第14話 仮面の奥の素顔
「薄い見えない膜を張ったわ! これで少しは防御力が上がったはずよ!」
美桜の言葉を聞いて自身の体を触ると、確かに薄い膜が貼られていると感じた。
不思議だと膜を触ったりしながら、横に立っている騎士を見るとありがたいと小さな声で呟いている姿が見える。
「支援を感謝する! 町に被害が出る前に倒すぞ!」
「はい! 俺だって守りたい人がいるんだ!」
2人が負けないと言いながら目の前にいる刺客に向けて走り出す。
刺客は微動だに動かずに黒い剣を構えて剣身に魔力を流し始め、黒い剣身に黒いオーラが纏わりつくと剣を水平に構えて出雲達を迎え撃とうとする。
「あの剣は危ないぞ! 気を付けろ!」
「わかりました!」
騎士の指示に従い刺客の持つ剣に注意をしながら戦おうと決め、先に行きますと言いながら加速して刺客の背後に移動をした。
そして剣を下から振り上げて背中を切り裂こうとするが、その攻撃はあっさりと刺客によって防がれてしまう。
「確かに早いが、捉えられないほどではないな。ほら、こんな風に軽々と防げるぞ!」
刺客は黒い剣を背中に回して攻撃を防いでいた。
出雲は一度距離を取ると、刺客が背後を向いた瞬間を逃さずに剣を振り上げて力強く振り下ろす。
「これ以上好きにはさせない! 俺は騎士だ! 命を懸けて国民を守る義務がある!」
「それがどうした? こっちは目的だけ果たせればいい。それにお前達のいる大和国は滅ぼす対象に入っている。俺達の恨みは深いぞ!」
すぐに剣を騎士に向けた刺客は、剣を回転させて勢いよく鍔ぜり合う。
剣同士の重い金属音が出雲にまで届くと、騎士が剣を傾けて刺客の攻撃を受け流す。
「お前も来い! 一緒に攻撃をするぞ!」
その言葉を聞いた出雲は騎士と共に交互に斬りかかる。
騎士の攻撃の後に出雲が斬りかかるが、器用に攻撃を捌かれてしまう。
「くそ! こんなに2人で連撃を与えているのに!」
なおも連続で攻撃をしていると、銀光の剣から嫌な音が聞こえてきた。
だが、それでも攻撃を止めることはできないので騎士と連携をして合間を縫って斬りかかるしかなった。
数分か数十分かわからないが、連撃を浴びせていると刺客が突然叫んで全身から魔力を周囲に放出をした。その攻撃によって出雲と騎士は吹き飛ばされないように地面に剣を刺すが、迫る魔力の壁によって吹き飛ばされてしまった。
「ぐあああ! くそ!」
地面を転がってしまった出雲はすぐに起き上がって刺客を見ると、息を荒くしている様子が目に映る。
魔力を放出したせいで疲れたと思いチャンスだと駆け出そうとするが骨が軋み、痛みが全身に走ってしまう。
「がぁ!? くそ……ここで時間切れかよ……」
全身に激痛が走り、剣を手放してしまう。
ここで死ぬ。美桜を守る約束を果たせないでここで終わるのかと思い目を閉じた瞬間、目の前で重い金属音が鳴った音が耳に入った。
「諦めるなんて愚の骨頂だぞ! そこで諦めたら守りたいものも守れないぞ! お前はここで諦めるのか!?」
諦める。
一度はもう無理だと諦めてしまったが、騎士に叱咤をされて出雲はハッとした顔をする。
(そうだ……何を俺は諦めているんだ……一度決めたことを投げ出して、ここで死を受け入れるなんて……抗って抗い続けないと美桜を守れないじゃないか!)
