第15話 戦闘の被害
「君は騎士か。騎士団長が騎士は一度本部に戻るようにと伝令をしていたぞ? 奥の高原にも騎士がいるのだろう? 早く連れて戻った方がいい」
「それは本当ですか!? ありがとうございます!」
仁に一礼をして騎士は高原に向けて走った。
一礼をした騎士を背後から見ている出雲は高原に残っている騎士を集めに行ったであろうと考えていると、危機は去ったであろう町の方向を向く。するとどこからか煙が発生しているのに気が付いたので、もしやと思い仁に話しかける。
「もしかして町に被害が!?」
「そうだ。食い止められなかった魔物が町に攻め入って多少だが被害が発生している。今は魔物は殲滅し終えているが、壊れた町の部分を修復している最中だな」
自分達がいる場所以外にも魔物が攻めてきたから、増援がなかったんだなと納得をした。美桜は仁に手伝わせてと言っているが、騎士団と配達士で足りているから平気だと返答をされているようである。
「そうですか……何かあったら言ってください。出雲と共に手伝います!」
「俺も!?」
「そうよ! 一緒にやるの!」
美桜に詰められてしまい、渋々了承をするしかなかった。
仁はそんな2人を見て笑っているようで、出雲は笑うなと歯を出して言う。
「おっと、こんなことをしている暇はなかった。俺は指揮を執るから町に戻る。お前達も早く家に戻りな」
その言葉を残して仁は町に戻っていく。
美桜は仁がいなくなると、守護兵が消えた場所を再度見つめていた。なんて声をかけていいのか考えていると、美桜から帰りましょうと話しかけてくる。
「もう大丈夫?」
「大丈夫よ。私は平気。ただ国を救う理由が増えただけよ」
「責任か……美桜1人で背負うことはないよ。俺もその責任を背負うからね」
「ありがとう」
眩い笑顔を向けてくる美桜。
その笑顔を見ると、自然とこちら側も笑顔になるような魅力を秘めていた。
「とりあえず家に帰ろうか。鍵をもらったっきりで行ってなかったからね」
「そういえばそうだったわ。色々あって忘れてたわ……」
美桜の声を聞いて出雲は帰ろうと町を見て言った。
その言葉を聞いた美桜は、帰りましょうと出雲の手を掴んで先を歩く。
先ほどまでとは違い家に行くと言うと途端に元気になったので、出雲は切り替えが早いなと苦笑していた。
「とりあえず行こうか。仁さんから譲り受けた家がどういう感じか気になるしね!」
「そうね。あとは加耶さんに預けた袋を受け取らないといけないわ。どうしましょう?」
「それは明日でいいんじゃない? 加耶さんなら待っててくれるさ」
「わかったわ。そうするわ」
どこか嬉しそうな美桜の顔を見ながら町に入る出雲。
美桜と出会ってから慌ただしいと思いながらもどこか嬉しいと感じているようで、毎日が楽しいなと考えていると、目の前に加耶が現れた。
美桜は突然現れた加耶に驚いており、どうしたのよと目を見開きながら話しかける。すると加耶は、涙目になりながら美桜に抱き着いてきた。
「怖い敵と戦ったって聞いて心配したよぉ! 無事でよかったぁ!」
鼻水を垂らしながら泣いている加耶を見た美桜は、その髪を優しく撫でて心配をかけてごめんねと話しかける。
加耶は心配したよと泣きながら言っており、美桜はごめんねと言い続けている。その2人を見ている出雲は、ここに美桜の居場所ができていることが嬉しいと感じていたのであった。
「よかったな美桜。ちゃんと心配してくれる友達がいることは良いことだ。大切にしてよな」
2人を見ながら俺も心配してくれる人が欲しいなと呟いた。
「何を言っているのよ。私がいるでしょう?」
「聞いていたのか……そうだね! 美桜がいればそれで充分だったね!」
「うん! 出雲は私の彼氏さんだからね!」
「彼氏!? 私は認めないわよ! 美桜ちゃんは渡さないわ!」
加耶が鋭い目つきで出雲を睨んでくる。
なぜだか敵視されたようで、唸るような声を向けてきていた。
「美桜ちゃんは渡さないわよ! 美桜ちゃんは私のモノよ!」
「いつから私は加耶の持ち物になったよの……」
苦笑をしながら美桜が加耶に言っている姿を見て、出雲はこれが平和かと微笑をしていた。
「あ、そういやこれ! ちゃんと美桜ちゃんに返すわね!」
