのかはわからないが、昨日と同じ服装をしているので、出雲達からは人間だとすぐに理解出来た。


「私のせいだわ……私が昨日腕を吹き飛ばしたから、魔物を引き連れて町を襲いに来たんだわ……」


 私のせいだと言い続けている美桜に向けて、出雲は君のせいじゃないと断言した。


「美桜のせいじゃない! 悪いのは魔物を引き連れて町に攻めて来ているあの刺客だ! 美桜は悪くない!」

「出雲君……ありがとう……」


 美桜は出雲に感謝の言葉を言うと、少し遠い場所に落ちている刀を見つけた。

 逃げてきた騎士か配達士が落としたであろう刀を手に取ると、私も戦うわと構えを取る。


「様になっているね。やっぱり武器と魔法を使う戦い方が身についているみたいだ」

「黙っていてごめんね。私は基本、このスタイルよ」


 2人が話していると、騎士が逃げないのかと武器を構えて前方を向いて声を発している。


「逃げませんよ! 戦うことにしました!」

「私も! ここで逃げたら一生後悔します!」

「そうか……なら、死ぬなよ! もう誰かが死ぬ姿は見たくないからな!」


 騎士が刺客であろう異形の魔物に向けて駆け出すと、2人も続いて駆け出した。

 3人の駆け出す姿を見た異形の魔物は、一度肩を落とすと足に力を入れて距離を詰める。騎士は異形の魔物の左腕の爪による攻撃を剣で防ぐと、流れるように右足で異形の魔物の腹部を力強く蹴り飛ばした。

 美桜は態勢を崩した異形の魔物の隙を見て鋭く縦に刀を振るうも、右手にいつの間にか持っていた短剣で攻撃を防いでいた。


「やっぱり短剣! 刺客なのね!?」


 美桜が異形の魔物に話しかけると、ドスの聞いた声で復讐をしに来たと鋭い視線を浴びせながら答えている。出雲は異形の魔物を見ると銀光の剣で鍔ぜり合う2人の間に入り、やらせないと叫ぶ。


「昨日の今日で襲ってくるなんて、執念深いぞ! 美桜は俺が殺させない!」


 美桜の前に立って異形の魔物を睨みつけると、騎士が何か因縁でもあるのかと話しかけてくる。


「復讐とか刺客とか、目の前にいる魔物が関係しているのか?」

「いや、その……誰かに似ていただけだよ!」


 危ない危ないと心の中で思っていると、騎士が気を抜くなと2人を一喝する。

 美桜がわかっているわよと言うと、その言葉に続いてわかっているよと前を向いて出雲も返事をした。


 3人は目の前にいる異形の魔物に向けて武器を構えると、異形の魔物が不気味な威圧感を放ち始めていた。その威圧感は辺り一帯に広まり、体から冷や汗が流れるのが止まらないと出雲は感じる。


「なんだこの威圧感は……死が隣にあるみたいだ……」

「そうか。君は配達士だから弱い魔物としか戦っていなかったんだな。武蔵から離れると、目の前にいるあの魔物と同等の強さを持つ魔物が沢山いるぞ」


(異形の魔物と同等の強さの魔物が沢山いるの!? 俺が今まで戦ってきた魔物は強くない部類だったのか……)


 今までの経験がこの戦闘では役に立たないと知ると、途端に恐怖が体を支配してくる感覚に陥ってしまう。

 怖いという言葉が体の内側を支配して動くことが出来なくなると、左肩を掴んで大丈夫よと美桜が言葉をかけてくれた。


「怖がる必要はないわ。私が付いているからね」

「今は俺もいるぞ。騎士が付いているんだ、怖がる必要はない!」


 恐怖で動けなかった出雲は2人に励まされて恐怖を押し退けることが出来た。

 だが、それでも目の前にいる異形の魔物が放つ威圧感は凄まじいと感じている。


「時間があまりかけられない! 高原の方ではまだ戦っている仲間がいるんだ!」


 戦っている仲間がいる。

 騎士は仲間のために目の前にいる異形の魔物と戦う勇気を振り絞っているようであった。出雲は負けられないのは同じだと考え、騎士に続いて駆け出す。


「俺だって! 配達士にだって負けられないんだ! 守るって約束したから!」


 騎士が異形の魔物に攻撃をする合間を縫って、出雲も剣で攻撃を仕掛ける。

 2対1という構図となっているが、異形の魔物は短剣と爪を使用をして難なく攻撃を防いでいる。


「簡単に攻撃を防がれる! どうして! 2人で攻撃をしているのに!」

「目の前にいる魔物が強すぎるんだ! 身体能力が高いし、簡単に攻撃を防ぐ技量もある! 油断をするな!」


 戦いながら横にいる出雲に話しかけている騎士だったが、一瞬のスキを突かれて短剣で体を斬られてしまう。

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