第4話 少女の言葉

「押し入れに敷布団があるから、それで寝ようか。一緒に出すから手伝って」

「はーい」


 2人で押し入れにある布団を出すと、傷がついた床に敷いていく。

 出雲は窓側に寝ることにし、少女は押し入れに沿って布団を敷いて寝ることになり、数分もかからずに布団を敷き終えると2人は静かに眠ることにした。


 眠りに入ってから数時間、静かに寝ているとどこからか声を押し殺して泣く声が聞こえてくる。

 目をゆっくりを開けながら体を起こして周囲を見渡すと、部屋の右側にあるタンスに体を預けて泣いている少女の姿が見えた。


(泣いているのか? こんな夜更けに何かを思い出したのだろうか?)


 声を押し殺してすすり泣いている姿を見ていると、少女がお母様と言葉を発する。


「お母様をあんな姿にしようと思ったわけじゃないの……あれはお兄様が仕掛けたことなの……」


(お兄様っていうのがやはり原因なのか? お父様っていう人のこともあるし、何かドロドロとした事情がありそうだな)


 少女の言葉を聞いて、何か深い闇がありそうだと想像をしていた。

 それから数分間、少女の言葉を聞いていると泣き疲れてしまったのかパタリと床に倒れて寝息を立て始める


「泣き疲れて寝ちゃったか。布団で寝ないと風邪をひくぞ?」


 優しい口調で話しかけるも、寝ている少女には聞こえていない。

 出雲は少女を抱えると優しく布団の上に寝かせることにした。


「これで暖かく眠れるだろう。明日には話を聞きださないとな」


 そう呟くと再度眠ることにした。

 これから何が起きるかわからないし、また刺客が襲ってくるかもしれないと考えると億劫な気持ちになる。

 しかし少女に関わってしまった以上、何かをしてあげたいとも思う気持ちもあるので、出来る限りのことをしてあげようと心に決めていた。


 翌日。

 出雲は多くのことを考えて寝ようとしたが、熟睡をしてしまい何かに頬を突かれた感触で目が覚めた。


「もう朝か……おはよう……」

「おはようー。もうすぐ朝ごはんが出来るからそこで待っててね」


 カチャカチャと食器を動かす音が聞こえていると、キッチンの方を見て少女が何かを作っている姿を見ていた。


「もうすぐ目玉焼きが出来るから、そこで待ってなさいね。顔でも先に洗ってきたらどう?」

「そうする」


 目を擦りながら風呂場の近くにある水道で顔を洗うと、いつの間に起きていたんだと少女のことを考えていた。


「まさか先に起きて朝食を作っていたなんてな。美味しい匂いがしたし、お腹が空いてきたな」


 顔を洗い終えた出雲はリビングに移動をすると、そこには料理を小机に置いている少女の姿が見えていた。


「さ、早く食べないと管理人さんが来ちゃうわよ? 毒なんて入れていないから安心してよ」

「う、うん。ありがとう」


(夜中に泣いていた時の姿が何だったんだ? あれもこの子の一側面なのかな)


 弱さを見せていた少女の素の姿を見てしまっているので、この目の前で喋っている姿も1つの側面なのだろうと考えることにした。


「弱さも強さか……どこかで聞いた言葉だな……」

「何か言った?」

「いや。なんでもないよ」

「そう? 冷めないうちに早く食べてね!」


 少女はウインナーや目玉焼きを作っていたようで、白米と共に置かれたその料理はとても空腹時には涎が出るほどに美味しく見える。


「私は料理が好きで結構作るのよ。もし機会があれば他にも作ってあげるわね」

「ありがとう!」


 床に座りながら出雲は木製の箸を手に持って朝食を食べ始める。

 良い焼き具合のウィンナーや目玉焼きを食べ進めると薄い味付けだが素材の味を活かしていると感じて、美味しいと言う言葉が自然と口から出ていた。


「これ凄い美味しい……今まで食べたどの料理より美味しい……」


 自然と言葉から出ていた言葉を聞いた少女は、笑顔でありがとうと返答をしていた。


「さて、食べながらで悪いんだけど、色々と教えてくれないかな?」

「そうよね。昨日、あんなことがあったんだし知りたいわよね……」


 ゆっくり食べ続けている少女が、重い口を開けて自身のことを話し始める。


「私の名前は篁美桜よ。ここから東にある島国から来たわ」

「東にある島国? そこに島国なんてあったっけ?」


 腕を組んで考えている出雲を見た美桜は、あるのよとクスクスと小さく笑う。


「濃い霧で覆われている場所だけど、島の周囲だけは晴れているのよ。都合がいい魔法ってところかしら? ちなみに、国に入った人は牢屋に入れられて処理されているらしいわ」

