第10話 鍛冶場

「相変わらず熱い場所だなー。外に作ればいいのにどうして地下なんだろう?」


 足を一歩鍛冶場に入れただけで、体から大量の汗が噴き出ていた。

 鍛冶場は本部の敷地面積と同じくらいの広さを有しており、そこでは200名以上の職人が武具を作っている。各種武具に対応をしたチームに分かれており、広い敷地を活かしている。


「熱い……早く剣をもらってここから出よう……」


 鍛冶場で働いている人達に挨拶をしながら、奥にある事務所を目指す。

 事務所は人が20人程度入っても余裕がある広さの平屋となっており、内部はとても過ごしやすい温度設定となっている。鍛冶場に入ったら、まず事務所を目指せと言われる程に涼しいと有名だ。


「熱い……早く事務所に行かないと倒れる……」


 ハンカチで汗を拭っている物の、汗が止まらなくなっていた。

 暑い暑いと言いながら事務所の前に辿り着き、何回か扉を叩くと誰だと言葉を発する野太い男性の声が聞こえてくる。


「俺です源さん。黒羽出雲でーす!」

「なんだ出雲か! 入っていいぞ」

「失礼しまーす」


 そう言いながら事務所に入ると室内はとても涼しくなっており、そこには鍛冶場の女性事務員と出雲が源さんと呼んだ鏑木源が椅子に座っている姿が見えた。

 源は身長はそこまで高くはないが筋骨隆々は体をしており、無精髭を蓄えているその顔も相まって重い威圧感を感じる様相をしている。


「今日はどうしたんだ?」


 源は椅子に座りながら出雲の方を向いて話しかけてきたので、出雲はちょっと相談があってと頬を掻きながら答える。


「えっと……あの……言いにくいんですけど……また剣を壊しまして……」


 剣を壊した。

 その言葉を聞いた源は目を見開いて勢いよく席から立ち上がる。


「お前! 俺が丹精込めて作ってやったのに、もう壊したのか!?」

「いやいやいや! ぽっきり折れたわけじゃなくてヒビが入ったんですって!」

「それは同じことだ! 何本壊せば気が済むんだ!」


 出雲に詰め寄りながら源は剣を見せろと詰め寄って来が、剣を持っていないので見せることが出来ないでいた。


「い、家に置いてあるから見せれないっすよ!」

「なんで持って来ない! 実物を見ないと俺が次の剣を打てないだろうが!」


 声を上げて怒る源に対して出雲はごめんなさいと謝るしかなかった。

 源はその姿を見ると、深いため息をついてもういいと言葉を発する。


「お前はいつものことだしな。壊れた剣はそのうち持ってこい」

「ありがとうございます!」


 源は再度ため息をつくと、事務所の奥に移動をした。


「どこに行くんですか?」

「お前に渡す剣のストックを取るんだよ。どうせすぐに壊すと思って何本か打っておいたんだ」

「本当ですか!?」

「俺が嘘をついたことがあるか?」


 そう言いながら事務所の奥にある扉を開いて、そこに源が入っていく。


「そこは何ですか?」

「そこは小さいですけど倉庫となっています。試作品や事務所道具などをしまっています」

「あ、ありがとうございます」


 扉の奥のことを聞いた出雲は、とりあえず源が戻ってくるのを部屋にある椅子に座らせてもらって源を待つことにした。

 外の景色を見ながら待つこと5分後、奥の扉が勢いよく開いて源が姿を現した。その手には銀色輝く剣を持っているように見える。


「待たせたな。これはお前専用に俺が打った剣だ」


 そう言いながら出雲に剣を手渡そうとする。


「い、いいんですか? 俺なんかに専用の剣なんて?」

「お前だけが俺に話しかけくれたんだ。こんな性格だから、誰も俺に製作依頼をする人がいなくてな……だからお前が俺を選んでくれた時は嬉しかったぞ」

「源さん……俺は源さんが真剣だからあれほど怖いのかなと思っていましたし、ぶつかることはあったけど、ちゃんと意見を聞いてくれて想像以上の剣をくれているから俺も嬉しいです!」


