第2章 微笑む悪魔

第11話 突然の急襲

 本店内に鳴り響く音を聞きながら、出雲は早く行かなければと周囲を見渡していた。


「どうしたの!? 早く行かないとダメなんじゃないの!?」

「そうだけど、勝手には動けないんだ! 俺は仁さん直轄の部隊にいるから、指示がないと動けないんだ!」


 2人を避けながら配達士達が慌てて通り過ぎていく。

 町に近いぞと言っている人や、既に被害が出ていると叫ぶ人もいる。出雲は舌打ちをして早く動かないとと小さな声で呟いていると、先ほど別れた加耶が慌てながら走って来る姿が見えた。


「よかった! まだそこにいたのね!」

「加耶さん!? どうしてここに!?」

「所長からの命令を届けに来ました! 黒羽出雲は単独で現地に向かい、騎士や魔法配達士と連携をして魔物から町を守ること。これが命令です!」


 加耶から命令を聞いた出雲は、わかりましたと声を上げるとその場から移動をしようとする。だが、美桜に服の裾を掴まれてしまい走ることが出来なかった。


「ちょ、どうしたの!?」

「1人で行く気なの?」

「そうだよ? 俺は配達士だからね!」

「なら、私も行く! 出雲君を1人にはしないよ!」


 潤んだ瞳で見つめてくる美桜を見ると、自身が折れるしかないと察するしかなかった。


「わかったよ! だけど俺から離れないでよ! 確か魔法を使えたよね? 後方支援で大丈夫?」

「大丈夫よ! それに言ってなかったけど、私は刀を扱えるわ!」


 刀と聞いた出雲は、先に言ってよと肩を落としてしまう。

 配達所に刀があるか考えている出雲に対し、加耶がありますよと教えてくれた。


「確か鍛冶場にストックがあるはずですけど、取りに行く時間はないですよね……」


 加耶が腕を組んで悩んでいると、出雲は戦場に行けば誰かが持っているかと考えていた。だがあったとしても分けてくれるだろうかと甘い考えだなと自身の考えを一蹴した。


「とりあえず現地に行こうか! そこでまた考えればいいし!」

「そうね! 今は早く行きましょう!」


 2人が顔を見合わせていると、加耶が1枚の地図を手渡してくる。

 その地図には戦場の場所が示されており、武蔵からそれほど遠くない場所であることが見て取れる。


「町から東の方向ですね。直線で15キロ地点ですか……側にある高原から向かって来てるみたいですね」

「そうなの。既に騎士達が戦って食い止めているようだけど、崩されるのも時間の問題みたい。魔物が多数攻めて来ているのと、その魔物を統率している何かがいるみたいなの」

「統率している何か? 最近発見された知能がある魔物ですかね?」


 出雲は新発見の知能がある魔物のことを言うが、加耶はそうじゃないみたいなのと顔を伏している。


「人間が統率しているみたいで、魔物と結託して世界中の国を襲っているようなの。そして、ついにこの大和国についに攻めてきたわ」


 世界中の国々に侵略をしていると聞き、もしやと出雲はある考えがよぎる。


「もしかして陸奥の人? 襲ってきた刺客ともう1人誰かが魔物を仕掛けているのかも?」


 陸奥の人と聞いた美桜は、そうかもしれないわと唇を震わせながら出雲の言葉に同意をしていた。


「陸奥ってなに? そんなところあったかしら?」


 陸奥のことを知らない加耶は、どういうことなのと知りたそうにしている。しかし今はそんなことを話している余裕はないので、出雲は美桜を連れて戦場に行くことにした。


「補給物資は持たずに、戦闘をメインにします! 行こう美桜!」

「わかったわ! 私も力になるわ!」

「期待してるよ!」


 お互いの顔を見合わせると、加耶が生きて戻ってきてねと潤んだ瞳で必ずよと言葉を発している。

 その言葉を聞くと、美桜から加耶に抱き着いて心配してくれてありがとうと耳の側で言葉を発する。出雲はその2人を見ると、美桜に怪我をさせられないなと考えていた。


「そろそろ行かないと! 準備は大丈夫?」

「制服は着ているし、大丈夫!」

「わかった! 行こう! 町の外に配達士用の馬車が待っているはずだから、それに乗って行こう!」


 そう言って加耶に見送ってもらいながら本店を後にしようとした時、美桜がそうだわと声を上げた。


「せっかく買った服も持っていくところだったわ! 加耶さんに預けるわ!」

「わ、私に!?」

「うん。帰ってきたら着るのを手伝って。そのために加耶さんに持っててほしいの」

「美桜ちゃん……わかったわ! ちゃんと預かっておくわね!」


 美桜は加耶に服の入っている紙袋を預けると、出雲と共に町の外に出て行く。

 町の外に出る前に、町中で騎士団や配達士達の焦っている姿を見て、それほどまでに劣勢なのかと感じる雰囲気を感じ取った。


「さて、外に出たね。町の人は慌てる様子もなく、いつも通りだったね。守ってくれるから安心をしているのかな?」

「それはどうかしら? 私から見れば少し緊張感があったと思うわ」

「そうなんだ。俺の目はまだまだ節穴だな」


 そんな話をしながら町の外にある馬車を探した。

 だが周囲の馬車の姿はなく、どうすればいいのか2人はその場に立っていることした出来ない。


「あれ? 馬車があるんじゃないの?」


 美桜が前に出て周囲を見渡すが、人すら見えない草原が広がっていた。

 草花が綺麗な地面に2人が立っていると、奥にある高原から左腕から血を流しながら逃げろと叫んでいる騎士が、今にも倒れそうな様相で歩いて来る。


「逃げろ! 魔物が来るぞ! まだ残っている騎士や配達士がいたら総動員して対処をしてくれ!」


 その言葉を発した騎士は、地面に倒れて気絶をしてしまった。

 美桜は小走りで駆け寄ると、出雲にかけた治癒魔法をすぐにかけようとしていた。


「助けるから! 死んじゃダメ!」


 美桜が気絶をしている騎士に両手で治癒魔法をかけ始めると、町の入り口に立っていた騎士が側にある電話で情報を伝えようとして焦っている姿が見えた。


「騎士が電話で状況を伝えているみたいだ。高原にいる騎士や配達士はまだ戦っているのか?」


 周囲を見ながら状況を整理しようとしていると、町に迫る魔物の姿が見え始める。

 まだ数体だけだが、4足歩行をして体全体に茶色の尖った装甲を纏っている魔物や、2足歩行で右手に巨大な大剣を持つ岩石の巨体の魔物が迫ってきていた。


「他の魔物は騎士や配達士が抑えているのか!? 今は俺達2人しかいない……やろう!」


 治癒をしている美桜に話しかけると、ちょうど終わったところよと言いながら立ち上がる。そして出雲の左隣に静かに立つと、前を向いていた。


「早く逃げてください! 治療は終わったので、もう大丈夫ですよ!」

「あ、ありがとう……死ぬなよ……」


倒れていた騎士は2人に感謝の言葉を言いながら武蔵に戻っていく。


「騎士はもう大丈夫だね。さ、行こう!」

「うん。戦うわ!」


 源からもらった銀光の剣を握る出雲は、迫る魔物を見据えて4足歩行の魔物から倒すことにした。

 見た目から硬い装甲を纏っているように見えるが、装甲の隙間があるのでそこに魔法を叩き込もうと決める。


「俺が近接で戦うから、魔法で後方支援をしてくれ!」

「わかったわ!」


 美桜に指示を出すと共に、出雲は迫る魔物に向けて駆け出す。

 銀光の剣の剣身に右手を添えると、剣身が赤く変化した。


「これでも受けろ! 剣炎!」


 炎属性の魔法を剣に付与をし、狙いを決めた魔物の装甲の隙間に剣を突き刺した。


「これで倒れろ!」


 隙間に入れた剣に纏わせた炎を拡散させると、魔物が装甲の隙間から炎を出しながら雄叫びを上げて地面に倒れた。出雲はすぐに別の魔物に向かうと、同じように装甲の隙間から剣を刺して倒していく。


「強いじゃない! 私は必要ないんじゃないかしら?」


 そんなことを美桜が言うと、出雲に対して岩石の魔物が大剣を出雲に振るっていた。出雲は銀光の剣で辛くも防ぐことが出来ると、背後からもう1体の岩石の魔物の大剣が迫ってきていた。


「危ない!」


 出雲に迫る大剣を防ぐために美桜は、防御魔法を展開する。


「女神の防壁!」


 その言葉と共に出雲の背後に長方形の無地な盾が出現した。

 その盾に大剣が衝突すると、鈍い金属音を響かせて出雲に迫る攻撃を防ぐことが出来た。


「危な!? 助けてくれてありがとう!」

「助けるって言ったじゃない! 2人で戦うのよ!」


 美桜は出雲の背後に駆け寄ると、目の前にいる岩石の魔物を睨みつけている。


「私も戦えるのよ? 甘く見ていていたら痛い目を見るわよ!」


 背後から聞こえる美桜の声を聞きながら、出雲は頼もしいと感じていた。

 防御魔法や聞いたことがない治療魔法を扱えるので、もしもの時の切り札になってもらいたいと考えている。


「いくよ! 無理はしないでよね!」

「私だってある程度は戦えるのよ?」


 その言葉と共に、出雲と美桜はお互いの目の前にいる岩石の魔物に向かっていく。

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