「処理ってどういうこと?」

「言葉通りよ。殺されているってことよ。私がそのことを知ったのはつい最近だったわ……国内で暮らしていると思っていたけどね……。外から来た人達のことを処理すると決めたのはお父様とお兄様と知った私は、お母様と共に抗議をしたわ……だけど……結果は昨日の通りよ……」


(抗議をして、それから何かをさせられて刺客に襲われたと……何かの儀式をさせられたみたいだけど、それで母親に何かがあったのかな?)


 多くのことを考えている出雲に対して、美桜は食べながら出来ることをするしかないわと言っていた。


「あ、ちなみに国の名前は陸奥と言うわ。この大和国と深い関りがあるらしいわよ」

「深い関りか……俺は知らないけど、どこかに資料とかあるのかな?」

「わからないわ。だけど、関りがあるからどこかに必ず資料があると思うわ」


 それからも2人は話しながら朝食を食べ続けていた。


「さて、食べ終えたし早く出る準備をしないとダメよね。片付けているから準備をしてちょうだい」

「はーい」


 何故か仕切り始めた美桜の言葉に従いながら、出雲は家を空ける準備を始めていた。


「急に仕切り始めたな。王女として生きてきたから、命じたり仕切るのが得意なんだろうな」


 小さく笑いながら服や道具などを集めると、仕事で使用をするリュックサックに詰めていく。リュックサック容量の半分を埋める程度しか持って行くものがなかったでの、少し落ち込んでしまう。


「これだけしか持っていくものがなかった……なんか悲しい……準備終わったよー」

「早くない!? まだ片づけ終わってないわよ!」

「服とか筆記用具類しかなくてね。あ、あとはお金を引き出す印鑑を忘れるところだった」


 危ない危ないと言いながらタンスの一番上の引き出しを開くと、そこの奥に腕を入れて印鑑を引き出した。


「これがないとお金を引き出せないや」

「そうなのね。私は引き出したことないし、言えばもらえてたからよくわからないわ」

「言えばもらえたのは王女だったからだろうね……普通は出てこないよ」


 空笑いを浮かべながら印鑑をリュックサックの中に入れると、部屋の扉が叩かれる音が聞こえてきた。ついに来たかと呟くと、そのまま扉を開けに行く。


「はーい。管理人さんですかー?」


 扉を開けるとそこには管理人の男性の姿があり、準備は終わりましたかと話しかけてきた。


「あ、終わりました。お待たせしてすみません」

「いえ、こちらの都合なので謝る必要はありませんよ。あれ? そちらの人は昨日いましたか?」


(やべ! 普通に篁さんを見せちゃった! 何か言われるかな……)


 そんな出雲の考えなど当たらなかったようで、管理人の男性はお友達ですかと特に勘ぐることなく聞いてきていた。


「あ、そうです! 一緒に片づけや整理などをしていました!」

「そうなんですね。それではこれから業者の人などが来るので、お早く」

「わかりました。さ、行こうか」


 背後にいる美桜に声をかけると、2人して部屋から出て行く。出雲はリュックサックを背負い、美桜は荷物がないので手ぶらである。

 家から出る際に美桜はここらじゃ見ないワンピースのような一枚布を纏っているので、どこか怪しい雰囲気を漂わせていた。


「フードは被らなくていいでしょ……騎士に話しかけられたら面倒だから、それは取ってね」

「そう? わかったわ」


 フードを取った美桜は、その銀髪の髪が太陽の明りに照らされてとても綺麗に輝いて見える。その綺麗な髪を見ていた出雲の視線に気が付いたのか、見過ぎよと小さく笑いながら美桜は注意をする。

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