 椅子から立ち上がって、源から銀色に光る剣を受け取った。

 鞘から剣を引き抜くと剣身も銀色に輝いており、見ているだけで心が奪われるようである。


「剣には特に名前などは付けることはないが、俺はその剣に銀光の剣となずけようと思っている」

「銀光の剣?」

「そうだ。希少な鉱石を使って打ったその剣は、銀色に輝く綺麗で強靭な剣となった。だからそう簡単に折れないし、お前の力をより一層高めてくれるだろう」


 剣身を見ながら源の話を聞いていると、料金は出世払いでいいぞと衝撃の発現をしてきた。


「お金取るの!? 支給品はタダじゃないの!?」

「それは俺が独自に素材を集めて、お前のために打った特別な剣だぞ? そりゃ料金を取るでしょうよ」

「あ、はい……俺の貯金がどんどん減る……」


 肩を落とすも、その手にある剣を見て高揚をしていた。

 専用の武器というのは中々もらえるものではなく、王に認められた一部の騎士だけが手にすることが出来るとされている。それを出雲は作ってもらったので、まさに家宝にでもしたいくらいの嬉しさを感じていたのであった。


「料金は出世払いでいいから今は払わなくていいさ。お前の活躍を見ているから、頼んだぞ」


 源は不器用ながらも笑顔を出雲に向ける。

 その笑顔を見ていると、銀光の剣を使いこなしてみせるよと言葉と共に笑顔を源に返す。


「そうか。そう言ってもらえると嬉しいぜ。ほら、さっさと帰りな。ここにいたって楽しいことはないぞ」

「俺は楽しいけどなー。でも、待たせている人がいるから戻るね。これからもよろしく頼むね!」

「言われなくともそのつもりだ。ほら、さっさと行け」


 出雲は源に一礼をし、来た道を戻ると腰に差している剣の感触を感じて嬉しくなっていた。


「まさか専用の武器を作ってくれていたなんて思わなかったな。この剣を大切に使っていかないとな」


 鍛冶場に繋がる階段を上って地上に出た出雲。

 そのまま服屋に戻ると、入り口前で美桜と加耶が何やら談笑をしている姿が見えた。


「戻ってきたよ。一度離れてごめんね」


 美桜に話しかけると、大丈夫よと返答をしてくれた。

 その姿は配達士の服装であり、買った際に着替えたようである。加耶は出雲の方向を向き、胸を張って凄いでしょと言っていた。


「美桜ちゃんに似合う服を10着以上も買ったわ! おかげで今月の給料を全て使っちゃたわ!」

「そんなに買ったの!? 少しお金返しますよ!」

「平気よ……私が買ってあげたかっただけだから……」


 加耶はどこか遠い目をしてしまう。

 買えるだけ買ったのだろうか。財布と貯金がと小さな声で発しているようで、出雲は本当に大丈夫ですかと再度話しかけた。


「気持ちだけでいいわよ……ありがとう……私は美桜ちゃんが喜んでくれるだけでいいの……」

「加耶さんありがとう! 大切にするね!」

「美桜ちゃあ~ん!」


 話しかけられた途端に笑顔になって抱き着いた加耶は、美桜の体を数秒間堪能をすると仕事に戻るわねと言う。


「あ、仕事中だったんだね。付き合ってくれてありがとう!」

「美桜ちゃんの笑顔を見れただけで嬉しいわ。また一緒に買い物しましょうね!」

「うん!」


 どうやら2人は仲良くなったようで、出雲がいた時よりも親密に見える。

 美桜からは警戒心がとれており、加耶に抱き着かれても嫌な顔をしていなかったからだ。


「加耶さんと仲良くなったみたいだね。よかったよかった」


 何度も頷いて美桜によかったと言い続けていると、加耶さんって優しい人ねと美桜が喋り始める。


「初めは距離が近すぎる人だと思ったけど、話しているうちに優しい人なんだと思ったら急に親しみを感じたわ」

「加耶さんは距離の詰め方が独特だから、それさえ理解すれば仲良くなれるんだよ」

「そうなのね。最初に拒絶しちゃって傷つけちゃったかしら?」


 美桜は初めにした加耶への対応を思い出し、少し落ち込んでいるようである。

 だが、出雲は最後にあれだけ仲良くなれたんだからと美桜の頭部を撫でて言う。


「そうだといいわ。次に会ったらお茶でも誘おうかしら?」

「それいいね! 絶対加耶さん喜ぶよ!」


 美桜と話しながら服屋から移動をして本店から外に出ようとした瞬間、建物内で耳を劈く程の音が鳴り響いた。

 美桜は何が起きたのと慌てていると、出雲は魔物の接近警報だと声を上げる。


「どうして急にこの音が!? 最近は鳴っていなかったのに!」

「そうなの!?」

「この町に近づく前に騎士達が対処をしているから、町に接近することはなかったんだ!」


 突然の接近警報に配達士達は急いで持ち場に移動を始めていた。

 ある配達士は装備を整え、ある配達士は騎士が所属をしている騎士団本部に連絡を取って動きの確認をしていた。

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