「ありがとう! 明日もらいに行こうと思っていたわ!」
「明日といわずに、今日取りに来てくれればよかったのに!」
「ごめんね……戦闘をしたから疲れちゃって……」
空笑いをしながら謝る美桜に対して、加耶がそうだよねと言いながら抱き着くのを止めた。
「私こそごめんね……あ、どこに行こうとしていたの? 休憩をするならカフェに行こうよ」
加耶が2人に提案をすると、美桜が出雲の家に行くわよと言う。
その言葉を聞いた加耶は、ダメよと目を見開いて注意をし始める。
「若い男の家に行っちゃダメよ! 何をされるかわからないわよ! 絶対ダメ!」
首を横に勢いよく振ってダメと何度も言い始めていた。
「流石にそれはダメでしょ! 若い男女が一緒の家になんてダメよ! もっと自分を大切にして!」
「いや、でも仁さんに一緒に暮らすためって言われたから……」
「それでも美桜ちゃんは私と暮らすの! 年頃の女の子なんだから!」
美桜は加耶の剣幕に押されてしまったのか、わかったわと言ってしまった。
その言葉を発してしまった時にはもう遅く、加耶が行きましょうと手を握って歩き出してしまう。「出雲君は1人で暮らしてね! 美桜ちゃんは私と暮らすから! じゃあね!」
「ごめんね出雲ぉ……毎日家に行くからねぇ!」
それ以外にも何かを叫んでいたみたいなのだが、出雲には声が届いていなかった。
「待ってるよー! 加耶さんの家で寛いでね!」
寛いでと叫ぶと何やら美桜が叫んでいる声が聞こえたが、何を言っているのか判断はつかなかった。
「俺も家に行くか……結局独り住まいか……ま、仕方ないけどさ……」
美桜と一緒に暮らせると考えてたいのだが、加耶にダメだと言われてしまったのだから仕方がないと諦めてしまったのである。
「家具はあるって言ってたから、食材だけ買うか。戦闘が起きたけど、やっている店ってあるのかな」
町に魔物が攻めてきたので、店が空いているのか心配になっていた。
周辺地域で戦闘が起きても店が閉まることはなかったので先ほどまでは心配をしていなかったが、町に被害が出て近距離にまで魔物が迫った現状では店が閉まっているのだろうと考えるしかなかった。
「商店街に来たけど、人の声は聞こえないな……やっぱり閉まっちゃってるのかなー」
普段は明るく人の笑う声が絶えない商店街だが、目の前に広がる商店街は暗く人の声がしない重い雰囲気を漂わせていた。
「あの商店街がこうも活気がなくなるなんて……今は家で家族と一緒にいるのかな?」
普段なら家族連れや1人でいる人が誰もいないので、魔物が攻めてきた影響で家の中で過ごしているのだろうと考えることにした。
静かに商店街を見渡しながら歩いていると、1つの店から明かりが出ていることに気が付いた。その店は出雲が普段から買い物をしているパン屋であり、店主が暇そうに夜空を眺めている姿が目に入る。
「おやっさん!? 店を開いていたんだね」
「おお、お前か! 戦闘に出てたって聞いたけど、元気でよかったぞ!」
店から体を乗り出して出雲の元気な姿を見て喜んでいた。
どこから戦場に出たって情報を得たかはわからないが、パン屋の店主が喜んでいたので誰から聞いたから気にしないことにした。
「結構ヤバかったですけど、ちゃんと生きてますよ」
「お前の元気な姿を見ると、こっちも元気になるわ!」
おやっさんと他愛もない話をしていると、あの時の嬢ちゃんはどうしたんだと聞かれた。
「美桜は加耶さんって人の家に行きました。若い男と一緒に住んじゃダメって言われて渋々連れられて行きました」
「そりゃそうだな! あんなに綺麗な嬢ちゃんだ。お前に魔が差して手を出しちまうかもしれないしな!」
「そんなことしないっすよ! 俺をなんだと思ってんですか!」
パン屋の店主は大笑いをして、そういやと話しを変えた。
「ここに何をしに来たんだ? 俺の店以外閉めているぞ?」
「夕食の買い出しに来たんですけど、やっぱり全部閉めていますよねー」
肩を落としながら俺の夕食と言っていると、パン屋の店主がこれでも持ってけとパンを渡してくれた。
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