第5話 配達所本部
集合住宅を出た2人は、朝日に照らされながら商店街を歩いていた。
既に商店街には先日と同じように人通りが多く活気に溢れているようで、商店街観察しながら歩いていると、突然あれが食べたいと言う美桜の声が耳に入った。
「あれって? 何かあったの?」
右隣を歩く美桜の方向を向くと、そこにはフライドポテトを売っている店が見える。美桜はその店の前で立ち止まると、美味しそうと目を輝かせてフライドポテトを眺めていた。
「それが食べたいの? ていうかさっき食べたばかりじゃんか……」
「私のいた国にはない食べ物ばかりだから、興味が湧いてね。ちょっとくらいいいじゃない、ね?」
出雲に対して拝むような形でお願い美桜は眩い笑顔で頼んでいた。
どうしたものかと悩んでいると、買ってくれるのねと強引に出雲は手を引かれて店の前に押し出されてしまった。
「ちょ、ちょっと!? まだ買うなんて言ってないよ!?」
慌てながら買わないよと言っていると、店の店主が買ってやれよと話しかけてきた。
「いやいやいや! 食べたばかりですから!」
「彼女さんが欲しがっているんだろ? なら、買ってやるべきだ」
彼女さんと言われて戸惑うも、美桜が買ってよと眩い笑顔で頼み続けてくる。
「彼氏でしょ? 買ってよー」
(きゅ、急に彼氏でしょって、店主の言い方に乗るなよ! これは買うしかないのか……)
肩を落としながらポケットに手を入れて小銭がないか探すと何個か硬貨が指に触れる感触があり、硬貨を数枚掴んでポケットから出した。
「500セタしかないけど……」
「おう! ピッタリじゃねえか! ほら、これを受け取りな」
「ありがとうございます!」
眩い笑顔を浮かべながら、美桜は店主から長方形の紙製の箱に入っているフライドポテトを受け取った。
ちなみにセタというのは大和国で使われている通貨の単位であり、その国によって通貨の単位は違う。各国にある換金所にて使える通貨に変えることで、持っている通貨を活かすことが出来る。
「ありがとう! 優しい彼氏さん!」
「ははは……そりゃどうも……」
空笑いを浮かべ、フライドポテトを食べながら歩く美桜を追いかけると、美味しいと言いつつ商店街をキョロキョロ見ているようだった。
「まだ他にも食べるの? よくお腹に入るね」
「そうねー。私の国では魚とか野菜が主だったからね。こういう食べ物が食べたことがないのよ」
「そうなんだね。なら色々な種類の食べ物があるから、沢山食べてよ」
「ありがとう!」
「ただし、食べ過ぎには注意だからね!」
美桜は気を付けまーすと適当な返事を出雲に返していた。
「お腹壊しても知らないからね」
「その時は助けてくれるんでしょ?」
心を読まれていたのか、何かあったら助けようとしていたことがバレてしまっていたので、苦笑しつつ横を歩く美桜と共に目的地を目指す。
賑わっている道を進みながら周囲を見渡している美桜は、商店街ってここだけなのと話しかけてくる。
「ここ以外にも商店街ってあるの? 結構賑わっているから、ここ以外にあるのかと気になってね」
「そうだね……ここは南側で一番盛り上がっている場所なんだよ。北側はまた違って落ち着いた雰囲気の商店街があって、西と東にはデートや遊びで使える遊園地やおしゃれなお店が多いよ」
自身の国にはなかったであろう施設の名前や商店街の内容を聞き、目を輝かせて行きたいと何度も言っていた。
「そのうちね。とりあえず今は君のことを報告しないといけないからね。それはそのうちに連れて行くよ」
「本当よ!? 絶対だからね!」
「はいはい」
言葉を流して聞いていると、美桜が突然そうだわと声を発する。
「今度はなに? また食べたいものがあったの?」
「違うわよ! さっき、私のこと君って呼んだでしょ?」
「呼んだけど? 何かあった?」
美桜は唇に力を入れて何かを考えているように見える。
何を考えているのかと思いながら静かに歩き続けていると、美桜って呼んでと突然話しかけてきた。
「きゅ、急になに!? 美桜って呼んでってどういうこと?」
「そうよ! あんなことがあったのに少し他人行儀過ぎない? もう赤の他人じゃないでしょう?」
「刺客と戦ったけどさ、それで赤の他人じゃないって言えるものかな?」