震える腕に力を入れて顔を歪めながら立ち上がる。
一度死を覚悟してしまったので目の前にいる刺客が恐ろしい敵に感じてしまうも、後方にいる美桜を横目で見て心を奮い立たせる。
「俺は約束を守らないといけないからな! こんなところではまだ死ねない!」
「その意気だ! 男は根性だぞ!」
騎士に叱咤されて辛くも立ち上がると、騎士と共に再度攻撃をしようとした瞬間、美桜が下がってと声を上げた。
「埒が明かないわ! 私が攻撃をするからその隙に倒して!」
出雲は魔法を使うのだと思い、騎士に一度下がりましょうと声をかける。
騎士はすぐには従わなかったが、美桜の魔力を感じ取ると仕方がなく後方に下がり始めた。
「一体何をしようとしているんだ?」
「たぶん見ていればわかります! 美桜を信じてください!」
騎士は美桜というのかと何やら口から言葉を発していると、離れた場所に移動をした美桜を見ている。
騎士が美桜を見ながらあんなに美しかったのかと呟いている声が耳に入るも、出雲は特に気にすることはなかった。
「この魔法を使うわ! これで形勢が変わるといいけど!」
魔法を使うために魔力を練った美桜の体が数十センチ浮かんでいた。
その体からは銀色の神秘的な光が発せられていて、まさに女神のように見える。宙に浮かびながら女神の落涙と声を発しながら空に向かって両手を上げると、両手の上に青色の槍が10本出現した。
「この魔法を浴びなさい!」
言葉と同時に両手を刺客に向けて下げると、10本の槍が勢いよく射出された。
刺客に向けて射出された槍は勢いよく進み、側の地面に衝突をした。その威力はとても高く、周囲に轟音が鳴り響く。
「今よ! 土煙が待っている今がチャンスよ!」
美桜の言葉を聞いて出雲は銀光の剣を強く握り締めて、力を振り絞って駆け出した。これで終わらせるためにこれで美桜が平穏に過ごせると思いながら、土煙の合間から見えた刺客の腹部に剣を突き刺すことに成功した。
「な……なんだと……弱いお前がこの俺を倒すだと?」
腹部に走る激痛と地面に滴り落ちる自身の血を見た刺客は、死ぬのかと呟く。
その言葉を聞いた出雲はこれで美桜に安全が訪れると言うと、そんなわけがないだろうと刺客が笑いながら無残にも希望を打ち砕く。
「あの女を殺しに来るのは俺だけじゃない……主に命じられれば誰でも殺しに来るぞ……」
(誰でもということは、その主って人に命じられると洗脳されるということか?)
主が洗脳をすることで、誰でも命令通りに動くある種の奴隷になるということかと思っていた。すると目の前にいる刺客の仮面が縦に割れて、その素顔が露わになる。
「そ、その顔は!? まさか!?」
驚いた声を上げる美桜の声を聞き、どうしたんだと出雲は話しかけた。
「何かあったのか!? どうしたんだ!?」
「あ、あの顔は……私のいた城の守護兵の1人よ! いつも挨拶をしてくれた衛兵よ!」
驚いた顔のまま守護兵に近寄ると、どうしてこんなことをと美桜が話しかける。
「何があったの! どうして私を殺しに来たの!」
守護兵は美桜の声を聞くと、仮面が壊れてよかったですと言った。
「仮面がどうかしたの? その仮面には何かあるの?」
「この仮面は意識を塞いでしまい、王による命令に忠実に動く人形となってしまいます。その際に指定された相手に対して凄まじい恨みを持ってしまいます……」
なぜ恨みを持つのか。
美桜には何か思い当たる節があるようで、私を恨んでいるからよねと小さな声で呟く。
「私が呪いを出現させてしまったことと、お父様の期待に応えられなかったからね……」
「美桜様のせいじゃありません……今の国は狂っています……国民全員が疲弊をしています……陸奥を……民を救ってください……」
悲痛な顔をしながら守護兵は地面に倒れてしまい、塵のようにその姿が消えてしまう。地面に落ちた割れた仮面も塵のように消え去ってしまい、その場に残るものは何もなかった。
「消えてしまったわ……国は私の想像以上に危機に瀕しているみたいね……お母様達が心配だわ……」
守護兵が消えた場所で立ち尽くして美桜は涙を流していた。
出雲はすぐに美桜の肩を抱いて、一緒に国を救おうとこえをかける。
「お前達2人はあの魔物とどういう関係なんだ? 国がどうとか、聞いたことがない国名を言っていたようだが?」
騎士に話しかけられた出雲達2人は、どう答えればいいのか答えが出なかった。
お互いの顔を見合わせて答えを考えていると、町から仁が歩いて来る姿が出雲の目に入る。
「危機は去ったか? 町の周囲全体に魔物が迫って来ていたな。こちら側が一番弱い魔物が多いと聞いていたが、そうでもなかったか?」
「仁さん! 強い魔物が多かったよ! 轟音とか聞こえてきたし!」
出雲は人に詰め寄って死ぬかと思ったというと、後で話を聞くよと流されてしまった。
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