「言えるのよ。命を懸けた戦いで戦わなくてもいいのに、私を守るために戦ってくれたんでしょう? それはもう運命よ」
運命。
そう言われた出雲はそうなのかと悩んでいた。たまたま出会ってたまたま刺客が襲ってきたから戦っただけだ。たったそれだけで、それほど早く距離が縮まるのだろうかと悩んでいた。
「まあ、君がそう言うのならそう呼ぶよ」
「また君って言った! み・お! 美桜よ!」
(し、しつこい……! はぁ……逆らったらまた長くなりそうだから、従っておくか……)
諦めた出雲は、美桜の言葉に従うことにした。
「そうするよ。ちゃんと美桜って呼ぶよ」
「それでいいのよ。私も出雲って呼ぶからね」
「おう、なんかくすぐったいな……」
頬を掻きながら照れていると、美桜が背中を叩いてシャキッとしなさいと言ってくる。出雲はごめんと言いながら共に歩いていると、商店街を抜けて静かな会社街に出た。
「急に静かになったわね。キビキビ真顔で歩いている人ばかりだわ」
「ここは会社街だからね。国の重要な施設や、それに連なる会社が多くある場所なんだ」
「国に連なる会社?」
小首を傾げている美桜に対して、暮らせばわかるよと笑顔で返答をしながら歩いていると、出雲は目指している配達所に到着をする。
大和国の首都にある配達所なのでその規模はとても大きく、会社街にあっていいのかと思う程に敷地面積が大きかった。ちなみに、出雲が暮らしているの場所は大和国首都の武蔵である。
「他の会社の10倍以上あるじゃないの! 横長の5階建てかしら? その建物が何個も建ち並んでいるし、大きなリュックサックを持った人が何十人も配達所って看板が掛けられている建物に入っていくわ」
美桜は目を大きく見開きながら配達所の外観を見渡している。
ここは大和国武蔵本店という名称であり、職員は1万人を超す規模である。ここから各場所で戦っている騎士に補給物資を届けたり、配達士が使う道具の開発なども行っている場所である。
「配達士はこの国に仕える国家職員なんだ。国の発展のために働く職員のことで、国に迫る脅威を払うことも仕事のうちなんだ」
「そうなのね。だからこれだけ人がいて、敷地も広いのね」
首を左右に動かして、配達所に入る人達を見ている。
沢山の荷物を持っている人がいるわとか、集団で固まって出てきたわなどど楽しそうに言葉を発しながら美桜は周囲を見ている。出雲はその姿を見ていると、初めて配達所に来た時のことを思い出していた。
「俺も最初はあんな風に目を輝かせていたな……」
遠くもなく近くもない日のことを思い出していると、美桜が中に入りましょうよと出雲の右手の袖を掴んで揺らしてくる。
「中も見たいんだけど? それに私に合わせたい人がいるんじゃないの?」
「あ、そうだった。ちょっと昔を思い返しててね」
「昔って、それほど生きてないでしょうに」
美桜に突っ込まれながらも、出雲は入ろうかと配達所に歩いて行く。
配達所の正面入り口の扉を静かに開けると、目の前に受付カウンターが見えた。出雲はそこに近寄ると、受付カウンターに座っている女性に所長はいますかと話しかける。
「はーい。所長ですかって、出雲君じゃない。わざわざ私に言わなくても自分で所長室に行けばいいじゃないですか」
「いいじゃないですか、加耶さん」
出雲に名前を呼ばれた加耶は、何か紙のようなものを見始める。
加耶と呼ばれた女性の名字は龍宮と言い、龍宮加耶が氏名である。加耶は耳を越す長さの艶のある茶色の髪を持ち、髪型はボブのように見える。また、いつもおしゃれをしていて目鼻立ちがハッキリしていることから綺麗なことで有名である。
「今は所長室で執務中みたいですね。今なら会えると思いますよ」
「ありがとうございます。行ってきます」
加耶に一礼をすると美桜を連れてその場を離れる。
その際に美桜もありがとうございますと言うと、加耶が口を開けて驚いていた。
「可愛い……こんなに可愛い人がいるのね……お人形さんみたい……」
加耶は美桜に見惚れてしまっているようで、その動きを止めて見つめていた。
出雲はその様子に気が付いたのか、美桜に早く行くぞとその手を握って所長室を目指す。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます